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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
全国大会決勝戦

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124話 アステル4

視界の端で、崩れた瓦礫が次々とぬいぐるみのような質感に変わっていく。

瓦礫だった柱は、キャンディの棒に。

崩落した地面の亀裂からは、パステルカラーのリボンが覗いていた。


観客席が、ざわめく。


「なんだこの空間!!」

「柱がキャンディになってる!!」

「地面から花が生えてきた!!」


実況席、完全に思考が追いついていなかった。


「……魔術師のダンジョン……?」

……つまりエルディア選手は、高位な魔術師と何らかの接点がある……?」


「い、いや、それより、『ファンシーになる』とは、一体、どういう――

いや、待ってください!!アステル選手!! 服が!! 服の端がフリルになってます!!」


「はい!?」


アステルが自分の恰好をみて声をあげる。

エルディアだけが、その変貌していく戦場の中心で平然と立っていた。


「――さて。」


杖を、構え直す。


「ここからは、私の、庭みたいなもんだから。

サキュエラの姿も見つけたし、リリはうまくやってみたいだね。」




サキュエラが観客席で元気に手を振っている。

アステルに対して、必死に暴論かましている最中に見つけた。


だとしても、《魔力位相同期網《マギア・フェイズ・ネットワーク》》で魔術を同期するにも時間がかかる。

とにかく時間が必要だった。

だがそれもアステルがちょろいおかげでなんとかなった。


ここからは私のターンだ。

もう渡さない。



アステルはまだ動けずにいた。


自分の足元。

崩れていたはずの闘技場の残骸が、うさぎの形をしたクッションに変わっていく。

自分の纏う星の魔力の輝きすら、どこかキラキラとした星型のスパンコールのように変質しはじめていた。



「一応伝えておくよ。

この夢幻百貨店《ファンシー・ショッピングモール》の制限時間は、領域内のファンシーグッズが攻撃によって全損するまでだ!!」


「……ファンシーグッズが、全損……?」


アステルが、呆然と繰り返す。

観客席は、もはやツッコむ気力すら失っていた。


「……もう、何も言えねえ」

「スケールがどこかおかしい」

「ファンシーグッズの耐久が試合の制限時間って何」


実況席が逆に妙な冷静さを取り戻していた。


「――サクリファス型の、領域魔術効果ですね!!」


「……え?」


「あの、術式構造。

おそらく、対象や領域へのダメージを、領域内のオブジェクトに代償として肩代わりさせるものと思われます。」


解説が真剣な声で続けた。


「ああ。

しかも領域全てに影響があるとなると――相当な、高等技術だぞ!!」



「え、待って、急に、まともな解説はじまったぞ」

「今更、正気に戻るの、逆に、怖い」

「ぬいぐるみとキャンディの柱見ながら真面目に解説すんな」


アステルの表情が、変わった。

驚きではなく警戒。


「……つまり。この空間が、保つ限り――あなたは。」


「そう。

この空間が持つ限り、リリの虎の子のファンシーグッズが壊れ続ける。

より罪を重ねる事ができる。」


説明にはなっていないが、エルディアが不敵に笑う。





「――《彗星強襲《メテオダイブ》》!!」


アステルが叫び跳ぶ。


星の力が体を包み込み、隕石と化して突撃するはずだった。


纏っているはずの殺意に満ちた星の輝きが、淡いパステルピンクに変わり、突撃の軌道にはキラキラとした星型の紙吹雪が舞っていた。


着地の衝撃のはずが、まるでクッションに飛び込むような、ふわふわとした感触。


「なー!!」


必殺のメテオダイブが非常に。

非常にファンシーになっていた。



実況席もたまらず実況した。


「――こ、これは!!

必殺技の決定力が大幅に削がれています!!

まさか、攻撃属性の術式まで空間補正の対象に……!!




アステルは、ふわふわの着地の中で呆然と自分の手を見つめていた。


「……なんでこんな可愛く……」


「理解したみたいだね。

威力も、装備も、雰囲気も、全部、私の、思うまま。

なぜなら形見だから。」


エルディアが、涼しい顔で、答える。


「卑怯です!!

それに形見はもう関係ないでしょそれ!!」


「――ちなみに、私の魔術の威力はそのまま。

さあ、年増でありながらファンシーにはまった、『やつ』の沼に沈むがいい。」




「……え?」


理解が追いつかない。

全部、ファンシーになっている。

柱も、瓦礫も、自分の技も、纏う魔力の色すら。それなら、当然攻撃も――


答えより先に、気配が、動いた。


背後。

狼のぬいぐるみのような姿に変わった、黒霊暴食狼《ドレッドウルフ・ノワール》。

その愛らしい見た目からは、想像もつかない速度で跳躍する。


巨大な獣の一撃が、アステルの防御の隙間を正確に貫く。


衝撃波が、ファンシーな空間を抉る。

パステルカラーの瓦礫が四方に舞い散った。


「な――

あ――ぐ……!!」


アステルの体が大きく吹き飛ばされる。


観客席が息を呑んだ。


「……見た目だけ、ファンシーで、威力はそのままって、そういうことかよ!!」

「やべえ、これ、詐欺だろ!!」

「油断させる為だけの空間だったのか!!」


実況席も声を震わせる。


「な、なんという――!!

空間全体の印象操作に過ぎなかったということですか!!」


「対戦相手を視覚的に油断させる。

たったそれだけの目的で、あそこまでの規模の術式を……!!」


「恐ろしい相手です……!!」


ファンシーな瓦礫の中、アステルが片膝を突く。


「……騙されました。また……

さっきから……なにこれ……あまりにあほすぎる……

戦ってる気がしない……!!」




エルディアが片手を掲げる。


「ついでだ。お返しするよ。

さっきの『封神八十七式烈光流星乱舞《ガンマ・レイ》。

――イビルゲートの、中に、あるんだ。」


またアステルは、固まった。


「――は?」



エルディアが掲げた片手の先。

イビルゲートの闇の中から――光が、滲み出してくる。


見覚えのある、光。


「な、なんで――

封神八十七式が、まだ、消えて――」


「消えてないよ。

食っただけ。

イビルゲートは吸収した攻撃をそのまま貯蔵できる。

別に消化とかそういう機能はないから。

食べたものはそのまま出てくる。」


「そんな、都合のいい門が――」


「あるんだよ、これが。

名乗っておこうか。

『――イビルゲート・返送《リターン・トゥ・センダー》』。

――くらえ。おねーさん自身の裁き。」


門から溢れ出す光は、もう白銀の裁きの色ではない。


パステルピンクとラベンダーが、混ざり合った、淡い輝きが数千の星槍となり闘技場を洗った。





なんとか、防御に成功したアステルは膝をついていた。


──さっきから、何!?

本当になんなんですか!?!?

何をやってくるか本当に予測がつかない!?!?



「続けるよ。おねーさん。

悪いけど、手を緩めるつもりはない。

油断したらやられるのはこっちだ。

全力で仕留める。」


エルディアがさらに追撃の魔術式を立ち上げる。

今大会、幾度となく観客の目にさらされたネクロマンスの術式。


誰かが言った。

「数が……」


無数に。


「召喚。ミノタウロス・オメガ×10」





アステルはエルディアの表情を見る。


その表情は笑っているが、目は一切笑っていない。


(これが戦い?

……戦いとは呼べはしない。

だけど、これがあなたの全力。

どんな手を使っても勝利をもぎ取るために盤面を進めていくということ。)


──今度は物量。


もはやエルディアの先ほどの魔力枯渇のくだりが、本当に演技のように思えてくる。

今度は魔力総量で押し切ろうとしてくる。




──想像したものとは違うのかもしれないけど、これが戦いなのかもしれない。


アステルは、杖を握りしめた。


確かに今までの戦いとはまるで違うのだから。


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