109話 先鋒
アルトが、軽く拳を突き上げた。
「とりあえず、頑張ろーぜ。急造パーティだけどな
オズワルド、緊張してんの丸わかりだから肩の力抜けよ。」
「し、してないでござるよ」
アルトのその声には、不思議と纏まりを持たせる力があった。
さすが名家であるウィンドリィ家の嫡男。その堂々とした佇まい。
「エルディア、お前もちゃんと、リーダーらしいこと言えよ。」
水を向けられてエルディアは、少し考える。
「状況を確認する。
先輩たちは毒を喰らって全員倒れた。私以外選抜メンバーがいない絶体絶命の状態。
だけど、私は勝たないとならない。
決勝トーナメントに勝って、魔術師としての実績を作れれば――循環型温熱結界の、特許が取れる。
あれが正式に特許として認められれば……どこの、村にも、街にも、循環型温熱結界を広められる。
誰でも使えるようになる。」
視線を、少しだけ、下に、落として。
「そうすれば――誰もが、越えられる冬を手に入れられる。
手にして見せる。
だから、力を貸してほしい。」
顔を、上げる。
「絶対に、勝つんだ」
先に口を開いたのは、オズワルドだった。
「……分かった、でござる。
拙者正直、事情は半分も理解してないでござるが……エルディア殿が、本気だってことだけは、ずっと分かっているでござる。」
「わたくしも、全然。でもまあ、そこまで言われたら付き合いますわよ。」
「私も手伝うよ。エルディア。」
アルトは、小さく、笑って。
「まあ意外性なら俺らは全国ナンバーワンだろ。急増メンバーだけどな。」
四人の視線が揃って、エルディアに向けられた。
「――行こう。」
エルディアの、その一言に。
五人は、闘技場の、入場口を、くぐった。
アスがふと口を開いた。
「でもさ、なんで私達なの?
アルト様は、ともかく……もっと、適任、いたよーな?」
急に真顔でそう問いかける。
エルディアは、悪びれずに言った。
「決まってるでしょ。
『ま、いいかなって。』」
続きの言葉はない。
一同は、思った。
(雑だ。)
「それでは――全国魔術大会、決勝戦!」
割れんばかりの歓声と共に、実況官の声が闘技場に響き渡る。
「両校の、入場です!
あ――えー、こちら大会本部より、緊急のご報告があるようです。
体調不良により、アーカム魔術学院、メンバー交代がありました。
エルディア選手を除く、全選手が体調不良との事です。」
観客席が、一斉にざわついた。
「体調不良? 全員まとめて?」
「なんだそれ、大丈夫かよ」
解説席では、初老の魔術師がが、腕を組む。
「……異例だな。」
「大会運営としても、初めての、事態だと、思います」
がやがやと広がる困惑の中、グランディアの控え席では、アステルが、静かに目を細めていた。
「またですか?ベルク。」
「まあな。一度で懲りるほど、俺は素直な性格じゃない」
アステルは、小さく息を吐いた。呆れとも、微かな苛立ちとも取れる仕草だった。
「今のエルディアなら、あなたの妨害があってもなくても大差ないとお伝えしたはずなのですが。」
「さて、な」
ベルクの声には、余裕が滲んでいた。
「俺の見立てでは――あの女は、こんな程度で崩れるほど、殊勝な性格はしていない」
アステルは、静かに、闘技場の入場口の方へと視線を向けた。
「……ええ、それはその通りだと思います。
だからこそ、少し楽しみです。
ふふ。」
アステルの声に、微かな、しかし確かな色が滲んだ。
その視線の先で、エルディアが、いつも通りの調子で、集められた仲間たちに、何やら気楽に声をかけているのが見えた。
「それでは――先鋒戦を開始します!
まずは、王立グランディア魔術学院、先鋒――ロゼ・キャンベル選手!」
長い髪を一つに結い上げ、動きやすさを意識したドレス調の戦闘装束。
淡く輝くミスリルの魔力刃を片手に、静かに歩を進めてくる。
「ロゼ選手は、王立グランディア魔術学院、次期主将候補
予選でも、圧倒的な、対人戦闘力で、出た試合については全戦全勝を、記録しています!!」
「魔力を刃に纏わせる近接特化型の魔術師だ。
速さと正確さを両立させた術式運用が持ち味となる。北方魔術学院のグレイス選手とは似たスタイルであるだけに、多くの名勝負繰り広げている。」
ロゼは、闘技場の中央に立つと静かに剣を構えた。
その佇まいに余計な力みはない。。
観客席から、グランディア側の応援が、一際大きく上がる。
「ロゼ、頼むぞー!」
「圧勝、見せてやれー!」
対する、アーカムの、入場口。
「それでは、アーカム魔術学院、先鋒――」
──オズワルド・クロスノヴァ=ヴァレンシュタイン。
その、名前に観客席が、一瞬、静まり返った。
……誰?




