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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
アステル奪還戦

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133/166

132話 決勝後2

「私は、まだ消えたくないです。

次の個体が、因子と完全適合するとは思えない。

それに、次の『私』がまた同じことを繰り返すだけですよ。」


「――駄目だ。

聞き入れられない。

継承は、既定の手順だ。

すぐに研究所、地下第三培養区画への移送を開始する。

アステル。もう眠れ。

起きればお前はもう、別の誰かとなっている。」


「……ベルク……いや……」


アステルからの初めての、明確な拒絶だったが、ベルクの声は、揺るがなかった。


すでに脇には、アステルと瓜二つの少女が控えていた。

感情のない瞳。

まるで道具のように。


妹だ。


彼女に見守られるようにアステルの意識は、再び闇の底へ沈んでいく。

その時、静かな声が入口から響いた。




「あ。お邪魔しまーす。

おとりこみの最中みたいだけど、どーでもいーけど、アステルを返してもらえる?」


「……エルディアか。」





歩けないのだろう。

ポチに支えられるように来てきた。


「よくぞここまで辿りついたな。

結界は何重にもあったはずだが。」


「性格悪すぎ結界なんて、障害にもならないわよ。ベルク。

私の方があなたより性格悪いから。」


「相変らず、ふざけた奴だ。

ち。

リリの手引きか。よくやる。」


「ちーす。年貢の納め時っすよベルク。」


エルディアの脇のリリが手を振っていた。


(ダンジョン権限を書き換えたな。

くやしいがリリは天才だ。

侵入者を拒む、独立したダンジョン領域だったのだが、踏破されたか……

エルディアは、先の戦いで限界だ。

奴は歩くのもやっとの様子。脅威ではない。)


──問題はリリか。


「やれやれ。よくやるな。

俺は代理戦争の結果は受け入れている。

研究の成果

魔の森の権利

王都ダンジョンの管理権。

規定通り、貴様の陣営の総取りだ。

それで貴様とは終わりだ。

アステル計画はそれとは関係ない。貴様の出る幕はない。」


「屁理屈。」


「そちらこそ勝手な、解釈だ。

報酬はわたすと言っている。

魔王様に確認を取ってもかまわない。」


「……」


ベルクの脇に控えるその少女は、そのやり取りをじっと見つめていた。

感情のない瞳のまま、ただ、指先だけが、いつのまにか固く握られていた。


「みえみえの時間稼ぎはやめるっす。ベルク。」


「そもそも、なぜ貴様らがそこまで、アステルにこだわる?

アステルは俺の陣営だ。おまえの陣営ではない。

関係ない。」


「そんな事ないわ。

だって気になるじゃない。」


エルディアは、うっとりした顔でそれを言った。


「元人間の魔族が、魔族の長たる魔王様の指示より大切なものがあるなんて、全部さらけ出してしまいたいじゃない。」


リリは完全に固まった。


始まったっす…

姉御の脱線……。


「なんだと……?」


「……いいわ。話してあげる。

なぜ私が、アステルにこだわるのか。

そしてあなたの矛盾を。」


エルディアの声のトーンが、変わった。

遠くを見るような、静かな声。


「私の故郷はね、小さな畑だったの。

土地は痩せてた。日照りも多かった。

冬も長いしね。

それでも母は、毎年、大根を育てていた。

名前はダイコンヌ。」


「……大根……?

……母……?」


ベルクの声に、初めて動揺の色が混じった。


「初めての年は、失敗したわ。

土が合わなかった。

次の年のダイコンヌも、失敗。

三年目、母はやり方を変えた。

畝の高さ、水はけ、間引きの時期――

全部、見直したの。」


「……」


「そして四年目。

ようやく、まっすぐな大根が採れた。

真っ白で、太くて、甘い大根が。

母は泣いていたわ。

『やっと、いいのが採れた』って。」


「…………」


ベルクは、完全に黙り額を抑えていた。

戦いの間合いを、完全に見失っていた。


「つまり、貴様は“大根”を救えなかった経験から、アステルを見過ごせない、と、そう言いたいのか?」


「いや、研究手順の話。

リスクがあるからといって、すぐに没にするのは、効率の手順からして正しくない。

なんで、全部同時並行で走らせて、一番良かったサンプルだけ残せさないの。

残りは全部破棄でいいじゃない。」


「扱う対象は人間だぞ。

人の心がないのか。貴様……」


「は?

ガキかよ。

やるなら生かさず殺さずでしょ。

いいじゃん世界が滅んだって。

何人死んだって。

研究結果の方が大事でしょ。

大根と一緒よ。人間の命なんて。」


味方であるはずのリリの顔から、完全に表情が消えていた。


(姉御……完全に悪役っす……)


「い、いいわけないだろう!!!

人の命と大根を同列で語るな!!!」


「今更でしょ。

似たようなもんじゃない。

リリから、あなたの研究のこと聞いた時、思ったのよ。

世界を滅ぼさないためにやる研究にしては、やり方がぬるいなって。」


沈黙が落ちた。


「……アステルの意識が戻る度に、律儀に説明して、律儀に謝って、律儀に『眠れ』なんて言う!?

相手は大根じゃないのよ!?

本当に結果だけが大事なら、そんな手間、要らないでしょ。

だって世界が滅んじゃうんだから!!」


「それは……」


「あなた、本当は、一回も”ちゃんとした効率”でやってないんじゃない?

どうせ毎回、ちゃんとアステルに説明してるんでしょ。」


ベルクの言葉が、初めて詰まった。


「……効率を語りながら、一番非効率なことを、律儀に続けてる。

そう。」


そしてエルディアはそれを言った。


「ダイコンヌのように。」




アステルが寝台の上で小さく目を開ける。


もう、大根はよくない??


「……えっと……私は消されそうなんですけど。」


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