111話 死闘
膝をついていたオズワルドの体が、ミノタウロス・オメガの、一振りで宙を舞っていた。
「ぶ、ぶも……?」
「な、なんで拙者を!? 味方でござるよ!?」
悲鳴と共に闘技場の壁際まで吹き飛ばされる、オズワルド。
会場が、一斉に、どよめいた。
「おいおい、召喚主を攻撃したぞ!?」
「制御、失敗してんじゃねえか!」
「これで、大丈夫なのか、アーカム……」
ロゼでさえ、あまりの、光景に、言葉を、失っていた。
「……あれ?」
エルディアが、目を瞬かせる。
「あの子、オズワルドに、傅いてる……?」
観客席が、一瞬、静まり返った。
一呼吸、遅れて――実況が、ハッと、気づいたように、声を、上げた。
「……!?ミノタウロス・オメガが、オズワルド選手に跪いています!?
これは、まさか……制御には、成功している、ということでしょうか……!?」
解説席からも驚きの声が、上がる。
「なら先ほどの、吹き飛ばされた一撃は……
まさか、オズワルド選手……振り返った、ミノタウロス・オメガの、動きだけで、吹っ飛んだ、ということか!?!?」
実況の、声が、上擦る。
「つまり――攻撃されたのではなく……巨躯が振り向いたその動作の風圧だけで吹き飛んだと……!?」
「オメガが傅いているということはそう判断するしかない!!
オズワルド選手の術式は、成功した。
……問題は、術式じゃなく、単純にオズワルド選手の耐久力が紙一重だった事だけだ!」
「過ぎたるは猶及ばざるが如しというやつですね!!非常に惜しい!!」
観客席が、一斉に、どよめいた。
「じゃあ、なんだ、あれは、ちゃんと、オズワルドの、指揮下に、あるってことか!?」
「制御、成功してんじゃねえか!! なんで、吹っ飛ぶなよ!!」
壁際で、へたり込んだままのオズワルドは、傅くオメガを、呆然と見つめていた。
「起きろ!! オズワルド、起きろ!!」
「そうだ、諦めるな!」
「立てー! 立てー!」
観客席から、いつしか、そんな、声援が、飛んでいた。
いつしかオズワルドは、観客を味方につけていた。
予想外の巻き込まれ具合と、必死さが妙な人気を呼んでいた。
「……拙者、頑張らねば、ならないでござるな……
エルディア殿の力になるために、力を振り絞らねばならねばならないででござる。」
壁際でゆっくりと体を起こしながら、オズワルドがそう呟いた。
その纏う気配が僅かに変わる。
荒々しい気迫が静かに膨れ上がっていく。
「――ッ」
ロゼが、思わず、身構えた。
(来るか……!)
そして――
彼は、静かに、立ち上がった。
「うおおおおおおお!!」
割れんばかりの、歓声が、闘技場を、揺らした。
観客席が、総立ちになる。
「立った! 立ったぞ!」
「やっぱり、あの選手、只者じゃない……!」
――そして。
オズワルドは、立ったまま、気を、失っていた。
「――そこまで!」
審判の、旗が、上がる。
「勝者、ロゼ選手!」
「……」
その、事実に、気づいた、観客席が、一斉に、脱力した。
「立っただけかーい!!」
「気迫、なんだったんだよ!!」
会場中から盛大なツッコミが飛んだ。
エルディアは、控え席で腹を抱えて笑っていた。
「な、なんだったんだ、今の試合……」
「アーカム側の、混乱っぷりが、すごかったな……」
「でも、あの、召喚術式は、明らかに、規格外だったよな……?」
困惑と驚嘆が入り混じったざわめきの中。
オズワルドは担架に運ばれながら、それでもどこか満足げな顔をしていた。
「拙者の術式が……まさかエルディア殿の、切り札の原型になっていたなんて……悪くない負け方でござったな……」
「ご、ごめんオズワルド……
笑い過ぎて腹が痛い。
ひぃーひぃーふぅー……
ひぃーひぃーふぅー……」
「すまぬエルディア殿……だが拙者はもう、無理でござる。もう、拙者、立てないでござる」
「もう、しゃべらないで……
死ぬ……オズワルドに殺される……」
壁際でへたり込むようにエルディアは腹を抑え、オズワルドはゆっくりと首を横に振った。
アスはそれを見ながら思っていた。
オズワルド楽しそう……
満足気に笑っている。
あなた、それでいいの?
地獄絵図なんだけど。




