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◆06

◆06


 とはいえ、情報収集は地味にして地道である。

 何人かに手分けして、酒場や武具屋、鍛冶屋、魔道具屋、旅道具屋など、冒険者や情報が集まりそうなところに足を向けたが、なかなか有力な情報は集まらない。

 アプローチの仕方がおかしいのだろうか?

 もっと別の場所を巡るべきなのか?

 などと、カイルはアヤメに聞いてみたが。

「カイル殿のやり方は、間違っているようには思えませぬ」

 これで正しいという。

 とすれば、単に試行回数が足りないだけなのだろうか。

「ただ……」

「ただ?」

「なんというか、目の前の相手が、必要な情報を持っているかどうかをかぎ分ける力が欠けているのかもしれませぬな」

「……それはきっと、【密偵】の天性を持っているかどうかに関係するね?」

「おそらく。それがしは生まれたときから持っておりましたゆえ、持っていない方のことは、嫌味抜きでよく分かりませぬ。ですが、その辺りは直感的に、【密偵】の天性に関係しているように感じまする」

「そうか。【司令】や【主動頭首】でも埋められない差なんだろうね」

「然り。【司令】や【主動頭首】の底上げは、天性そのものの有無とはまた違うものなのでしょうな。我らはそれらの底上げを、つい天性の上級、下級に振り分けて考えてしまいがちですけれども」

「興味深いね。でも僕にはどうしようもないことなのも確かだ。まあ地道に試行回数を増やすしかないね」

「そうですな……あまり辛口なことは言いたくありませぬが」

 彼の天性にあらざる任務は、陽が落ちるとともに再開される。


 一週間が経った。

「有力な情報を見つけましたぞ!」

 昼食時、いつものギルドの一室での会議で、吉報はもたらされた。

「おお、ぜひ聞かせてほしいね」

 カイルがアヤメの話を促す。

「結論から申しますと、現在、勇者の剣は隣国、アルトリア帝国の国立学校の地下室にあるそうですぞ」

 いわく。

 アルトリア帝国の国立学校の地下室、その片隅にひっそりと勇者の剣はあった。学校側がつい先日発見したようだ。

 帝国にとっては関係がないとはいえ、他国――いまカイルたちのいる「連合王国」に縁のある宝物なので、とりあえず保存していたのだが……。

「どうやら怪盗が盗みに来ると予告状を発したようですな」

「怪盗ね……その怪盗もかなり耳が早いな。【密偵】の天性を持っているのかもしれない」

「カイル君、いまは関係ないでしょ」

「いや、一概にそうともいえない。相手の情報収集力に関わるからね。……アヤメさん、その情報は本当に確かかい?」

「それがしをお疑いで?」

「そうじゃない。自信があるなら、すぐに帝国の国立学校へ向かうつもりだからだよ。兵は拙速を尊ぶというからね」

「なるほど。……自信はあり申す。なんせ複数の情報源から聞いた話ですからな」

「そうか。全員、旅の用意をしてほしい。すぐにでも国立学校へ向かおう」

「それがいいね。分かった」

「承知した」

 各々了解の意を示し、泊まっている長期宿泊用の宿――カイル以外の面々は、あらぬ疑惑を避けるため、カイルの家ではなく宿に滞留していた――へ、荷物をまとめるために向かった。


 彼らを乗せた、大型の乗合馬車は、がたごとと音を立てながら帝国へ向かう。

 決して上等な馬車ではないため、その振動は少しばかりわずらわしい。

 とはいえ、帝国へ行くための最も安全で確実な手段が、この乗合馬車しかないため、我慢せざるをえない。

 馬を借りられればもっと速いのだろうが、財布の中身が心もとない。

 多少遅くなってでも、節約をせざるをえなかった。

 それに、乗合馬車なら、この急造パーティでも仲間との交流ができる。

 ……はずなのだが……。

「レナス、セシリアさん、アヤメさんって、共通点がないよね」

 カイルがパーティの沈黙の中、ぽつりと漏らした。

「そういえば、そうだな。レナスさんとは元々同じギルドに登録している冒険者同士だったが、あまり接触の機会もなかった」

 セシリアが腕を組む。

「アヤメさんはコウガ出身で、確か連合王国には来たばかりだったよね」

「左様。この辺の文化圏は初めて見るものばかりですな」

「へえ。でも【鑑定士】の天性で、だいたいのものの特徴は把握できるんじゃないの?」

「それが、結構複雑でございまして」

 確かに、鑑定によって、その物がいつ、いかなるときに、どのように使うかなどは把握することができる。

 しかし、それでも歴史、文化的な知識が無いと、「なぜ、そのようなときに使うのか」が分からないようだ。

「例えば、アルタヤ祭りの屋台でカモ肉の串焼きを頂いたとしましょう」

 そのときにその串焼きを鑑定すると、古代の「バルキリアス」という英雄が、戦闘中に味方を鼓舞するために食したということが理解できる。

「しかし、バルキリアスが何者か、カモ肉を食べることがなぜ味方を鼓舞することになるのか、などについては、文化的な知識背景がないと分からぬことです」

 要するに鑑定で得られる結果は、行為者の知識、知見によって間接的に左右されるらしい。

「いまのアヤメ殿には分かるのか」

「然り。それがしとて、カイル殿の面接を受けるまで、何もしなかったわけではありませぬ。情報収集は連合王国の王都に来た瞬間から始めておりましたゆえ」

「良い心がけだね。上からの物言いに聞こえるかもしれないけど」

「いえ、何も。知らない土地のことをよく知ろうとするのは、当然でございますれば」

 そういえば、とアヤメ。

「レナス殿とセシリア殿は、このパーティに入るまでは顔なじみではなかったのですかな」

「うん。接点がなくてね」

 レナスは答える。

「私は生存術とか料理とか、戦闘以外が主な担当で、セシリアさんはたぶん純粋な戦闘担当だろうから、分野が違ったんだね」

「私もそう思う。一言で冒険者といっても、分野が違うとなかなか分からないものだ」

「そういうものでござるか」

「例えるなら、貴族お抱えの料理人さんと、屋台の店主さんとでは、分野が違うようなものかなあ」

 レナスが頑張ってひねり出した例え。

 アヤメは得心したようだ。

「なるほど」

「もっとも、私は『器用貧乏のレナス』という不名誉な評判があったみたいだけどね……」

 そこへセシリアが入る。

「実を言うと、その評判は聞いたことがある。レナス殿が具体的に何をできる人かは分からなかったものだが、器用貧乏の二つ名は、少しばかり聞いたことがあった」

 セシリアがしきりにうなずくと、レナスは気合を入れつつ返す。

「でも、もう器用貧乏は卒業だよ、カイル君の【司令】でガンガン活躍するんだから!」

「えっ僕?」

「そうだよ、カイル君がしっかりしないと、この一党は機能しないんだからね」

「違いないな。頭首殿、しっかり頼むぞ」

 一同はハハハと笑った。



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