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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
全国大会決勝戦

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120/169

119話 大将戦

「試合後のお店は何がいいかなー。

唐揚げかなー、それとも……」


「…………」


エルディアの言葉に、相対するアステルが緊張を感じさせない声音で言う。


「……極度の緊張による感情遮断ですか?

仲間たちの想いを背負い続けたから、あまりの重圧に、ついには空腹しか感じられなくなったとか。」


「違うよ、おねーさん。

普通にお腹空いてる。

負けたアルトを誘ってご飯でも食べに行こうかなと。

おねーさんに負けて凹んでるだろーし」


「その意気です。せいぜい足掻いてくださいね。」


アステルは杖を握り直す。


掌に伝わる汗の感触。

鼓動が速い。


これは「楽しみ」か。


(自分の事のはずなのに、一拍おかなければならない。

皮膚の下を巡る血の熱さえ、作られた借り物のように感じられる。

私は欠落している……)


奇妙なほど、この試合の重さから少しだけ自由なのは共通していた。


──やはりそうだ。あなたと私はどこか似ている。


かくして全国大会決勝戦、大将戦が始まった。


欠落か。

強さか。


どちらが生き残るかは、結果が導き出すであろう。



◆



──領域魔術。

「『戦術迷宮《タクティカル・ラビリンス》・冥府耕作結界《ラストハーベスト》』」


地面がまた軋む音を立て、案山子が一体また一体と地の底から湧き出てくる。


──いつもより、少し声が硬いか。

詠唱を紡ぎながら、エルディアは自分でも少し驚いていた。


腹の底がすとんと冷たかった。

案山子を睨みつける自分の視線が、いつもより据わっている。


(アルトは負けた。

アステルの術式に呑まれて、抵抗する間もなく。

悔しそうな顔すら作れないくらい、一方的に。

――しょうがないよ。相手が強かっただけ。)


仲間の失点を引きずるのは、勝利への最善手順ではない。

非効率だ。


けれど詠唱速度は、明らかにこれまでで一番速かった。




無慈悲なる畑が展開し、エルディアの脇には、いつの間にか髑髏の王がかしづいていた。


「――オメガもおいで」


ぶおおおおお!!!!

呼び出したミノタウロス・オメガの咆哮が、いつもより荒く響く。

使い魔は使役者の感情に呼応する。


(すげえ、うるさいんだけど……)


思考とは裏腹に、エルディアの杖の振る手に澱みはない。


はっはっはっは!!


見上げるほど大きいミノタウロス・オメガの脇に、暴食黒色狼《ドレッドウルフ・ノワール》ポチが、領域内、エルディアを守るように立ちふさがる。



観客席が、一瞬で静まり返った。


「……は? 何が起こって……」


「――範囲展開の速度が、ちょっと、おかしくないですか……?

詠唱、ほぼ聞き取れませんでしたよ、今……」




アルトが、応援席で小さく息を吐いた。


「――のっけから全力じゃねーか……。

いっちまえエルディア。」



──観測対象、更新。

アステルは、いつも通り感情より先に、計算が立ち上がる。


術式から予測変化される弾道。

攻撃の密度。


――速い。


純粋な驚きが、一瞬だけアステルの計算を遅らせた。

リッチの詠唱が完成し、無数の呪詛が闇の矢となって降り注ぐ。


ミノタウロス・オメガが大地を割り、それらの暴威を、アステルは魔法障壁で受け止める。


杖を握る指先が、白くなるほど強張り、アステルは奥歯を噛んだ。




「……あのアステルが、防御に専念してるぞ……!?

今大会はじめてじゃないか?」


障壁の隙間。呪詛の矢を縫うように黒霊暴食狼《ドレッドウルフ・ノワール》が影から飛び出す。

アステルに牙を一閃。


アステルはそれを体を捻って躱すが、魔法障壁を掠めた衝撃で片膝が地面についた。


それは今大会における、はじめてのアステルのダメージであった。


「いずれの動きも目で追う事は叶いませんでした!!!状況が目まぐるしく変わり、言葉ではおいきれない!!

アステル選手劣勢なのか!?」


実況の声が、震えていた。





膝をついたまま、アステルは顔を上げた。


――あら。


エルディアのいつもの人を煙に巻くような余裕の色が、その顔から消えていた。

ただまっすぐにこちらを射抜く目。


速すぎる詠唱。

過剰なまでの物量。


それは強さの表れではなく、制御を失いかけている証拠だ。

感情という不確定要素が、計算式の外側から術式の精度を狂わせている。


「やはり調子悪いんですね。

エルディア。」


「……ばれてーら」


突き放すようなアステルの声。

そしてその瞬間ミノタウロス・オメガの腹に穴が空いた。

大きく、抉れるように。


──『星矢《レイ》』。

星属性魔術の基本魔術。


ドォンッ!!!


一切の、予備動作もなく。

膝をついたままの体勢から、アステルの指先が静かに弧を描いていた。



「…………」


観客席が凍る。

アルトの顔から、血の気が引いた。


そしてエルディアはゆっくりと自分の胸を押さえた。


「…………たかだか使い魔の一体が倒されただけでしょう?

何を狼狽えているのですか?

それにオメガはアンデッド。

この程度で動きを止める必要があるとも思えませんが……」


その一撃でオメガだけでなく、リッチ、ポチ、案山子も止まる様子にアステルが訝しむ。



エルディアが、ものすごく真剣な顔で悩んでいた。


(やっぱりダメだ!!!

このままじゃ、オメガが維持できない!!

魔力が切れそう!!


ダンジョン魔力がないと、召喚維持費が高すぎるんだ!!

案山子一体につき三ポイント!

リッチで毎秒十ポイント!

オメガなんて一体維持するだけで――)


エルディアが、焦りで吹き荒れた様相で青ざめた。

血の気が引くと言ってもいい。


──すでに魔力残高……ファイアーアロー三発分!!!


対してアステル。魔力残高、ほぼ100!!


そしてエルディアの視界の隅、ついに領域の中で案山子が一体ぷすんと消えた。


「…………」


エルディアが振り返る。


「…………案山子?」


もう一体。

ぷすん。


「…………」


そして。

小さく。


「……失敗した。やっべ。」


(アルトがボコボコにされて、頭に血が昇ってたんだ。

慣れない事をするもんじゃなかった!!!!)





地下。


闘技場の外縁、観客からは死角になる、闘技場を支える基部の暗がり。

そこに、小さな扉が――誰にも見つからないように、ひっそりと開いていた。


「……よし、繋がった。」


リリの声は、誰にも聞かれることなく、闇に溶けた。

彼女の周囲、地面に刻まれた紋様が、脈打つように、光を帯びていく。


ダンジョンの、深部から。



魔力の奔流が、地脈を伝うように細く、しかし確かに闘技場の地下へと伸びていった。


「……王国闘技場に、ダンジョン領域を繋ぐなんて。姉御はあたまおかしいっす。バレたら、姉御が詰む案件なんですけどこれ。」


苦笑しながらも、その手は、止まらない。


紋様が、さらに深く、闘技場の地盤へと、根を張っていく。




「よし。サキュエラも見張りよろしくっす。

侵入者は全力で魅了して記憶を消して追い返して。」


「はあい。」


「あとは私は姉御の先輩達の保護っすね。

全く、姉御は人使いが荒いっす。」



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