110話 先鋒オズワルド
「先鋒――アーカム魔術学院より、緊急交代選手。
オズワルド選手。」
その名が呼ばれた瞬間、競技場全体に、何とも言えない空気が流れた。
「……誰?」
「聞いたことない名前だな」
「え、あの子、大丈夫なの?」
対する先鋒、ロゼ・キャンベルは、実力者らしい鋭い眼光で、対面のオズワルドを見据えた。全身から立ち上る覇気だけで、並の相手なら竦み上がるほどの圧だった。
「……よろしく」
短く、しかし油断のない一言。
対するオズワルドは、震える声で、エルディアの方を振り返った。
ボディーランゲージである。
『え、エルディアどの。流石に、無理ではござらぬか』
『いけ。かましてやれオズワルド。Eクラス魂を見せろ。」
『拙者、断じてそのような自信はないでござる。てゆーかEクラス魂ってなんでござるか。』
『オズワルド。ぶっ潰せ。
あんたは、私たちの中で一番"化物"に近い素質を持ってる。自信持って』
エルディアが、両手で大きく丸を作り、次に力こぶを作るポーズ。
実況が、困惑した声で割って入った。
「おーっとオズワルド選手。しきりに控えメンバーとコンタクトをかわしている!!作戦会議か?!」
観客席が、ざわつく。
「今の、何のジェスチャーだ……?」
「わかんね、暗号か何か……?」
解説も、戸惑いを隠せない。
「……身振り手振りだけで、複雑な意思疎通を図っているなら……
ギリギリ……高度な連携作戦ともとれるが……」
キモデブメガネと、覇気を纏う実力者。あまりに不釣り合いな対面に、観客席からは、失笑にも近いどよめきが広がっていた。
対するロゼは、その様子を静かに、しかし油断なく見つめていた。
「……随分と、変わった連携をする学院だな」
彼女の中で、警戒のレベルが、静かに一段階、引き上げられていた。
審判の合図が響く。
「――試合開始!」
「……行くしか、ないでござるか」
「いけ。オズワルド。世界に見せつけてやれ。
あんたの闇属性の才能。
この私をして深淵を思わせるその才覚を。」
ネクロマンス。
「――サモン、スケルトン」
展開された魔法陣は、これまで大会が見せてきたどの術式よりも、緻密で、深いものだ。
「……え」
実況は、思わず目を見張った。
魔法陣から、次々と、白骨の兵士たちが姿を現していく。
一体。
十体。
百体。
千体。
「な……!?」
観客席が、どよめいた。
競技場を埋め尽くさんばかりの、白骨の軍勢。
その圧倒的な物量に、対峙するロゼでさえ、一瞬、明確な動揺を見せた。
「こ、これは、一体……!」
実況官の声が裏返る。
「せ、先鋒戦、開始直後にして……ア、アーカム魔術学院、オズワルド選手、召喚数、既に数百体を突破……!」
「な、なんだこの数は……
予選の資料には、この生徒は名前すら記載がなかったははずだ……」
「ノーマークだったということですか?」
「そうとしか……いや、それにしても、この術式の精度……並の闇属性術者では、あり得ないレベルだ。
もしや、これが……アーカム魔術学院の、"隠し玉"だったのでは……
こんな光景……大会始まって以来、見たことがない」
エルディアは、どや顔で続けた。
「誰もがオズワルドの召喚には二度驚く。
まずはその召喚数。
そして二度目の驚きはさらにすさまじい。」
一体一体のスケルトンは、召喚数の多さに反して、恐ろしく脆かった。
統率も連携もほとんど機能していない。
ただ闇雲に押し寄せるだけの、烏合の衆。
「はぁッ!」
ロゼの一閃が、まとめて数十体を薙ぎ払う。
二閃、三閃。
千体の骨の軍勢は、あっという間に、次々と崩れ落ちていく。
「……なるほど。数だけ、か」
ロゼは、静かに構えを取り直した。
エルディアは強く頷く。
「そう。数だけ!!!
召喚できても、制御の才能が致命的にかけている!!それがキモデブ眼鏡!!オズワルドの真骨頂!!」
「ね、ねえエルディア。エルディアってさ、なんでそんなに楽しそうなの?」
「いや、ぶっちゃけ勝てるとは思ってないし。
オズワルドってさ、基本ギャグ担当だし。
にぎやかしっていうか」
「こいつ、まじでひどい。」
オズワルドが、悲鳴のような声を上げる。
「な、なんで!? 拙者の最高傑作なのに!?」
「量産しただけで、質が伴ってないんだろう。……そもそも、それだけの数を、まともに制御できているのか?」
ロゼの冷静な指摘に、オズワルドはぐうの音も出なかった。
「で、できてないでござる……」
最後の一体が崩れ落ちるまで、大した時間はかからなかった。
「終わりだな。オズワルド。
貴様の召喚数には驚いたが、それだけだ。
次は制御を覚えて来い。それだけでも相当上にいけるだろう。」
「まだでござる……
『亡骸に二度目の目覚めを。
朽ちた器に新たな意志を。
拙者が繋ぐ、糸の導きに従うがいい。』」
「……」
低く、紡がれる、詠唱。
ロゼは油断なく構える。
ロゼはそのままオズワルドの秘儀を受け止めるつもりなのだろう。
まさに王者の貫録。
崩れ落ちたはずの骨片が、地面の上で微かに震え始めた。
「『起きろ。我が眷属よ。』」
それは一つの、巨大な輪郭を形作っていく。
地響きと共に姿を現したのは、漆黒の巨躯。
生前を遥かに、凌駕する禍々しい圧を纏ったアンデッドの牛頭
「ミノタウロス・オメガ《召喚》」
「な……!?」
ロゼが、思わず、後ずさった。
エルディアは、その巨躯を静かに見上げていた。
「甘く見たね。
私の術式はオズワルドの術式を模倣したものだ。
つまり、オズワルドがいなかったら――ミノタウロス・オメガは生まれてない」
漆黒の、巨躯が、緩慢に、動いた。
その、巨大な、腕が――
オズワルドを直撃した。
「おおっと!!オズワルド選手が、吹き飛ばされたぁぁぁ!!?」
実況の、絶叫が、闘技場に、響き渡った。




