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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
決勝トーナメント

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101話 グレイス戦2

「知ってるっていうか、まあ、普通にご主人様とはそこまで長い付き合いではないんですけど。

皆さん、勘違いしてますねぇ。」


実況が、思わず身を乗り出す。


「詳しく!!詳しく教えてください!!」


「え、いいんですか? 私、喋っちゃって

うーん、でも、あんまり喋ると、あとでご主人様に、畑仕事増やされそうなんですよね……」


「そんなことより情報です!! 今、この会場中が、その答えを欲しがってるんですよ!!」


観客席からも、いつの間にか「聞け!!もっと聞け!」という声が、ちらほらと上がり始めている。


「……まあ、いっか。畑仕事は、もう覚悟してますし。

主人って、痛みに鈍いわけじゃないんです。

ご主人様は、数多の刻印魔術を扱われます。

ダメージ軽減。

痛覚軽減。

自己治癒。

出血抑制。

肉体強化。

……少なくとも、私が把握しているだけでも、それくらいは常時使用されています。」


「じ、常時ですか!?」


「はい。

ですから、見た目ほど深刻ではありません。

ご主人様を、普通の魔術師として考えること自体が、間違いなのです。」


実況席が、静まり返る。

サキュバスは、どこか楽しそうに笑った。


「あれほどのダメージを無効化できるほどの刻印魔術を使用していたと!

なるほど!そういうことでしたか!

確かにそれなら、この常軌を逸した耐久力も頷けますね!!」


しかし。


「――いや待て。」


解説者が、静かに口を開いた。


「エルディア選手は一切、刻印を発動していない。」


「…………え?」


実況席が、凍り付く。

サキュバスも、目を瞬かせた。


「刻印が発動すれば、必ず魔力波形が現れる。それが基本だ。

だが今。エルディア選手の周囲に新たな刻印反応は一切確認できない。

少なくとも先ほどサキュバス殿の言ったような反応は、どこにもない。」


「ちょ、ちょっと待ってください……。

ということはつまり今の彼女は――」


「信じられない事に、傷を負ったまま素で立っている。それ以外ない。」


競技場が、どよめいた。


「「「はぁ!?」」」





「あー、痛って。」


面倒くさそうに肩を押さえながら、当の本人はグレイスと対峙していた。


その瞬間。

地を這うように伸びたグレイスの銀色の鎖。


ギリッ。


エルディアの手が、グレイスの生成した鎖を握り締める。

そのまま、一気に引き寄せる。


「っ!?」


鎖が悲鳴を上げ、グレイスの体勢が大きく崩れた。

細い腕から放たれたとは思えない、剛力。

まるで大型魔獣に引き寄せられたかのような感覚に、グレイスの表情が強張る。


血まみれの少女は、ただ静かに笑っていた。



実況が、はっと息を呑む。


「……あれ?

ど、どこかで見た動きです!

痛みを無視したような踏み込み!

傷を負っているのに、一切躊躇しない攻撃!これ……!

先ほどまでの北方要塞学院の四選手と、まったく同じ動きではありませんか!?

これは、まさか……

北方要塞学院の刻印を……」


「まだ断定はできん。

だが、少なくとも現象は一致している。」


その一言だけで、会場の空気が一変した。


観客席の誰もが、血まみれのエルディアを見つめる。




「――馬鹿な。」


グレイスの思考が止まる。

目の前の光景を、理解することを脳が拒絶した。


「その刻印を……なぜ貴様が……。」


エルディアは首をかしげた。


「ああ、これ?

畑にちょうどいいなと思って。」


「……は?」


「臨床実験だよ。

痛みの軽減があれば、朝から晩まで屈んでも腰痛くならないし、闘争心の向上は、猪が畑荒らしに来たとき役に立つ。

思ったより性能いいね。」


「……違う。違うぞ……。

その刻印は意思を奪う。

痛みも、恐怖も、迷いも。

その代わりに、人形のように戦わせる呪いだ。


仲間たちは今もおかしい状態のままだ!!

天井を見つめ!理由もなく、震え!!意識すら取り戻さない者もいる!!

だが、貴様は違う!」


グレイスが叫ぶ。


「笑っている!

喋っている!

考えている!

自分の意思で戦っているじゃないか!!」


「そこは改良したから。

意思まで消したら不便でしょ。

畑仕事中に意思なくなったら、種まく場所間違えるじゃん。」


人差し指を一本立てる。


「魔力を出力に変換する必要なんてない。魔力は魔力のまま使えばいい。

そうすりゃ劣化は最小限。畑仕事の最中の涙は、そのまま流しとけばいいってね?」


その一言に、グレイスの顔から血の気が引いた。


まるで、世界を揺るがす禁呪の設計思想を、家庭菜園の効率化のために書き換えたと言わんばかりの軽い口調だった。


「なんだ……おまえは……本当になんなんだ……」


(あのベルクが仲間達にほどこした呪いを……。

欠点だけを取り除いたというのか……。)


エルディアは頭を掻いた。

そして申し訳なさそうに笑う。


「それに、ごめんね。

戦闘はじまってからずっと肥料の配分計算してたからさ。ちょっと集中できなくて。」


「…………。」


グレイスは固まった。


今、何と言った。


肥料の配分計算してきた?戦闘中に?


「ま、待て……。

貴様……。

まさか戦いながら、堆肥の配合比を弾き出していたとでも言うのか……?」


エルディアは、照れたように苦笑いした。


「うん。気になっちゃうと、全部どうでもよくなっちゃうんだよね。私って。えへへ。

おかげで今シーズンの収穫、期待できそう。」


エルディアは肩を軽く回した。

怪我をしている方の肩だ。周囲に血が飛び散る。

血の付いた手をぱん、と払う。


「よし。

じゃあ。

そろそろ始めようか。」


エルディアは、ゆっくりと右手を前へ差し出す。


「おいで。

リッチ。」



――ゴォォォォォッ。


競技場全体の魔力が、一点へ吸い寄せられていく。

地面に刻まれた刻印が次々と発光し、巨大な召喚陣を描いた。


誰もが、その光景を見つめる。


そして闇の中心から、一体の影が姿を現した。


痩せ細った骨の身体。

漆黒の法衣。




実況が、息を呑む。


「……リッチ……」


一拍置いて、震える声で告げる。


「Sランク……です。」




エルディアは、にっこり笑った。


「このリッチは畑仕事に特化している。

私は予言するよ。

昨今の農作業の人手不足は、アンデッドによって解消できる!!!!」


「…………」


「…………」


「…………」


……はい?

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