◆05
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約一週間後、彼らは冒険者ギルドの会議室で面接をしていた。
「おはようございます。今日は僕たちのところに来てくれてありがとうございます」
カイルがあいさつ。
基盤やシステムがすでにしっかりしている商会や、大手の冒険者パーティでは、別にこのようなことを言う必要はないのだろう。
しかしカイルパーティは、少なくとも世間的には無名零細。加えて面接相手はなかなか有望であり、彼らとしても礼節を尽くす必要があった。
「こちらこそ、面接に呼んでくださり恐悦至極に存じまする」
アヤメも冒険者の礼服を着ており、きちんとあいさつに応じた。
忍びの礼服ではないようだが、それは忍びとしてこの場にいるわけではないから、やむをえないのだろう。
一度、忍びの礼服というものを見てみたかったカイルは、内心少しだけ残念に思った。
「で、アヤメさんは【密偵】と【鑑定士】の天性をお持ちのようですね」
「左様。どちらも最上級からは遠いといえど、鍛錬によりその腕を上げてまいりました」
鍛錬。
天性を持ちながら、それに寄りかかることなく訓練に励む。そういえば戦闘の腕も日々鍛えているとのこと。
少なくとも能力についての向上心はあるようだ。
「なるほど」
そこでカイルは、レナスから魔法の道具袋を借り、中から小さなビンを取り出す。
「ところでこの水薬を詳しく鑑定できますか、先日、とある方からの物々交換で手に入れたものなんですけども」
すっとぼけながら彼はビンを彼女に渡す。
「これでございますか」
彼女は受け取ると、しばらく眺めまわす。陽の光に当ててみたり、軽く振ってみたり。
「中身を一口味見することは……いや、これはその必要も無うございますな」
どうやら水薬の正体を把握したようだった。
「ほう。それが何か分かったんですか」
「然り。これは一時的に筋肉を強化する代わりに、しばらく後に飲んだ者を昏睡させる、少々危険な水薬ですな。決して治療用の水薬などではありませぬ」
「ほう。値打ちは」
「目の前の敵を倒した後の安全が確保できれば、有用な水薬ですゆえ、それなりに高く……この量なら百ドラースほどで、水薬屋には買い取っていただける品物かと」
完璧な鑑定だった。
水薬といえば、治療系のものが多い。この水薬のように危険と引き換えに何かを得るようなものは少数派である。……というミスリードに引っ掛かることもなく、正確に物品を鑑定してみせた。
まずは【鑑定士】としては及第点にあるといえよう。
「よくできました。だますようなやり方で大変申し訳ありませんでした。あなたの力量を測るため、必要だったということでご容赦願えませんか」
「もちろんでござる」
彼女は特に嫌そうにする素振りもなく、ただうなずいた。
「あとは……戦闘は後で見ますけども、えーと何だったかな」
「志望動機を聞いてみてはどうか」
セシリアの促し。
しかし彼は浮かぬ顔。
「僕、かねてからの疑問なんだけど、それ聞く意味ある?」
「どういうこと?」
「冒険者が一党を選ぶ理由なんて、『楽に分け前を得られるかどうか』ぐらいでしょ。仕事なんだから、そこに使命感とか正義感とか、なんか特別な理由があるほうが珍しいよ」
言うと、そこへアヤメが割って入る。
「それがしには分け前以外の理由があり申す」
「えっ」
驚いてカイルは目をぱちぱちさせる。
「それは、どんな?」
「カイル殿が、頭首としての資質を充分に持っておられるお方であると感じたからでございまする」
いわく。
カイルは頭首として必要な素質を備えている。それは単に【司令】だの【主動頭首】の天性があるという意味ではない。
仲間を増やすために、レナスを悪党から自らの力で救ったり、そのレナスを差し向けるではなく自分で、危険を顧みずセシリアに仕合を挑んだり。頭首でありながら、パーティの一員としての、いや、それ以上の責任感を持っている。
そもそも勇者パーティを追放されても腐ったりせず、きちんと自分の適性を考えた上で、次に自分はどうすべきかを悟り、折れずに、ヤケにもならず、冒険者パーティを組もうとしている。
「カイル殿には英雄としての才がある、人間として尊敬すべきところがある、そう感じ入ったゆえ、こたびは求人に応募させていただいた次第です。確かに勇者一党の構成員としては向かなかったのかもしれませぬが、立派なお方であると考えております」
「なるほど……」
カイルが冒険者にシフトしたのはつい最近のことなのに、詳細に彼の動向を把握している。とすれば、【密偵】の天性を試すまでもないだろう。
そして、こうも誠実であるならば、彼女が自己申告をした範囲では、戦闘の力量に疑いを差し挟む余地もあるまい。仮に多少足りなかったとしても、【司令】で底上げできるし、【密偵】と【鑑定士】として優秀であり、仲間としての価値は充分である。
「よし、アヤメさんを合格とします」
「えっ、この場で合格を頂けるのですか、戦闘もまだ見ておられませぬぞ」
「あなたは仲間とするに充分な方です。ここまでのやりとりで、それははっきりしました」
これからどうかよろしくお願いします。
カイルは素直に頭を下げた。
かくして仲間はそろった。
「さて、何から取り掛かろうか」
カイルが問いかける。
ギルド構成員には無料で貸し出している会議室を借り、打ち合わせをしているのだ。
「何からも何も、四大魔道具を探すんじゃないの?」
もっともなレナスの質問。
しかし。
「そうなんだけど、金策とか装備の更新、四大でない必要な魔道具を集めて冒険に備えるとか、下準備としてやることは結構ある。特に金策だね、何事をするにもお金がかかる。この一党を維持する、食費や宿代なんかもあるし。勇者一党から追放されたときに路銀を渡されたけど、それも決して無限じゃあないからね」
「むむ……」
「そこで僕から提案なんだけど」
彼は軽く咳払いをして続ける。
「勇者の剣をミレディたちより先に手に入れて、有償で譲り渡すのはどうかな」
一同は目を丸くした。
「つまり勇者の剣を勇者に売りつけるの?」
「確かに前例はあるが、金策のため売りつけたというよりは、冒険者たちが勇者に協力して、手間賃を少しばかりもらった、という話だぞ」
「そもそも、勇者の剣は勇者の象徴で、ただの冒険者が扱うのは下手をすると正義に反するとみられますぞ。四大魔道具ならまだしも」
なお、勇者の方針にもよるが、勇者パーティが四大魔道具を集めていた例も多い。名誉のためというより、もっぱら魔王との戦いに役立てるためにそうしているようだ。そしてミレディのパーティもその例に漏れないはずだった。
ともかく、カイルは答える。
「売りつけるというと下品な話に聞こえるけど、勇者の剣を他人に先に入手される勇者というのも、その適格性を問われてしかるべきだと思う。というか、僕を追放した時点で、一党の結成から結構経っているのに、いまだ手に入れられてなかった。そんな体たらくでいるミレディに、喝を入れる意味で、ちょっとばかり高値で商談を持ち掛けるのは、許されるべきなんじゃないかな」
「いやあ……その……」
レナスは渋い表情。セシリアも、なんとなくスッキリしないようだ。顔に書かれている。
しかしアヤメは違った。
「うぅむ、皆様方、よく考えてみれば、カイル殿の意見は筋が通っているように、それがしにはみえまする」
「おお!」
カイルは思わず感嘆をもらした。
「勇者の剣に限らず、お金で手間と時間の余裕を買う選択肢は、あらゆる物事に共通のことのように思えまする。勇者一党が、勇者の剣を手に入れるに、なかなか必要な量の手間と時間を割けないのであれば、代わりに入手してお金で解決するのは、なんら人の道に反しないことでしょうぞ」
彼女は淡々と話した。
「だけど、勇者にとっては、その象徴を金で買ったという事実は、今後常について回るよ……さっき話した前例は、色々特殊な事情のあった、あくまで例外的な場合みたいだし。私の知る限りでは」
「そこまで勇者の心配をする必要はないと思うよ。実際、四大魔道具なら、金で買った例も少なくはないし。勇者の名誉を気にするのは、結局お金の話を汚いと思っているからだろうけど、金策は冒険者にとって永遠の課題だ、その程度の理由でお金に困らせられるのは合理的でないと思うよ」
「うん……まあそう言われれば、そうだよね」
レナスは不承不承といった感じで、カイルの意見を認め出した。
するとセシリアも。
「まあ確かに、勇者一党も未だに勇者の剣を手に入れられていないのは、なかなか格好のつかない話だ。金で買わせられるなら、それでもいいのかもしれない」
「そうでしょう。……これでやることは決まったね。僕たちは勇者の剣を手に入れて、勇者一行に売り渡す。当面の目標だ。いいね?」
「まあ、仕方がないかあ」
三人の仲間は、それぞれの意思でうなずいた。
「よし、僕たちの初めての仕事だ、頑張ろう」
こうして、ついにカイルたちの伝説は始まった。




