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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
全国大会決勝戦

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114/166

113話 カトレア2 やられ芸

杖を握る手に、もう力が入らない。

膝が笑っている。

魔力はとうに底を尽きていた。


脇に浮かぶ水精霊が頼りなく明滅して、消える。


『それ』が起きた時、カトレアはしばらく瞬きすらできなかった。


カトレアは控え席のエルディアを思わず見た。


彼女はガッツポーズをしていた。

そしてさわやかなに、どや顔で親指をたてている。


──やりやがった。




「ロゼ選手が、落とし穴に落ちました……!?」


実況の声が裏返る。

観客席がざわめきに包まれている。


「え、待って、今の何?」

「落とし穴って……闘技場のどこにそんな仕掛け——」

「いや待って、そもそも会場の地面に穴掘るとかできるの?結界で保護されてるはずじゃ」



ロゼ・キャンベル。

あえて魔術を近接戦闘に用いる、極めて特異な戦闘スタイル。


そして有名な話だ。


大会における彼女のこれまでの対戦成績は


──無敗。




控え席で、エルディアが静かに拳を握っていた。


「……勝った」


「勝ってねえだろ。落とし穴に落ちただけだ。試合はまだ続いてる――」


「《戦術迷宮《タクティカル・ラビリンス》・冥府耕作結界《ラストハーベスト》・ 最終奥義《ラスト・フェイズ》》。

――落とし穴生成。」


「地味か!?

さっきまでの空間歪曲とかそういう格好いいやつは!?」


「ああいうのは、前座。

空間湾曲を利用して、一気に穴掘りを行った。

そして本命は、いつもの地味なやつ。」


「いやお前、それはもはやただの罠じゃねえか……!」


「領域魔術の極致は、シンプルさに宿る。」


「どや顔で言うな!!」





ロゼは、穴の底で静かに目を細めていた。


(水の揺らぎ、空気中の湿度の流れ。

それさえ感じ取れれば、姿が見えなくとも関係ないと思っていたのに、穴は普通に見えなかった。

くそが。)


──化石のような手を!!!!


ロゼが、静かに両手を地面に突いた。 



ズ……ゴゴゴゴゴ。

穴の底が、内側からあふれ出す水に満たされ始める。



カトレアは思わず後ずさる


「……浸食範囲が……こんなの、どうやって逃げたら……!?!?」


水は止まらなかった。

じわりと範囲を広げすでに闘技場全体を覆いつつある。


ロゼが、穴の底でゆっくりと立ち上がった。


「落とし穴というのは、地面があるから成立する。

なら、地面がなければもう成立しない。

ならば地面そのものを消してやる。

《大瀑布領域・万象浸水結界》」


「こ、これはっ……!?

会場の地面が震えています!!

ロゼ選手の魔力と闘技場全体が共鳴しているのか!?」


「罠を『埋めよう』としているんじゃない。闘技場そのものを『水没』させようとしているとでもいうのか!?

なんという魔術規模!!

そして発想!!」


ゴボ、ゴボ、と地面の割れ目という割れ目から水が噴き上がり始めた。

まるで闘技場全体が、一つの巨大な水瓶に成り代わったかのように。


ザバァッ、と。 一際大きな水のうねりが、闘技場全体を飲み込んだ。


「――っ、きゃあああああああ!?」


濁流にカトレアの姿が、水面下に消えていった。

実況席は、もはや収拾のつかない事態に悲鳴のような声を上げていた。


「闘技場が、水没しています!! 選手だけでなく、会場ごと水に……!!!」


「ロゼ選手の怒りの大きさが、そのまま、被害の規模に直結しているのだろう……

落とし穴に落とされたのが、あまりに嫌だったんだろうな……」


実況は頷いた。


「確かにあれは腹たちますよね。」


わかります。




「カトレア選手、敗北!!

勝者、ロゼ選手!」


実況の声が響き渡った。

控え席で、エルディアは腕を組んで小さく息を吐いた。


「……よし。」


「何がよしなんだよ。

負けてんじゃねえか。」


「大丈夫。

カトレアが負けたことで私の反則がうやむやになった。

ロゼが全部、水に流してくれたから。」


「うまいこと言ったつもりか。」


やがて、びしょびしょでボロボロの姿で戻ってきたカトレアに、エルディアが労うように声をかけた。


「カトレア、お疲れ。

最高のやられ芸だったよ。

しびれた。」


「ねえ、わかっていましたよね!?!?

ねえ、エルディア!!

私が出ればこうなるってわかってましたよね!?!?

何やられ芸って!?!?

何その生暖かい顔は!?!?」


「まあ、うん!!」


「うん、じゃないですわよ!!」


カトレアがエルディアに詰め寄っている間にも、決勝戦は進行していた。



「三戦目アーカム魔術学院より、アス選手」


「……よろしく」


「よ、よろしく、お願いします。」


審判の合図と共に、試合が始まった。


――そして。



勝負は一瞬。


2人は超至近距離で魔術を交わし。





アスはロゼを下した。


大番狂わせであった。



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