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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
全国大会決勝戦

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129/168

128話 アストラルオーブ3

さあ、地獄のチキンレースの始まりだ。


エルディアが、指先で虚空をなぞる。星の一つが、彼女の指に応じてわずかに瞬いた。


「この星、一個一個がね。誰が演算していいかっていう、使用権なの。

おねーさんの星は、おねーさんの魔力で動いてる。

だから増やせば増やすほど、おねーさんが削れる。

さっきのあなたと契約したときに盛り込んだの。

魔力に目をくらんで、契約を全部読まなかったのは失敗だったね。」


『……』


「アステルの星は、名義だけ私になってる。

契約は一時的なもの。大勢には影響ない。

だけど、その負債は、アステルだ。

そして、戦闘中の現在、明らかに領域魔術とあなたの顕現でコストオーバー。

そこに私の魔力運用まで加わるんだ。

一時的なものだとはいえ、先につぶれるのはどっちかな?」


エルディアは、満天の星空を見上げた。

その表情は、どこまでも真剣だった。


「私はね、ずっと考えてたんだ」


『何を……』


「どうして、才能のある人間は、才能を磨くために自分の資産を使わなきゃいけないんだろうって。

どうして、強い魔術師は、強くなるほど自分の魔力を消費するんだろう

どうして、研究者は研究するほどお金が無くなるんだろう。

どうして、働けば働くほど生活が苦しくなるんだろう」


『いや、それはこの戦いと何の関係が――』


「だから、全部、他人に払わせることにしました。

アステルに。

私はいざとなったら借りる

盗む

拾う

騙す

使い潰す

そしてどんな手を使っても勝つ」


『貴様のそれは自分で資産を使っているんじゃなくて、社会構造に寄生しているだけだ!?!?』


「寄生虫は宿主より強くなればいい

私は永遠に借りる側でいる。絶対に返さない」


『くっ!!こいつ!!!』


マジで最悪だ!!



◆


聖星獣が、音もなく動いた。

地を這うように伸びた影が、伏せたアステルの上に落ちる。


『……ここまでだな。』


(優秀な器だが、限界だ。

器を無下に殺すことは本意ではない。)


だが。


『……立つのか。

その、状態で。』


聖星獣が、意外そうに見下ろす中で、アステルは底知れない瞳をたたえている。


「そりゃ立ちますよ。

私は、証明しなければならないので」


「証明?」


「私が――ここにいることを。」


聖星獣は、しばらく、沈黙していた。

そして、短く――


『……愚かな。

貴様が、証明したところで何も変わらぬ。

我が、この身を保つ限り――貴様は遠からず潰れる。

器が壊れれば次の器だ。貴様は処理される。『姉』たちのように。』


「関係ない。」


『……』


「関係ないですよね。そんな事。

どうでもよくなんかない。

私自身、ずっと『それに』無関心でいようとした。

私自身が、ずっと私のことなんてどうでもいいって思ってきました。

負けたら仕方ない。次がある。

ようやくわかりました。

次なんてないんだ。」


震えは止まらない。

指先も、呼吸も、何もかも思い通りにならないとしとも、それらを振り払うように顔をあげる。


『……久方ぶりに、輪郭を得た。

それを手放したくない。そう思っていた。だが。』


視線が、初めて真っ直ぐにアステルへ注がれる。


『我の都合で、貴様が消えるのは、道理に合わぬな。』


「……」


『エルディアとの契約の一部を我に引き戻す。

貴様の器を借りる負荷、その分だけ我が負おう。』


聖星獣が、指先を宙に走らせた。


『我は、我の輪郭を保つために貴様の魔力を使っている。

ならばその、使用権を返上しよう。

この戦いのうちくらいは、我自身の力だけで、この身は保つだろう。』


星々の、瞬きが僅かに乱れる。

天球演算領域の、負荷が一部が聖星獣自身へと流れ込んでいく。


アステルは、僅かに目を見開いていた。


「……なぜ」


『――人形風情がぬかしたな。

証明すると。次などないと。

そしてよく知る目を見た。

その目を見てしまった以上――我にも都合がある。』


短くそれだけを告げると。

聖星獣は、僅かに目を伏せた。

かすかな、痛みが、滲んでいた。


「あー、『それ』、契約違反だよ。

困るなあ。勝手なことされると。」


エルディアの声が、静かに割り込んだ。

聖星獣の輪郭が、びくりと震える。


『……何?』


「さっきの、契約書。

名義の返上は条項に入れてないよね。

あなたの都合で勝手に書き換えられると思った?」


エルディアが、指をパチンと鳴らす。


聖星獣が引き戻そうとした負荷が、再び天球全域を、駆け巡りアステルへと逆流していく。


「――!!」


アステルの体が、再び大きくよろめいた。


『貴様――!!』


聖星獣の瞳に初めて、明確な怒りが灯った。


『我は貴様の魔力を譲渡され、顕現した。

契約はそこまでのはずだ。

貴様に都合の良い契約など――』


「違うね。

そもそも契約履行の途中だ。

自動終了は、あなたが完全に顕現するか、アステルの戦闘不能か、死亡以外ないって契約だから。

意外と契約違反にはうるさい方だから。

私って」


エルディアが、にっこりと笑う。


『――この小娘が!!!!

本当に死にたいようだな!!!!』


聖星獣の絶叫が、闘技場に響き渡った。


『返せ!!

我が貸したのは、私が顕現するためだ!!

アステルを、殺すためではない!!』


「知らないよそんなの。

契約書に、書いてないもん。」


『――この期に、及んで!!』


「それに私ら。

さっきまで一緒におねーさんをいじめてた仲じゃん。

私は意識的に。

あなたは無意識的に。」


『この痴れ者──』


「ぐ……」


『……っ!?』


エルディアの挑発に聖星獣が力を込めようとするが、アステルの負荷が高まり、その手を止める。


聖星獣が負荷を再び、自分の側へ引き戻そうと、星々が激しく瞬き軋む。


天球全域が、軋んだ悲鳴を上げる。


星の名義を負おうとするもの。

使用権からそれを許さないもの。

その負荷の所在を請け負うもの。


三者の間で目に見えない綱引きが始まっていた。



エルディアの鼻から一筋、赤いものが伝った。


『――ほう。

貴様も、無傷ではないと見える。』


「別に。

これくらい、想定内」


『――ならば、このまま引き摺り出すまで。

 我と貴様、どちらが先に潰れるか試してやろう。』


聖星獣が、さらに力を込め、星々の軋みが増していく。

天球全体が、悲鳴のような光を放つ。


エルディアが袖口で、鼻血を無造作に拭う。


(――こんなの、綱引きのうちに、入らない。)


「――っ、ぐ……!!」


関係ない。

勝つんだ。


(もう嫌なんだ。

誰も死なないで冬を越えるんだ――)


引くもんか。


体が軋み、内側から引きちぎれそうな、感覚。

目から血が伝い、腕の皮膚の下で毛細血管が次々と潰れていく。


(くそ。

まじで、重い!!

演算量が、想定をかなり超えてる……

名義を繋ぎ止めるだけで、負荷が跳ね返ってくるんだけど……

「アステルの中身」がやばすぎる!!)


「シェイドきなさい!!!!

虚数領域、展開――演算領域を拡張して!!!」


声に応じて、星々の更に奥。黒の領域がこじ開けられていく。


「《魔力位相同期網《マギア・フェイズ・ネットワーク》》!!

ダンジョン魔力全ツッパだ!!!!」


杖を勢いよく振ると、さらに負荷が上乗せされる。

天球演算領域が悲鳴を上げた。


「《刻印全解放《フルリリース》》!!!

全身の刻印魔術、一〇〇〇を全部起動!!!」


肌に刻まれた無数の紋様が、一斉に輝きを放つ。


これしきの、負荷。

これしきの、綱引き。


(――全部知ったことか。

もっとひどい綱引きを知ってるんだ!!!)


雪に埋もれた、村。

凍りついた、井戸。

薪が尽きて、それでも誰かが暖を取らなければならなかった夜。


一人で、何とかしようと思って。

一人で、泣きながらインフラ工事をして、


そして冬を越えるだけなのに、どれだけの人間が死んだと思っている。


もう、嫌なんだ。



聖星獣の瞳が、僅かに揺れた。


『貴様……なぜ、そこまで――』


「知らなくていい。

あなたには関係ない

私は引かない。

何を賭けても。

――何を、失っても勝つんだ。」


天球全域が軋み、悲鳴を上げ続ける。

三者の綱引きは、なおも拮抗したまま――終わりを見せなかった。

アステルが震える両手を――ゆっくりと掲げた。


「……卑怯だなんて、言いませんよね。

あなたが、散々、やっていたことです」」


「――え?」


杖のない、アステルのその両手に魔力が集束していく。

制御を、失いかけている天球演算領域の有り余る負荷ごと。

聖星獣から逆流してくる力ごと。

エルディアが引きずり出そうとしている、演算量ごと。


アステルの頭上で光が収束する。

制御を超えた密度で。


全部を巻き込んで。


「言っておきますが

制御は、できません

みんな、まとめて私ごと吹っ飛ばします!

誰が、生き残りますかね!!」


『――正気か!!』


「ちっ──!!」


エルディアが、初めて舌打ちをこぼした。


(――おねーさんが覚悟を決めた!)


聖星獣も、引くに引けない。

名義を手放せば、アステルは即座にコストオーバーで潰れる。

だがこのまま押し切れば――光が全てまとめて、吹き飛ばす。


『貴様、それでは自分も死ぬぞ!!』


「知ってます!!」


アステルは、視線はまっすぐエルディアへと向いていた。


「証明するのに生きてる必要はない。

でしょ?エルディア。」


エルディアの、指先が――僅かに、止まった。


光が、限界を超えて膨張していく。

天球全域が、悲鳴を上げる。


「――っ」


三者は誰も退かなかった。


退けなかった。


星々が、最後の瞬きを放つ。




『封神八十七式烈光流星乱舞《ガンマ・レイ》』

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