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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
決勝トーナメント

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101/167

100話 グレイス戦

「――は?

見りゃ分かるでしょ!!!」


競技場全体に響き渡る怒声。観客の誰かが、思わず噴き出しかけて、慌てて口を押さえた。


「い、いえ、私、種族柄そういう機微には敏感なはずなのですが……戦意と気迫が、あまりにも凄まじかったもので、つい種別判定が後回しに……」


「言い訳が余計に腹立つ!!」


「も、申し訳ありません!!ただ、これでハッキリしました。

あなたは女性です!!」


「だから、服装みた時点でわかるでしょ!!」



「おーっと! これはまさかの――サキュバス選手、魅了不発!!

性別誤認からの、まさかの空振りぃぃぃ!!」


一方、解説は、眉一つ動かさず、淡々とシュールな解説を続けた。


「……魅了魔術は、対象の性自認や性的指向によって、成功率が大きく変動する。

今回のケースは、いわば――典型的な”対象外”ということだろう。

サキュバス種の魅了は万能ではない。

いくら領域魔術を展開したとはいえ、事前の対象確認を怠った、明確な戦術ミスと言えるだろな。」




エルディアは手を振って帰れのジェスチャーをした。


「じゃあ出番終わり。帰れ。」


「――え?」


サキュバスが、きょとんとした顔をする。


「いや、攻撃されたら死んじゃうでしょ。

そもそも、こんな学生ばかりの大会に君は、存在自体が危ないんだよ。

存在が非常にナイーブなんだ。風紀委員会と倫理委員会がとんでくる。」


「ご主人様。ならなぜよんだんですかー

畑仕事飽きたんですけど。

折角、お披露目だと思って気合いれてきたのに!!

畑に置き去りにされた者の諦めを誇りとして、対象を永遠の泥沼に引きずり込んで、傷をなめ合える関係にこそ、サキュバスとしての本懐を感じていたのに!!!!」


「いいから早く帰れ。

あと、畑仕事バカにすんな。それに長い!!」


「うう……仕方ありませんね。

もっとご主人様のお役に立ちたかったのに。

とゆーか、自分が沈んでいた同じ泥の中に、もっと人間どもを引きずり込みたい。」


まじで帰れ



グレイスが杖を軽く振ると、その先端から、幾筋もの極細の金属糸が放たれる。


「――《鉄糸》」


「うげ」


グレイスは、戸惑うエルディアに向けてさらに間合いを詰める。


杖を地面に軽く突き立てると、これまでふりまいておいた周囲の金属片が、彼女の意志に従うように、浮かび上がった。


「――《穿鉄》」


圧縮された一条の鉄が、まっすぐに撃ち込まれた。


「――っ」


肩口への直撃の手応え。

確かな衝撃が杖を通して伝わってくる。


肩口の布が裂け、赤い筋が腕を伝って地面に滴る。


グレイスの中で、勝利の確信が音を立てて形を成した。


《穿鉄》は、貫通を目的とした技だ。

防御術式のない生身に直撃すれば、それだけで戦闘続行は不可能になる。



会場が、静まり返る。

実況席のマイクが、一瞬、言葉を失った。


「直撃……!北方要塞・グレイス選手の《穿鉄》が、アーカム・エルディア選手に直撃しましたァ――!

これは、決まったか……!?」


観客席がどよめきの波を打つ中、審判の腕が、鋭く横に振られた。


「――試合、一時中断!負傷確認!」


歓声とどよめきが、一瞬でざわめきに変わる。


待機していた治癒術師と審判が、駆け足でエルディアに近づく。


「見せてください」


エルディアは、肩を軽く差し出す。裂けた布の隙間から覗く傷は、確かに骨に届くかという深さだった。審判の表情が、一瞬強張る。


「……骨には達していません。ただ、この出血量は……」


「ん、大丈夫。ダメージはゼロ。動くよ。」


「行動能力の確認をします。右腕を、水平に上げて」


エルディアは、傷ついた腕を、何の躊躇もなく真横に上げた。可動域に、制限は見られない。


「握力、確認する。

……問題、ない。」


治癒術師が、審判に向けて小さく頷く。それでも審判は、念を押すようにエルディア本人に問いかけた。


「本人の申告を、確認します。続行できますか」


「もちろん。そりゃ続行で。」


治癒術師は思った。


傷は確かにある。

だが明らかなダメージは見られない。



審判は一拍置いてから、片手を上げた。


「試合、続行!」




ここで、実況が入る。


「無事試合が再開されましたね。

エルディア選手。本当に大丈夫なんでしょうか。

すごい出血量ですが……」


解説の老魔術師が言う。


「本人の申告と、行動能力。その二つが、基準を満たしている、ということなんだろう……だが、人間が行動不能になる出血量というものがある……あれはそれを大幅に越えているようにみえるが……」



グレイスは、動きを止めていた。


《穿鉄》は、 父の言葉を胸に、磨き上げてきた必殺の魔術。


その一撃が、確かに入った。手応えもあった。

なのに、目の前の相手は涼しい顔で血を拭っている。


「……なんで、そんな顔していられる」


エルディアは、傷口を一瞥して、それから興味なさげに言う。


「さあね。なんでだと思う?」




さらに脇腹。

完全に直撃。


ゴボゴボ


先ほどよりも明らか重傷。

内臓が傷ついてもおかしくない。

口から多量に血が出ている。


再度試合中止。



「レフリータイム!!」


実況の声が、裏返る。


「エルディア選手、さらに負傷!!

試合が再度一時中断!!医療班、状態確認に入ります!!

し、しかしこれは……続行は、さすがに厳しいのではないでしょうか!?」


会場中の視線が、血に染まった少女へ、一斉に注がれる。


「……流石に今度こそ無理だろう。」

「……つまり、ドクターストップ、ですか?」

「普通ならな。

いや、普通というなら、最初の一撃で試合など、とっくに終わっているのか。」


長い沈黙のあと、審判の片手が、ゆっくりと、上がった。


「試合、続行!!」


歓声とも悲鳴ともつかない声が、闘技場全体を揺らす。



「し、試合継続……!エルディア選手、脇腹に重傷を負いながら、なお、立っている……!これは、一体、何を、見せられているんだ……!」


「ご主人様は多くの魔術刻印を使いこなしますので、それの一貫ですね。」


「それは一体どういう事ですか!?

何か知ってると!?」


実況席の椅子の隙間、体育座りのまま、事の成り行きを静かに眺めていたサキュバスが、いつの間にか、しれっと会話に加わっていた。




「――え!?

サキュバスさん!?なぜここに!?

い、いいんですか!?あなたのご主人様、まだ戦ってますよ!?」


「いいんです。ご主人様、どうせ私に戦闘能力なんて求めてないので。

私って求められてるのは、基本的に畑仕事なのです。

つまり肉体労働を求められてるんです。

サキュバスなのに。」


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