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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
全国大会決勝戦

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108/167

107話 決勝前夜

決勝戦。前日の夜、アーカム魔術学院の宿舎では、選手たちの遅い夕食が始まっていた。

――異変は、それから、間もなく、始まった。


「……なあ、なんか、変な味、しなかった?」

「気のせいだろ」


そう答えた、次の瞬間。

その生徒が、突然、胸を押さえ、椅子から、崩れ落ちた。

叫びながら、次の生徒へ。 また、次へ。


「――嘘、でしょ」


真っ先に、動いたのは、リリアだった。

崩れ落ちた生徒の一人を、抱き起こす。 額に触れる。 熱い。 尋常じゃない。


「熱、高すぎる……! 誰か、氷魔術使える人!」

「リリア、待て」


制したのは、ディオンだった。 声は、いつもより、硬い。


「闇雲に動くな。……これは、食中毒の域じゃない。

毒、だ。」


「毒って……誰が、こんな……」


言いかけて、リリアの視線が揺れる。

食堂を、埋め尽くす、呻き声。

崩れ落ちていく、仲間たち。

発症の、時間差。 症状の、パターン。 そして――倒れていない、人間の、数。


崩れ落ちる悲鳴の中で、リリアも、リシェルも、そして、ディオンも――同時に、気づく。


一人だけ。

一人だけ、椅子に、座ったまま。


スプーンを片手に固まったまま、そこにいる生徒がいた。


三人の、視線がゆっくりと、エルディアに、集まっていく。


「……なに?」


エルディアが、スプーンを持ったまま、三人を見返す。


「なにって、こっちの台詞よ。エルディア。

エルディアだけ、無事な理由を言って。」


「理由も何も、さっきまで、ミノタウロス・オメガのエイジングビーフ食べ過ぎて。お腹痛い……完全に食い過ぎた。話かけないで……

みんな見てたじゃん……」


「なに、それ……

でも確かに食べてたね……」


リリアが、呆れたように、笑おうとした。

その、途中だった。


「っ――、」


小さく、息を、飲む。


「え……?」


膝から、力が、抜ける。


「リリア!?」


リシェルが、駆け寄ろうとして――同じように、足が、縺れた。


「な……、私、も……?」


床に、崩れ落ちる。


「リシェル……!」


叫んだのは、ディオンだった。 だが、その声も、途中で、掠れる。


「……嘘、だろ」


視界が、ぐらつく。 立っていられない。

三人が、次々に、崩れ落ちていく。

食堂を埋め尽くす、悲鳴と、呻き声。 その中に、また三つ、加わった。


――静寂の中心に、エルディアだけが、残った。


「……」


スプーンを、皿に置く。

トイレ行こうか、介抱するべきか。





翌朝。


大会本部の一室に、慌ただしく、医療班と運営関係者が集まっていた。


「――報告します。

昨夜、アーカム魔術学院の選手団が摂取した食事から、特定の神経毒の反応が、検出されました。

エルディア選手だけが、無事だった理由も、依然として、不明のままです。 同じ食卓、同じ料理を、口にしていたにも関わらず――彼女の体内から、毒の反応は、一切、検出されませんでした。」


室内の空気が、さらに、重くなる。


「……とにかく、選手団の容体は、まだ、予断を許さない状態です。 決勝の実施について、至急、判断を、仰ぎたく――」


その声を、遮るように。


「大丈夫。」


扉の外から、静かな声が響いた。


全員の視線が、そちらへ、集まる。

戸口に、杖を、肩に担いだ、エルディアが、立っていた。


「私一人でも、出るから。」


エルディアの一言に、室内が、静まり返る。

運営責任者は、しばらく、彼女を、見つめていた。


「……規定上、団体戦は、両校の代表が行う形式だ。 選手団の人数は、問われない。

本人が、出場の意思を示している以上――止める理由は、ない。」

「よろしいのですか?」


医療班が、思わず、問う。


「毒の件が、解決していない状況で……」

「解決していないからこそ、だ。

決勝の中止は、大会そのものの、権威に関わる。 それに本人が、これだけ、平然としているのだ。 止める、道理もない。」


エルディアは、小さく、笑った。


「話が早くて助かるよ。」


エルディアは、涼しい顔の下で、内心、冷や汗をだらだらと流していた。

理由は、単純だった。


(――やば。 まさか、こんな騒ぎになるとは。)


ミノタウロス種の、熟成肉――通称、エイジングビーフ。

その、熟成度と、魔力伝導率の相関を調べるという、決勝前夜にはまったく相応しくない趣味の延長を、こっそり自室で没頭していたのだ。


味見という名目で、結局、ミノタウロスを丸々一頭分、平らげてしまい。


夕食の席に着いた頃には、正直、食い過ぎてゲロ出そうな程腹が痛かった。


(いやね、単純に出された夕飯を食ってないだけなんですけど……

頼む。誰か……誰か、突っ込んでくれ……)


「ところで、エルディア君。君はなんで無事だったんだね?」


エルディアは嬉々としてゲロった。


運営本部の人は、何とも言えない表情をしていたという。




決勝戦が始まる。

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