135話 決勝後5
「リリ。」
「は、はいっす!」
「大根の話はあとで。」
「それは別にいつでもいいっす!!」
二人は同時に、光の漏れる方向――青い白い光に包まれるベルクたち視線を向けた。
ベルクは、その光の中心で、両腕を広げたまま微動だにしない。
顔には、恍惚とも焦りともつかない、歪んだ表情が張り付いていた。
エルディアの表情から、完全に緩みが消えていた。
「これは、大根は煮ると透明なる現象に似ている……!?」
「姉御!!
私もう、突っ込まないっすからね!!!!」
先頭に立っていた男――監査院の指揮官が、静かに一歩、前へ出た。
「――貴殿の身柄は、王国魔導監査院が確保する。
これ以上の抵抗は、悪質性の証明にしかならんぞ。」
拘束のための魔法陣を、紋様の光が紙のように、飲み込んでいく。
「……っ。
散開!!
予想以上にやばいかもしれん!!
包囲陣を組み直せ!!」
白装束の一団が、迷いなく散らばる。
「くっ……
これが、"アステル計画"の、本当の姿か……!!」
拡大する光に指揮官の声に、初めて、動揺が混じった。
「――確保は、中止。
対象を殲滅する!!」
悔しさを押し殺したような、短い声をも塗りつぶすように、その光は既に部屋の壁を侵食し始めていた。
「退避、退避ー!」
光がアステルとベルクを中心に広がっていく。
トゥーラは迷わず紋様の光の中へ踏み込んでいく。
「……父さん……
……私たちは、あなたにとってなんだったんですか。」
「――質問の意味がわからんな。
22。
お前は、アステルに匹敵する優れた個体だ。
それ以上でも、以下でもない。
『娘』という呼称はお前たちが、勝手にそう学習しただけだろう。
お前は、道具だ。
発言権は、ない。
俺に娘などいない。」
「……」
22の瞳から、光るものが一筋伝う。
けれど、ベルクは目もくれなかった。
アステルが、間に割り込む。
体は、まだふらついたまま。
「待ってくださいベルク……」
「……拒否するなら構わん。
どのみち俺が最初の適合者だ。
駒が、足りぬというなら――
俺自身が、次の適合体になればいい。
それだけの、話だ。
22。
そしてアステル。
お前らの代わりが要らなくなるな。喜べ。」
「……っ。」
22の拳が震える。
けれどベルクはもうこちらを見ていなかった。
「父さん!!」
「同意がないなら、下がれ。
お前まで、巻き込まれるぞ。」
「巻き込まれても、いい。
わたしは、道具じゃない!
父さんも、そうでしょう!!
ただの――父さんでいい。
それだけで、よかったのに!!!!」
紋様が、一瞬、揺らいだ。
アステルは、周囲を一瞥する。
そっとトゥーラの側へ。
ちょうど、ベルクと相対するように。
(――トゥーラ。)
アステルが声を上げようとして、喉から出たのは、掠れた息だけだった。
指先に、力が入らない。
視界の端が、白く滲む。
(継承は二つの工程を得て完遂される。
まず励起。
次に継承だ。)
継承先の相手が、22であろうと、ベルク自身であろうと、手順は変わらないはずだ。
「アステル。
貴様がそこまで姉妹思いだったとはな。
だが貴様も知っているはずだ。
お前らは培養液でここで生まれた。
本当の姉妹ではない。」
「なら、私がどう思うかは、私が決めますよベルク。
継承には同意が必要。
私も同意していません。」
「継承された因子は別だ。
そしてお前の中の因子はそれだ。」
「……」
綱引きはもう始まっていた。
「……姉さん……」
「トゥーラ。
私たちの因子は、まだ継承段階には入っていない。
ですが励起は始まっている。
このまま行ったら、綱引きに巻き込まれて、下手をすればトゥーラの方が先に持ってかれます。」
「……知ってます。
だけど。」
アステルは、笑った。
「わかってますよ。
じゃあ2人で。
分からず屋の父親に一撃かましますか。」
アステルとトゥーラ対、ベルクの綱引きが始まる




