◆19
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カイルは早速、仲間たちをギルドの貸し会議室に呼んだ。
そして事情を話した。
「……ってわけなんだけど、どう思う?」
聞くと、レナスが即答。
「行くべきだと思う」
二人もしきりにうなずく。
「ぜひ行って、二つ目の四大魔道具を手に入れるべきだ」
「好機が目の前にあるのに、逃がす手はありませぬぞ」
「むむ」
彼は仲間たちの断言を前に、しかし腕組みする。
「だけど、何があるか分からないよ。それなりの期間、催しは行われ続けているのに、いまだに突破者がいないってことは、絶対に何かあるよ」
「カイル殿」
アヤメが彼の名を呼ぶ。
「貴殿は失意の中、勇者一党を離れ、やむなく冒険者となったと聞きました」
「まあ、そうだね。それが何か……?」
「つまり貴殿にとって、四大魔道具の収集は、もしかしたら岩にかじりついてでもやりたいことではないかもしれませぬ。しかし、これは乗り掛かった舟なのです」
「乗り掛かった舟?」
「左様。我々は苦難の末、冒険者の何よりもの使命である四大魔道具の『四分の一』を達成し、バリスタの星光を手に入れました。つまり我々が行くべき四大魔道具への道はもう始まっておりまする。一つを手に入れただけで満足する、という選択肢など、中途半端で採りえぬと、そう考える次第でございまする」
アヤメは普段とは別人のように熱弁する。
どうしたのか、とカイルは一瞬思ったが、きっとアヤメ個人の異変ではない。
冒険者にとっての四大魔道具、冒険者の本質、達成すべきその使命を、むしろカイルは甘く見積もっていたのかもしれない。
アヤメも冒険者となってからはまだ日が浅いはず。しかしカイルは四大魔道具と直接は関係のない勇者パーティを経験している。それだけに、彼は四大魔道具の重さ、意味の大きさを見誤ったのかもしれない。
ならば反省しなければならない。
「分かった。サハッコに行ってダルトンの挑戦に参加しよう。確かに四大魔道具は冒険者の悲願。それを汲み取れなかった僕は、まだ甘い部分があるのかもしれない」
「カイル君は悪くないけど、どっちにしても行かなきゃならないと思うよ、私は」
「……しかしそれはそうとして、ダルトンの迷宮には、詳細は分からないけど何かが必ずある。旅道具と装備は、改めてきちんと、充分に整えてから出発しよう。みんな情報収集で疲れているだろう、まだ時間はあるはずだから、少し休日を設けてから街を出る。それでいいかい?」
「了解!」
「同意する」
「異論ありませぬ。万全に整えていきましょうぞ」
かくして、再び冒険は始まる。
一週間後、カイルのパーティは王都を出た。
その魔法の道具袋には、思いつく限りの事態に対応できるように、さまざまな種類の水薬がにぎやかに詰まっている。
それだけではない。各自の携行袋やポケットの中にも、容量の限界が考慮され、かつ、だいたいの事象に対処できる範囲の道具が入っている。
各自の携行できる容量は、魔法の道具袋と違って、かなり限られている。その中で道具の持ち主たちはやりくりしなければならない。
せめてダルトンの迷宮に何があるのか分かっていれば、その「何か」に特化した持ち物編成をすればいいのだが、それは仮定の話でしかない。現に目指す迷宮が何を隠しているのか不明である以上、広く事態を想定し、広く準備しなければならない。
肝心な情報がないというのは不便であるが、しかしそれはそれとして、可能な限りの措置を講じなければならない。
不確定要素。客観的には迷宮の「何か」は明確に存在しているのだろうが、カイルらの主観としては、知ることのかなわない事情である。そうである以上、これを不確定要素と称しても差し支えはないだろう。そしてそれゆえに特化した対策ができない。
彼は馬車から外の景色を眺めながら、自分の手元に最も重要な情報がないことを苦々しく思っていた。
「今回の遠征先は北の都市サハッコだね。確か海産物が有名なんだよね。海の幸をお腹いっぱい食べたいな!」
カイルの思いをきっと知らないレナスは、腹の立つほど無邪気にはしゃぐ。
しかしこれで実際に腹を立てるべきではない。彼は考え直し、話に乗ることにした。おそらくその方が楽しいからであった。
「麺類も有名だったね。サハッコ麺は僕も名前を聞いたことがあるよ」
「そうそう! 私、自分でサハッコ麺を作ったことがあるけど、なんか違っててさ、やっぱり本場で食べないといけないよね!」
レナスは満面の笑みを浮かべる。
彼女は【料理人初級】の天性を持っているはず。そのレナスですら完全には再現できなかったという。
きっと気候や地域独自のものが影響しているのだろう。
このことにはセシリアやアヤメも気づいたらしく。
「レナス殿でも『なんか違うもの』しか作れなかったのか」
「それがしも驚き申した。【料理人初級】をもってしても再現できないとは」
口々に感想を話す。
これは絶対に、現地で「本場のもの」をいただく流れだな。
普通のサハッコ麺は、それほど高価ではないはず。カイルはだいたいの金勘定を素早く行い、今後の冒険に問題がないことを確認した。
馬車で数日。都市サハッコに着いた一行は。
「わあ……!」
「予想はしていたが、にぎやかな街だな!」
「それがしの里とは比べ物になりませぬ」
カイルを除いてはしゃいでいた。
「ちょっと待って。アルトリアの帝都もこのぐらい人が多かったと思うけど」
彼の疑問に、三人は事もなく。
「帝都はなんか堅苦しい空気だったんだよね」
「そうだな。こちらはなんというか、もっと自由なものを感じる」
「そうですな、帝都はそこかしこに政治の気配がある都という印象でしたな」
「政治の気配ってどういう……」
カイルはひたすら困惑。
仮に都市整備や街の配置に「政治の気配」があったとしても、それは訪れる旅人には関係のないこと。
それに、そこまでアヤメたちが政治に敏感だとは思えない。もっとも、カイル自身も政略には疎い――細かい計算はできるのかもしれないが、政治というほど大げさなものには親しんでいないほうだから、他人のこともよく分からないだけなのかもしれない。
ともあれ、帝都とサハッコにおける反応の違いに首をかしげる。
しかし細かいことは気にしなくてもいいのかもしれない。
ま、いいか!
彼はその一言で問いを振り払った。
しかし、肝心の「ダルトンの迷宮に何があるのか」については情報が得られない。
カイルは一同を宿に入れた後、どうしても気になるので一人で手がかりを探した。しかし分からない。
かの迷宮に挑戦した者の中には、遺体となって戻ってきた者も多いという。物騒な話である。それを認めている治安当局も……いや、都市内の有力者の力で、そこはなんとかしているのかもしれない。
それにしても物騒には違いない。そして、彼らの息の根を止めた何かについて、これほど情報が見当たらないということは、その何かは見た者を逃がすことなく始末していると考えられる。
そうだとすれば非常に厄介である。
殺害率十割、必殺の何かが迷宮にあるということになるからだ。そしてそれがどんな形をしているか、何をするのか、どこに待ち構えているのか、隠れているのか、知るすべがない。
考えるだけで胃が痛んでくる。
自分と仲間を信頼して、高度の柔軟性をもって事に当たるしかない……言い換えれば無策で行き当たりばったりの行動をするということ。
ものによっては、一瞬で最適な判断をする必要に迫られる。本当にやっかいというほかない。
彼は、事前の情報収集という面白くもない堅実な方法をあきらめ、困難に勇ましく挑みかかることにした。




