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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
全国大会決勝戦

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126話 アストラルオーブ

満天の星空が、闘技場の上に広がっていく。


同時にファンシーなエルディアの夢幻百貨店《ファンシー・ショッピングモール》がきしみ、キャンディの柱から、色が剥がれ落ちていく。


領域魔術による、他領域への侵食だ。


『――星矢《レイ》。』


アステル自身の声が多重に響く。


夜空全体から、光の矢が降り注ぐ。

星の数だけ。


「な――!!」


十体のミノタウロス・オメガが、突撃の姿勢のまま、光に貫かれていく。


「――星から放たれる、レイ……!!

今まで単発だった技が、宙に浮かぶ星から同時に打ち出されています!!」


エルディアは構わず杖を振る。


「――その程度ではオメガは止まらないよ。

アンデッドだから。」


十体のミノタウロス・オメガ。

星の雨を辛うじて耐えきった巨躯たちが、次の突撃の姿勢に入ろうとする。


だが動かなかった。


「……?」


一体が足を上げようとして上がらない。

もう一体が斧を振ろうとして振れない。


まるで、その場に縫い止められたかのように。


『――重力は演算対象です。』


アステルはその声に、抑揚をつけなかった。


「――!!」


十体の巨躯が、次々と地面にめり込んでいく。

自重に押し潰されるように。


逆に今度は、アステルに肉薄していた10体目のミノタウロス・オメガが、宙へと浮かび上がり、地面へと叩きつけられていた。


「――私がここにいる限り、ここはもう闘技場ではない。

ここは星と私の支配する空そのもの。

――『上』も『下』も私が決める。」





実況席が、絶叫する。


「じゅ、重力の方向まで操作!?

これはもはや、術式というより物理法則そのものの書き換えでは……!!」


「星の位置が変われば、重力の方向も変わるということなのだろう。

理屈の上ではわかるが……!?」




(アンデッドである以上、多少の欠損は許容範囲……

だけど、どれだけの魔力があればこれだけの領域が組めるんだろう。

怖気がする。)


エルディアは戦慄していたが、とはいえ杖を振る手に澱みはない。


杖先が宙を叩き斬るように振り下ろされた。


「起きろ。

オメガ達。

できないなら殺す。」


ぶ、ぶもお


衝突の衝撃でボロボロになりながらもミノタウロス達は、供給された魔力と命令に従い起き上がる。


実況が声を荒げる。


「ボロボロのはずのミノタウロス・オメガが、まだ立ち上がる……!

魔力による強制起動なのか!?!?」


「痛覚も疲労も度外視した、エルディア選手からの命令への絶対服従。

もはや生物としての反応ではない。これがアンデッドの強みだ。」



アステルは、ただ自らが編んだ「星の空」を見上げていた。


十体のミノタウロスが、横向きの新しい「下」に向かって、次々と体勢を崩していく。

まるで、彼女たちの足元だけ、世界の法則が入れ替わったかのように。



エルディアは風切り音がするくらい激しく杖を一周させると、手早く四方へ向けて指示を示す。


(単純な出力じゃ、相手にならない……

勝てないなら、条件を崩す。

おねーさんの術式、絶対どこかに隙があるはず。

『範囲』か、『燃費』か、『集中』か……

……ま、答えは、もう決まってるんだけどね。)


オメガ二体が、左右から大きく迂回するように動き出す。

一体は天球の光の届く、際どい位置。

一体は外周。

外周側は重力にとらわれない。


三体目。

別方向から。


三体とも、最終的に重力に押し潰され地面にめり込む様子に、エルディアはほんの僅かに目を細めた。


(えぐ。

どれだけの魔力があんだよ。

やばすぎる。

けど、反応遅延は、コンマ数秒ってとこか。)


ま、いけるかな。


「さすがおねーさん。

すごい重力操作と術式精度だ。」


「そうでもないですよ。

私も初めて扱う術式なので、どこまでできるのか完全にはわかっていません。

ですけど、今の私にならできる気がしています。」


「そ。

だから足元すくわれるんだ。」


「――!!」


エルディアは、ほんの少しだけ口角を上げていた。

アステルが、慌てて視線を巡らせる。

天球の端。

星々の光が届かない境界線。


そこに――闇の裂け目があった。


アステルの背後。

内緒で追加に召喚しておいたミノタウロス・オメガの一体が闇から飛び出し、肉薄する。


不意打ちだ。


「甘いですよ、エルディア。」


闇から飛び出したオメガの身体が空中で唐突に止り、次の瞬間凄まじい重力に叩き落とされる。


エルディアは構わず、杖を片手で振り払うように振る。

さらに今度は瓦礫の裏、地に伏していたオメガの一体を、また立ち上がらせる。


「起きろ。

もう一暴れだ。」


星の演算が届いていない、僅かな死角。

そこにファンシーな色が滲んでいるのをアステルは視界の隅で捉える。

手にいつの間にか汗がにじんでいる。


(――外縁ではなく、かなり近距離まで領域に侵食されてる!

なぜ!?!?

放っておけば、また庭にされる……!!)


「範囲の外を突かれたなら、範囲をもっと広げればいいだけの話。

――っ、」


先ほどまで死角だった瓦礫の裏側にまで、光が届き始めた。

そしてアステルの体が僅かによろめいた。


「おねーさんの、術式――『見えている』が条件なんでしょ。

演算できる範囲内が、視界外だとぐっと落ちるよ。

熟練度不足だね。」


「――ぐ……!!」


杖のない両手が僅かに震え始めていた。


(『範囲』は、広げれば広げるほど有利なはずなのに。

なんで、こんなに削れて――)


エルディアは、それを見て攻撃の手を止めた。

杖を下げている。


「……攻撃をしないんですか。」


「別に。

このまま待ってても良さそうだからね。

さっき自分で言ってたし。」


「それならそれで構いませんよ。

あなたの領域を食い潰します。

そうなれば術式軽減効果も消える。」


「『初めて使う術で、どこまでできるか、完全にはわかっていない』。

よーは、何かを使う前の見積もりも甘いんだよ。おねーさん。

目論みどーりにいくかな?」


さらに一体、付近に出現したオメガを星の矢で串刺しにする。


(また……?)


アステルの視線が、オメガの出現した場所へ向かう。


(待って。

今のはどこから出てきた?)


「――!?

まさか地下から!?!?」


「そういうこと。

私は地下から、おねーさんの領域を侵食してる。おねーさんは空から。

お互い食い合ってるんだからそりゃ、消耗するでしょ?

それにさ、気づいてないとでも思った?

手が震えてるよね」


そしてアステルの鼻が血が流れる


「ほら。」


「……」


「範囲を広げるということは、演算する星の数を増やすということ。

より多くの位置情報を、より広い範囲で。

なら私は自分の術式に押しつぶされるおねーさんを待つだけ。

言っとくけどオメガはまだいるよ。後15匹ほど。

どこから出そうかな。」


エルディアが不敵に笑う。


図星だった。

アステルの、額から汗が幾筋も流れ落ちる。


天球の星々の瞬きが僅かに乱れ始めていた。


「卑怯、な……」


「卑怯?

誉め言葉でしょ。

勝てば官軍。それに――」


エルディアの目が、僅かに細まる。


「そういうのなんていうか知ってる?

魔術に使われてるって言うんだ。」


「……っ。」


アステルの瞳が揺れる。


天球演算領域は、なおも拡大を続けていた。

けれどその代償は加速度的に、アステル自身の体を蝕んでいく。

アステルは片手を地面に突き、辛うじて体を支えた。


「別にいいと思うんだ。

高価な魔術具

高出力の演算領域

魔力

才能

それ自体は別にいい。」


「……」


「資源は使うもの。

使われて、ふりまわされるものじゃない。

わたしは案山子でも、嘘でも、なんでも使う。

いよいよなら法律も、守らない。」


観客席から、ぽつりと声が上がった。


「……いや、そこは守れ」

「開き直り方が悪役のそれ」


アステルは、杖のない両手を静かに拳を握る。


「――なるほど。

ですが、もう戯言には惑わされません

……才能も道具も与えられたものだとして。

それを磨いたのは私自身です。」


「……まあ、戯言も馬鹿にしたものではないんだけどね。」


エルディアは、既に動いていた。


――遡ること、数瞬前。




問答の合間。

エルディアの指先に紋様が走り、紋様が因子の輪郭に直接触れ、三段階の術式が瞬時に重なり、発動していた。


エルディアの意識が、アステルの術式構造を突き抜け、見える世界が反転する。


(へえ、ここがアステルの中か。)

──見つけた。




無数の星が爆縮したような空間の中で彼女はうずくまっていた。


(リリの言ってた通りだ。

聖星獣と呼ばれる精霊を、アステルは飼っている。

それは獣と呼ばれているが、本質は精霊に近い。)


30年程前に、王都をぶっ潰したらしい。




『高速省略型《クイック》・条件提示式《ショートカット》・最低限相互利益契約《バーゲニング》』


対話の順序

礼儀

詠唱

全部すっ飛ばす。

必要なのは、ただ一つ。

「取引が成立するか、しないか」を、最速で突きつける。



シェイドと契約したあの時も、こうやって無理やり対話の席に着かせた。



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