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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
全国大会決勝戦

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131/166

130話 カウントダウン・テンセコンド

視界が忙しなく走る。


崩れた地面。

奪ったままの、アストラ・レガリア。


これまでの試合の全部。

使ったもの。

使い残したもの。


(あるはずだ。見つけるんだ。

どこかにまだ使ってない一手が。

時間はない。)


見つけろ。

ありとあらゆる、箇所から。

逆転の、一手を。


やがて。


(――見つけた。)




問いは、声にならなかった。

エルディアが、ゆっくりと、体を、起こす。


何かが変わったわけではない。

だが確かに何かが、切り替わった。


(――エルディア……。

何かを見つけた、目だ。)


――関係ない。


(何を見つけたのか。

何を切り札にしてくるのか。

――知る必要もない。

見つけたなら見つけたなりに。

仕掛けてくるなら仕掛けてくるなりに。全部、纏めて、叩き潰す。)


同化の時間はあと十秒。


体の輪郭が軋む。




エルディアがふらつきながら杖を構え直す。

口の端が引き攣るように持ち上がった。


アステルが叫ぶ。


「何をしようが、無駄です!!

今の私は今までで1番強い!!!。」


「……」


(その通りだ。


あの速度のポチを正確に穿ったさっきの一撃のあの威力。

数字で、測れるレベルじゃない。)


――何かを賭けたか、切ったね。おねーさん。

それだけの、出力だ。

いい覚悟だよ。


(――その強さは、知ってる。)


けれどエルディアは、『それ』を嫌というほど知っている。

なぜなら――それは、自分自身が今までやってきたこと事そのものだったから。


「シェイド、来て!!

――全力全開、防御全部乗せ!!」


エルディアの叫びに応え、影の奥から闇色の靄が噴き上がる。


ぶるぶるぶるぶるぶる!!!!!


アステルは、一切狙いを変えなかった。


アステルの一撃でシェイドが作り出した膜が、軋み。吸収するはずの闇が、光に、侵食されていく。


「――よくやってくれたシェイド!!!

あとで契約通り、魔力たんまりあげるからね!!!」


叫びと同時に、エルディアの足が地を蹴っていた。


シェイドが消えたその一瞬。

光が、防御を食い破るのに使った、コンマ数秒。


(欲しかったのは――この一瞬の時間だ!!

詠唱の。

そして、距離を詰めるための、わずかな時間!!)


星の残滓を纏ったアステルの瞳が、僅かに、細まった。


(――違う。

闇精霊は捨て石。

本命は、別だ。)


「そんなに証明したいなら――おねーさん!!!存分に付き合ってあげるよ!!」


エルディアの声は、笑っていた。


「これが私の存在証明だ!!!!

というか、証明するまでもなく証明され続けた逃れられない存在のあり方を教えてあげる!!!」


アステルの、思考が、一瞬、止まる。


(なんで。

なんで、その、距離で。

その、体勢で――

避けない。

防がない。

――ただ、術式を大して組まずに伸ばしてくる、その手は。)


「関係ありません!!

この距離なら、魔力を放出するだけで、勝負は決まります!!

終わらせます!!」


もう、狙いも構えもいらなかった。

聖星獣と溶け合った境界に、全ての演算領域が、破壊へと変換される。


「終わらせます!!

収束天球・終極一星《シエル・フィナーレ》!!!」


「――《精霊絶対拒絶領域《エターナル・フレンド》》!!!!!」


叫んだ瞬間、エルディアを中心に見えない壁が幾重にも重なりながら展開していく。


そして。




星の輝きが――弾かれた。



それだけではない。


正確には、少女の輪郭を覆っていた聖星獣の気配だけが弾かれた。


『――な!?

馬鹿な!!

なぜ、我が――!!』


「実況席、これは――!!」


実況が、椅子から立ち上がる。


「精霊系統の力場ごと丸ごと拒絶する結界……!!

いや、これはそんな単純な話じゃない……!!

――召喚も、

契約強化も、

憑依も、

一切、機能しない……!!

精霊に、分類される、存在すべてを、無差別に、弾く未知の術式だ……!!」


「な、なぜ、エルディア選手は、こんな……!!」


「知らんっっっ!!!!」


「見たか!!

精霊に好かれようとして開発した術式が、精霊を強制送還する術式になってしまったわたしの悲しみの大きさを!!!!」


「……は?」


観客席に一斉に間の抜けた声。


「今、それ、言う、タイミング!?」

「なんか、術式名も、『エターナル・フレンド』って、聞こえたぞ!?」

「拒絶してんのに、フレンドって、どういうことだよ!?」



因子の輪郭が、白銀の輝きを失っていく。

星の光が、アステルの体から剥がれ落ちるように消えていく。


『――ば、馬鹿な……

我がこんなしょうもない術式に……!!』


「悪いけど、精霊ならみんな弾く。

好きも嫌いも強さも伝説も関係ない。

私の体質はガチだ。

故に効果も、間違いなくガチだ。」


荒い息の合間に続ける。


「あんたら、まじでどんだけ私のこと嫌いなのよ……ったく。

それに。

同化してる今なら、『契約』の話にもなる。」


『――!!』


「『高速省略型《クイック》・条件提示式《ショートカット》・最低限相互利益契約《バーゲニング》』

因子の完全顕現は、契約終了条件の一つだよね。

今のあなたたちの状態は、どう見ても『完全顕現』でしょ。」


「……っ」


「精霊は、弾かれた。

顕現条件は、満たされた。

契約、終了。

名義も、負荷も――ぜんぶそっちに戻る。」


星の輝きが完全に剥がれ落ちる。


支えを失った天球演算領域の負荷が一気に、聖星獣へと、逆流していく。


『ぐ、ああああああ!!』


悲鳴が、闘技場に、響き渡った。


『貴様――!!

まさか、全てねらっていたとでも――!?!?』


「悪いね!!

思いついたのはさっきだ!!

契約書は隅々まで次からはよんどくように!!」



アステルの、体から力が抜け、ふらりと傾ぐ。


嘘みたいに、軽かった。

ずっと、肩に食い込んでいたはずの重さが――ない。


(――抜けた?

私の、負荷が――

いや、違う。

『最初』から。

これは、私の重さじゃ、なかった。)


「……エルディア……

これが……

あなたの最後の一手……?」


「顕現の為の負荷の本来の持ち主は聖星獣だ。

契約が切れた以上、その負荷はアステルではなく聖星獣自身が背負うのが筋!!!

社会の寄生者は滅する!!!」


アステルは思ったという。


──どの口がいうんだ。


「ふふん。

そして見たか。

この泥沼を這いずり回った末に出した、私の究極の一手を。

おねーさんもなかなかだったけど、先の見えない中で這いずり回った経験は、私に1日の長がある。

そこが勝負を分けた。」


エルディアが、へろへろと、頷く。


「これが私の、一番古い黒歴史だ!!!

村の人が全員が契約できるはずの精霊に嫌われた!!!

どんなしょっぺえ精霊にすら嫌われた!!

体質で!!!

何度も!!!

これが私の存在証明!!!

星精霊すらその例に漏れない!!証明終了だ!!!

ばっきゃろーー!!!!」


「――ふふ。」


アステルが、崩れ落ちながら小さく笑った。


「あなたと戦えて、良かった。

あなたと戦えて、初めて私は私に……

本当に苦しいけど、それでも……

全部、そう、でした。

まるであなたの人生そのものを鈍器でを叩きつけてくるような……」


「……」


「――エルディア。

わたしは、わたしでしたか?」


「2度とたたかいたくねー」


「ふふ……」


言葉は続かなかった。


(――あ。)


『――アステル!!』


聖星獣の、声が遠くで響く。


ドサリ、と。


音を立てて、アステルは地面に崩れ落ちた。


会場が、静まり返る。


「……あ、アステル選手、ダウン!!」


実況が我に返ったように叫ぶ。


「魔力完全枯渇……!!

意識、なし!!

これは――」


審判が駆け寄り、アステルの容態を確認する。

短く旗が掲げられた。


「――勝者、エルディア選手!!」





エルディアは、ポチの背の上で崩れ落ちたアステルの方をちらりと見る。


「……勝った……」


声に、力はなかった。


「化け物すぎる……

まじで、しんど……

どんだけ化け物なのかっての……」


そのまま、ポチの、毛並みに、突っ伏す。


死ぬ。





医務室へと運ばれていく、アステルの意識の奥。


まだ、微かに繋がったまま。


聖星獣の、声が静かに響いていた。

呟きは、けれどどこか優しかった。


『……愚かな、女だ。

貴様は、貴様として――ここに、いた。

それだけに残念だ。

貴様は終わりだ。アステル』


継承はすぐに行われる。


……それでも


それでもいいんだ。


アステルの意識はそこで完全に途切れた。






「……ポチ、悪いんだけど、このまま、医務室まで……運んで、くれる……?」


くぅん。


最後の延長戦だ。


アステルを救うよ。

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