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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
決勝トーナメント

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103話 グレイス4

その瞬間、彼女の意識は、一つではなくなった。


一つは、リッチを制御する。

一つは、傷口を自己治癒する。

一つは、戦況を解析し、刻印構造を書き換える。


そして最後の一つは――グレイスとの、戦闘。


実況が、絶句する。


「な、何ですか、これは……!」


解説者も、目を見開いた。


「……並列思考だ。

見ろ。

エルディア選手が負っていた、あれだけの出血がみるみるおさまっていく。

高位プリースト顔負けの極めて高度な治癒刻印。

しかし同時に領域が闘技場をおおっていく!!」




グレイスは、奥歯を噛みしめる。


(二つめの領域魔術たと!?!?

凄まじい構築速度だ!!

効果は!?)


「ふふ。

リッチの演算領域を利用して、並列でリソースを振り分けた。

今の私は、なかなか手強いよ。」


グレイスは、肌で感じていた。


(並列思考特化か!?

しかも領域魔術だ!効果はそれだけではないはず!

このまま領域を完成されたら、負ける。)


足元で地面がまた軋む音を立て、案山子が一体、また一体と地の底から湧き出てくる。


エルディアは杖を肩に担いだまま、悠然と笑っていた。


「案山子は見張り役でもあるけど――本業は測量士だからね!

畑の区画を勝手に測り直しちゃうよ!!」


関係ない。


リッチを従え、禁忌の刻印を書き換えながら、なおこちらを見ている。

そんな化物じみた存在であろうと、もう迷わない。


杖を握る手にこれまでとは違う力が灯る。

父の指輪に意識を集中させる。


(私の腕は、まだ折れていないんだから。)


「――父さん。力を貸して」


グレイスの声が、闘技場に静かに響いた。


(この一撃で、決める!!)


杖の先で、金属片が、唸りを上げた。

呟くと同時に、地を蹴る。


骨の案山子の隙間を、縫うように走り抜ける。


――はずだった。



足元の地面がぐにゃりと歪んで、見えていた景色が一瞬で入れ替わっていた。


さっきまで正面にいたはずの案山子が、今度は、右手に。


目の前のエルディアが、いつの間にか背後に。





「――ッ、なにがっ!?」


「惜しかったね。」


エルディアの声とともに、グレイスの視界の端で、骨の鴉が急降下し嘴が皮膚を掠める。


「――くっ!」


肩口に鋭い痛みが走った。 傷そのものは浅い。

だが。


(重い……力が、抜けていく……?)


「毒、じゃない……これは魔力が……」


「正解。

収穫だよ。

あの子たちがつつくのは、トマトだけじゃない。魔力そのもの。 ちょっとずつ、刈り取っていくんだ。

くそ腹立つでしょ?」


エルディアは、楽しそうに笑う。


再度グレイスは突撃するも、同じ結果に終わる。

迷宮に迷い込んだかのように、距離を詰めることができない。


「――案山子の墓標か……」


「そういうことだね。

ゆっくりしていってよ。」


実況が、悲鳴のような声。


「グ、グレイス選手の位置が……!わ、私にも、何が起きているのか分かりません!」


解説者が、震える声で補足する。


「闘技場そのものの空間構造を、書き換えている!?

物理的に移動していなくても、認識と経路そのものが、歪められているんだ――

空間そのものを迷宮化しているとでもいうのか!?」



フォッフォッフォッフォッ


リッチが、クワを地面に突き立てた。


骨の体にボロボロの布をまとい、無数の案山子がひび割れた闘技場から列をなして姿を表し、虚ろな眼窩を向けている。


バサリと羽音が響く。


骨だけの鴉の群れが闘技場の上空を旋回し始め、耳障りな金属を擦り合わせるような乾いた声を繰り返す。


闘技場全体が、まさに、“死の畑”と化していく。




「私の領域は、空間を迷宮化するだけではない。

収穫を前に、つつかれる野菜の気持ちを味わえる特別性だ。


さあ、恐怖の海に沈め。」


一同は思った。


なぜ野菜!?!?




「――上等。」


グレイスが杖を地面に強く叩きつけると、金属片が彼女の意志に応え渦を巻くように周囲に展開していく。


「迷宮なら壊せばいい。 測量が狂ってるなら全部更地にしてやる。

全部だ。」


グレイスの周囲に、これまでとは比較にならない量の、金属片が集まり始める。

《穿鉄》の、変則連続展開。 一つ一つの軌道を、あえて予測不能なほど乱雑に、しかし確実に、リッチへ収束させる構え。

闇を切り裂くように、彼女の魔術は螺旋を描く。


リッチはそれを見て、初めて静かに笑ったように見えた。

深淵のような眼窩の奥の青白い燐光が一際強く瞬く。


「――《絶望詠唱《ディスペア・ライム》》」

――死せる大地よ。

すべてを覆え。」


エルディアが叫んだ。


「そして農地を潰した場合は、極刑に処す!!!」


こわ。



《絶望詠唱《ディスペア・ライム》》


その音を聴いたものは、死が限りなく寄り添う。

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