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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
全国大会決勝戦

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115話 アス対中堅

アスはフェリクスの入場を、まっすぐな目で受け止めていた。


「とはいえ、だ。

本来速度で劣るはずの共鳴回路で、まさかロゼを凌駕するほどのその魔術構築速度……

尊敬に値する。

しかしすでに君の魔術の範囲、効果、発動条件。

全て読めた。

君たちの快進撃もここで終わりにしよう。」


彼は、迷わず、最短距離でアスへと踏み込んでいく。

読みに基づく、無駄のない動き。


(――速い。)


アスの背筋に、冷たいものが走った。


《循環型温熱結界《スピリット・サーマル・ネットワーク》》を使用した氷雪原は、既に彼女の切り札。 相手の足を止め間合いを支配する。


けれど、フェリクスにはそれが通用していない。


「……っ」


だが。


「――え」


その一撃は、空を切った。

アスの姿は、既に、そこにはなかった。


離れた位置から、アスの声が響く。


「風属性が得意なんです。

だから機動力なら、割と自信あります。

あなたがこの結界で無力化されるまで、私は逃げ回りますので!!」


「んな!!!」


フェリクスは思った。

そういうことする空気じゃなかったじゃん!!!

急に卑怯になるな!!!!




「これは……意外な展開になりましたね……!」


実況の声に、緊張が、走る。


「 言いかえれば、これまでの二戦は、アス選手の"未知"故の、勝利だった、とも言える。

だがこれまでの二戦で手札は割れ、未知は既知となった。

そして、氷雪原はフェリクス選手の得意な領域。

ここからが、本当の勝負だろうな」


「アス選手が魔術師としての地力が問われるということですね!!」



彼は、迷わず最短距離でアスへと踏み込んでいく。

無駄のない動き。


――無駄だ。俺の得意属性は氷!!場を冷やす魔術ならむしろ追い風に過ぎない!!


「《氷結拘束《フロスト・シャックル》》!」


アスの足元から、氷の蔓が幾つも突き上がる。

けれど。


「――そこ、じゃないです」


「くっ……! 」


だが届かない。 わずかに届かない。


実況が、思わず素っ頓狂な声を上げた。


「アス選手、背を向けて逃げてます!!全力で!!

なりふり構わない!!」



フェリクスは、間合いを取り直しながら範囲魔術に切り替える。


「領域魔術《絶対零度圏《アブソリュート・ゼロ・フィールド》》!」


自身を中心に、絶対的な冷気を展開しようとする。


だが、展開しかけた術式が輪郭を失って霧散する。


(……くそ。 領域が展開できない。 なぜだ?なぜ、力が通らない。

それにさっきからそうだ。直撃していた軌道だったはずだが、魔術の力を奪われ、威力が減衰している!!)


纏まらない。 掴めない。

まるで自分の氷が――自分のものではないような。


踏み込みながら、やがてフェリクスは、悟った。


──……そうか。 そういう、ことなのか?


(この闘技場を薄く覆う術式は、そもそも"冷やす"魔術ではない。

この闘技場における、熱の"管理権"そのものを握る術式。

氷魔術を、熱のやり取りごと"横取り"されている。)


――言うなら、熱の支配。まずい。完全に見誤った。


気温を下げているわけではない。

属性も関係ない。


("熱"という現象そのものを握られた以上、

熱を操ろうとした瞬間、知らぬ間に、術式によってからめとられ、環境を支配する循環網の一部に、組み込まれていたんだ!!)


──悪魔か。


なんて恐ろしい術式を考えやがる……!!

魔術の概念が変わるぞ……!?


フェリクスの顔から血の気が引いていく。




(……大丈夫)


駆けながら、アスは心の中で、そっと、語りかける。


(まだいい。 焦らなくていい。

シレーナ、ドムナ、カグテス――

今は私が繋ぐから)


まだ浅い信頼。 まだ頼りきれない契約。

けれど――それでいい。

今、無理に引き出す必要はない。


自分の足で。 自分の風で。 時間を稼げばいい。


闘技場を覆う白い息。 凍える地面。

その、一歩一歩が――確実に勝利へと繋がっていく。


「――もういい――行くぞ。

《氷刃乱舞《アイス・ブレード・ダンス》》」


その一言と共に、フェリクスの踏み込みが変わった。


計算ではない。 データではないただの直感。 ただの経験。

纏う氷の刃だけは――最後まで、自分自身の意志で振るう。


風が悴むフェリクスの体を掬った。

闘技場が、一瞬、静まり返った。


「しょ、勝者!アス選手!!三鋒戦、決着です!

まさかの三連勝だ!?」


実況の絶叫が、再び闘技場に響き渡る。





闘技場は静まり返り、誰もがアスの勝利を見つめていた。


共鳴回路。

熱の管理権。

魔術回路という、これまでの魔術師が当然のように信じてきた前提そのものを覆す、新たな魔術体系。


観客。

魔術師。

各国の研究者。


わずか三試合。

その三試合で誰もがその意味を理解し始めていた。


――魔術とは、術式を構築するものではない。

――世界に存在する現象そのものと共鳴するものないか?


新たな魔術文明の幕開け。



「これは魔術史に残る一戦かもしれません!!

『共鳴回路』という概念が、今後の魔術研究を根底から変える可能性があります!!

各国の研究機関も、今すぐ解析に動き出すでしょう!!

あえて言い切ります!!

まさに新時代の幕開けです!!」



アーカム応援席で、エルディアはニヤリと笑った。


「仮に共鳴回路が世界中に普及して、魔術回路を介さず現象そのものと共鳴する新体系が当たり前になったとして……

薪を魔術媒体にすればいけるか……」


アルトは、遠い目をした。


(……薪だってさ。

こいつだけ、世界の見えてる縮尺がおかしいんだよな)


「作成にかかるコストを考えると、一本金貨三枚かなあ……」


たけえから。

売れねえから。

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