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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
アステル奪還戦

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137話 二つの因子

包囲していた監査員たちが、その周りを慎重に取り囲む。


「――呼吸、確認。

拘束、開始してください!!

危険性は、まだ排除できていません!!」


ベルクの掠れた声。

息はあった。


「……お……あ……」


指揮官の声が飛び、散開していた白装束の一団が、一斉に動き出す。






──危なかった。本当にギリギリだった。


(継承の儀式は――多分、天秤。

片方に、私の『在りたい』という意志。

片方に、ベルクの30年分の執着。

その二つを乗せて釣り合いを見る。

……本当に、際どかった。)


握った拳が震えている。

それをアステルは、もう片方の手で白くなるほど上から押さえつけていた。


「――アステル姉さん。大丈夫?」


アステルは、視線と感触で震えを確かめていた。


その手をトゥーラが覆う。

アステルが顔を上げると、トゥーラのその頬に涙が伝っている。

けれどその目は、もう道具のそれではない。


「――当たり前、です。

言ったでしょう。

まだ、消えたくない。それにトゥーラを1人にさせるわけにはいかないって。」


「……うん。姉さんが消えなくて、よかった……」


トゥーラの肩が震える。

声を殺すように、泣いていた。

アステルはその頭を優しく撫でた。



◆



「……終わったっすかね。」


「終わったでしょ!」


エルディアは詰めていた息を勢いよく吐き出すと激しくガッツポーズをしていた。

エルディアはそれから、寝台のアステルの顔面すれすれまでずいっと覗き込んだ。


「――生きてるじゃん。

おねーさん!!

うん。瞳孔も開いてない!

生存確認終わり!!」


「――ちか。

近いですエルディア。」


アステルは震える手を持ち上げ、シーツをぎゅっと握りしめた。


「……あなたのおかげ、です。」


「そんなことはないんじゃない?

おねーさんと妹、それとあのやべえ聖星獣の因子が、勝手になんとかしただけでしょ。

私はただ、隣に座ってただけ。」


「あなたが来てくれなかったら。

あなたとの戦いがなかったら、きっと継承は違う形で終わっていた。

私の戦いを見ていてくれましたか?」


「まーね。

強くなったねアステル!

それじゃ私に感謝しなよ!

ぶっちゃけ会話の中身とか途中聞き流してたし!

「アステル計画」がどうとか、「三十年前」がどうとか、「償い」がどうとか。

拗らせすぎでしょ!!

これから表彰式だよ?

ぶっちしようかなー」


「ふふ。」


エルディアは、へらっと、笑いつつ頬を掻く。

そして優しげな目でそれを思い浮かべていた。


「それにアステルのこと見てたら、ダイコンヌの事を思い出しちゃって、ちょっとしんみりしちゃったよ。」


「は、はあ……なるほど。

ダ、ダイコンヌですか……」


なんすかそれ。

大根?


言葉の途中で、アステルは呼吸を止めた。


聖星獣の声。

アステルの意識の、さらに奥。

ひとりごとのような、呟きが耳を打つ。


『……ふん。

……少し、持ってかれたな。

あの男の中に。我が身を。』


(――え。)


『気付いたか。

――案ずるな。独り言だ。』


聖星獣の声が僅かに愉快そうに歪む。


(……どういうこと?)


『エルディアとの戦いでもあっただろう。

エルディアは貴様の魔術をそっくりそのまま返してきた。

そしてそれを呼び水として、我は目覚めた。

同じものが二つ並べば目を覚ますこともある。

……それだけの話だ。』


(……同じものが、二つ……)


聖星獣の声は、それきり静かに沈んでいった。




連れられていくベルクをエルディアは見ていた。


「あいつは、しばらく監査院預かりだな。

なんせ、聖星獣因子が定着した、唯一の生きたサンプルだ。

国が、手放すわけないからな。」


アルトの言葉に、エルディアの眉がピクリとあがった。


(処刑じゃない。

星属性の適正者なんて他にいないんだから、国が手放すわけない。)


殺してしまえば、その因子ごと、二度と手に入らない。

国はそういう『価値』の前では、罪だの因縁だの簡単に二の次にする。


エルディアは腕を組んだ。


門の手前でベルクが一度だけよろめいた。

支えられまた歩き出す。


――その瞬間だけエルディアの組んだ腕に微かに力が入っていた。


エルディアの声に、珍しく翳りが混じる。


「……あの、連れられていく後ろ姿。

既視感がある。

……そうか。ダイコンヌと一緒だ。

ダイコンヌは、最後に私が食べた。

大根だったから。

ベルクは、アステルを最後まで、自分を許すための道具にして、今度は自分が道具にされる番!

これは、因果応報という点で共通しているんだ!!!!」


しめしめ。

全て整理できたと頷くエルディアに、アルトは思ったという。


(こいつのこういうとこ、マジですげえよなー)





ベルクは、霞む視界の中、ゆっくりと瞬きを繰り返した。


「変な事は考えないでください

すでに拘束は終えています。魔力そのものが練れませんよ。」


ベルクは、拘束された自分の手のひらを見た。


薄っすらとそこに青白い光の粒が、浮かんでは消えていた。


監査員の声が、遠くに聞こえていた。


(――目覚めて、しまったのか。

俺自身の星属性が。

……またこれが始まるのか。

三十年前と、同じものが。)


ベルクは目を閉じた。


(俺の中から……

今度は『彼女』ではなく『俺自身』から星が暴走する。

――また誰かを、巻き込んで……)


星の紋様が、再び彼の首元に静かに浮かぶ。

奔流が、暴れ出す。


ベルクの指が、拘束されたまま僅かに動いた。


「……エルディア」


「何よ。」


ベルクの目は伏せられていた。


「貴様は、気に食わない。

だが。

――本質は、捉えていたよ。」


「……ベルク?」


「世界を救うための実験に、なぜ、そんなぬるいことをやっていたのか。

――俺は、ずっとそれを自分に問うべきだった。

その答えが今分かった気がする。」


紋様が、また青白く浮かび上がる。


ベルクの口元が、ほんの僅かに歪んでいた。


「俺の中で、また何かが目を覚まそうとしている。

三十年前と、同じものが。」


「あんた……まさか……」


「――だが。」


ベルクは、そこで言葉を止めた。

トゥーラを、見た。

アステルを、見た。


娘たちの、涙に濡れた目を。


「……お前たちは、道具ではなかった。

それだけは、認めるよ。」


ベルクはゆっくりと目を閉じた。


拘束された指先が、ほんの微かに何かを掴もうと動く。


「……皮肉だな。

最後の最後に、認められた気がする。

だがもう遅い。」


言い終えた瞬間、ベルクの体が大きく跳ねた。


「がっ、あ……!!」


声にならない声。

喉の奥から、何かが溢れ出ようとしていた。



制御のできない奔流の中で彼は思う。


『むしろ、これが最初からの到達点だった。』


彼女のように死ぬことが。



さあ、終わりを始めよう。





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