108話 急増メンバー
医務室。
ベッドに横たわる選手たちの容体は、思っていた以上に、深刻だった。
「熱、まだ下がりません……」
医療班の一人が、額の汗を拭う。
「毒の反応、想定より、強い……強力な解毒用の魔術やポーションを使用しているんだぞ。こんな短時間で、これだけの人数を同時に無力化するなんて――普通の神経毒じゃ、あり得ない。」
うなされるリリアの額。 荒い呼吸を繰り返すリシェル。 目を閉じたまま動かないディオン。
他の生徒も同様だ。意識が戻っているのは、まだ誰一人としていなかった。
「顧問の先生も……」
医療班の一人が、視線を、隅のベッドへ、向ける。
顧問もまた、意識を失っていた。
普段選手たちを統率する立場の、その人物までもが同じように倒れている。
「引率の教師まで、無力化するなんて……これは生徒相手の悪戯なんてレベルじゃない。本気で、アーカムを、潰しにきてる」
エルディアは、医務室の面会に来ていた。
顧問の先生の前に、立つ。
「……先生。
……せっかくだから、言わせてもらうけど。先生、ろくなことしなかったよね。
まず、学校の方が私を全国大会選抜に召集しといて、いざ来たら『Eクラスの平民は帰れ』。
大会始まってからも、フォローどころか、空気だったよね。困ってる時、一回でも助けてくれた記憶ある?
予選で36万点叩き出した時も、褒めるどころか『規定違反じゃないのか』って一番最初に疑ってきたの、先生だからね。」
寝息だけが、返事だった。
「あと、これは今更だけど。名前、何回も間違えられた。
エルヴィアとか、エルミアとか。選抜になって、もう結構経つんだけど。
だから私は常日頃から思っていた。
先生、はやく死ねばいいって。
とりあえず今はそんなところかな。」
踵を返しかけて、思い出したように、振り返る。
「そういえば先生、最後にいい仕事したよ。
それは、敵の毒を喰らったこと。
これで、私が先輩達の変わりに選ぶアーカムの選抜メンバーに、余計な茶々を入れられずに済む」
満足げに、頷くとにこりと笑った。
「まあ、勝つよ。
起きた時には全部終わらせといてあげる。」
――一連のやり取りを、隣のベッドの付き添いで聞いていた者、通りがかった医療班、皆が、同じことを、思っていた。
(ひでぇ……
こいつ。何しにきたんだ。)
エルディアは、リリアのベッドの前に、立ち止まった。
汗ばんだ額、荒い呼吸。 うなされる、その顔を、じっと、見下ろす。
「リリア先輩。肉、食う?」
「食わねーよ。」
うっすらと、目を開けて。 声は、掠れていたが、ツッコミの勢いだけは、健在だった。
「私の姿、見ろや。」
「あ、それもそっか」
エルディアは、素直に、頷いた。
「まあ、また今度で」
「今度もいらねーよ……」
小さく、笑おうとして、リリアは、また、咳き込んだ。
「……エルディア。
決勝、出るんでしょ?」
「うん」
「誰、連れてくの」
「まだ秘密」
「……」
リリアは、呆れたように、息を、吐いた。 それでも、その目には、僅かに、安堵の色が、浮かんでいた。
「……勝てよ」
「勝つよ」
即答だった。
「起きた時には、全部、終わらせといてあげるよ。
あと、先生にぼろくそ言ったのだまっててくれない?
いや、リリア先輩起きてたとは不覚だった。
全部聞かれてたよね?」
「全部ね……」
「あちゃー」
あちゃーじゃねえから。
「リシェル先輩起きてるかな?
ついでにからかってこよっと」
やめろー。
本当に死んじまうー。
決勝戦。控室。
エルディアは、並んだ四人の顔を、順に見渡して、強く、頷いた。
「最強の、メンバーを、揃えた。
これなら、いける」
「いや、絶対、いけないと思うでござる」
特徴的な、語尾の返答が、あった。
オズワルドだ。
露骨に、渋い顔をしている。
「拙者たちが、決勝戦の急造メンバーでござるか?
弱小魔術学院のEクラスでござるよ?
しかも相手は、あの、王立グランディア魔術学院でござる。舐めてかかっていい相手では、ないでござる」
「大丈夫大丈夫、なんとかなるから。」
「その『なんとかなる』を、拙者は、何度、聞いたでござろうか……そして、その度に、とんでもないことになる場面を、何度、見てきたでござろうか……」
オズワルドが、遠い目を、する。
カトレアが、急に真顔になった。
「……待って、ねえ、そもそも待っていただけますか?」
「何?カトレア」
「ねえ、この流れまさか、わたくしが出場するんですの!?!?」
「……今ごろ、気づいたの?」
エルディアが、半眼で、見返す。
「聞いてません!!!!」
「いや、言ったし。今。
それにさっき、ちゃんと言ったよ。『先輩たちが倒れたから、ちょっと来て』って。」
「それ、説明になってませんから!!」
カトレアが、頭を抱える。
「役割の説明とか、対戦相手の情報とか、何一つ、聞いてません!!
いきなり『来て』の一言で、召集されて、気づいたら、闘技場の入場口ですのよ!?!?」
「まあ、細かいことは、いいじゃん。」
「良くないですから!!」
アスが、おずおずと、手を、挙げた。
「エルディア……まさか、私も……?」
「いや、そりゃアスもだって。
状況、カトレアやオズワルドと同じじゃん。そうだよ」
「……あ、やっぱり」
アスは、特に、驚いた様子もなく、小さく、頷いた。
「アス」
カトレアが、真剣な顔で、詰め寄る。
「このクソ女に、言いたいことがあったら、言っておいた方がいいですわよ?」
「いや、あの……そんな……」
アスが、目を、泳がせた。
「今、言わなきゃ、一生、言えませんわよ。決勝終わったら、また、うやむやにされます」
「え、えっと……
もう少しだけ……私の話をちゃんと最後まで、聞いてほしいかなって……」
「わかった!!今度ね!!」
……
エルディアが、満足げに、頷いた。
「よし、綺麗に、まとまったところで、行こっか」
一同は、揃って、思っていた。
(どこが?)




