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◆12

◆12


 それからカイルたちは、少しの準備をした後、王都を出発した。

 ジェイナスは馬車に乗ってきていたようで、カイル一党もその馬車に同乗した。

「移動手段まですみません。しかし僕たちも決して裕福ではないもので、本当に助かりました。ありがとうございます」

「いやいや、お仕事を依頼する方を同乗させないわけにはいきませんよ」

 馬を御しながら、ジェイナスはかぶりを振る。

「ところで……いくつかジェイナスさんに質問があります」

「はい、なんでしょう」

「妹さんの病気……『悪夢病』に効く水薬、とのことですが、その水薬を作れる水薬調合師の天性持ちにあてはあるのですか?」

 素朴な疑問。

「難病のようなお話でしたので、かなり階位の高い天性でないと調合できないのではないでしょうか?」

「あいや、待たれよ、カイル殿」

 ジェイナスの代わりにアヤメが答える。

「悪夢病の特効水薬は、材料は希少ですが、調合自体は素人でもできると聞き及んでおりますぞ。調合の心配はしなくてもよろしいものと愚考いたします」

「そうなんですか?」

 聞くと、ジェイナスが答える。

「はい。忍びの方のおっしゃる通り、材料さえそろえば素人でも簡単に作れます。そのご心配には及びません」

「なるほど。そうなんですか」

 カイルは「むむ」とうなった。

「ちなみに、紫電の山について、なにか他にご存知のことはありますか」

「山頂に住んでいるものがいるようです」

「えぇ!」

 素っ頓狂な声を上げるカイル。

「険しくて天気が悪くて獣が凶暴な山の頂上に、人が住んでいるんですか?」

「人かどうかも、詳しくは分かりません。ただ、何かがいるようではあります」

 ジェイナスは困惑気味に説明する。

「そんな正体も分からないような相手と、場合によっては戦いになるか……」

「カイル様方なら、と信じております」

「うむむ、想像以上に厳しい行路になるようですね」

「カイル様、どうかお見捨てにならないでいただければ」

「まあ、四大魔道具の一つがあるなら、冒険者としては受けるしかないお話ですけども」

 カイルの想像以上に難しい話のようだ。だが退くわけにもいかない。ここで退けば、誰かが代わりにバリスタの星光を獲得する。

 一党の仲間たちを危険な目に遭わせることになりかねないが、事ここにあってはやむをえない。後で充分に報いる必要がある。

 彼は前途を思い、深く息をついた。


 そうこうしているうちに、冷風の村に着いた。

 ひどく活気の少ない村である。若い人間が少ない。ジェイナスはおそらく、村の中でも貴重な若者なのだろうか。

 そのジェイナスですら、王都付近まで大規模狩猟の出稼ぎに来ていた。寒村とはそういうものなのだろう。

「皆さん、私の家はこちらです」

 彼が案内をする。


 彼の家はさすがにしっかりした造りで、隙間風などはあまり吹かず、はたから見て壊れそうな箇所もないように思えた。

 寒い地方なら、防寒のため建築技術が発達する。そのことになんら不思議はなかった。

「こちらがバリスタの星光です」

 言って、魔法石のはまった腕輪を見せる。

「アヤメさん」

「うむ……これは確かに四大魔道具ですな。力の気配もそうですし、聞き及んだ形と寸分違わず同じでございます」

 彼女は【鑑定士】の天性を発揮しているのだろう、しきりにうなずく。

「とすると、これは本物と考えていいと」

「左様。これは本物ですな。どんな職人でも、偽物としてはこれほどのものは作れますまい」

 太鼓判である。

「なるほど。……ジェイナスさん、疑うようなことをして申し訳ありませんでした」

「いやいや、私はいきなり仕事を頼んだ身です、疑われても致し方ありません」

 ジェイナスは手を振る。

「宿はこの村の宿屋の親爺にあらかじめ話しております。薬草を採ってくるまで、好きにお使いください」

 あらかじめ「話して」いる。つまり宿代を前払いしたのではなく、妹の病気を治せるということで、部屋をただで使わせることを頼み込んだということだろうか。

 とすれば、ジェイナスには妹と薬草についての話で、部屋を無料にさせるほどの人望があるということか。

 または、この村は人こそ少ないものの、お互いに強力な助け合いの絆を持っているのか。

 ……そもそもこの村の宿屋を利用する者がいない、という線もありうる。宿屋の親爺さんは副業をしているのだろうか。

 まあ、考えても仕方がない、と思ったカイルは。

「ありがとうございます。感謝します」

 素直に頭を下げた。


 その後、カイルたちはあらかじめ用意していた、寒冷地で寒さに耐えるための水薬を各人に配り、宿屋の一室で作戦会議に入った。

「事前に聞いたところによると、八又草は一人分しかないらしいね。あと、紫電の山の高度自体はあまり高くないらしい」

「しかし厳しい登山にはなるだろうな。険しく天気が荒く獣が狂暴となれば」

 セシリアが頭をかきながら。

「それがしの【密偵】天性によって、まずは様子見のため途中まで様子を見まするか」

「うん、頼むよ」

 カイルは提案を受け容れた。

「しかし事前調査か。まさかそれが要るまでに難しいとは」

「事前調査といえば、ジェイナスさんが描いた地図があるね」

 ジェイナスが「お役に立てば」としてカイル一党に渡した地図である。

 その地図は、途中までしか明確には記載されていない。あとは予想にすぎない。頂上にたどり着いた人間があまりに少ないためだ。もっとも、山頂に住んでいる存在が人間であれば、その者が登頂を果たした人間ということになるが……。

「途中までだけど、この経路だと、さすがに崖登りが必要になるわけではなさそうだね。……後半はどうか分からないけど」

「分からないというのは怖いものだな」

「仕方がないさ。安全な冒険なんてないからね」

 セシリアの言葉に、彼は返す。

「本番前に調べるとしたら、地図に載っているところまでとなるだろうけど、まあ地図だけじゃ分からないこともあるからね」

 できれば地図の先も把握したいところだが、それをやるとそのまま山頂を目指すことになる。

「あと、登山は数十人で組んで、大規模な野営を張りながら進むのが安全って聞いたことがあるけども……」

「バリスタの星光の取り合いになるよね……」

 レナスがぼそっと。

「その通り。安全策はとれない」

「なかなかつらい話ですな」

 アヤメが腕組みをする。

「仕方がないさ。危険はなるべく摘み取るべきだけど、どうしようもないところは、どうしようもない。僕はこれでも、一党の頭首として、できる範囲で、危険の少ない道を選び続けているつもりだけど」

「致し方ありませぬな」

「カイル君は悪くないよ。悪いのは現実というか、なんというか」

 モゴモゴしながらレナスが励ます。

「というわけで、危険な旅ではあるけど、ついてきてくれるかい?」

 一同は「もちろん!」「御意」「当然だ」などと肯定の意を表した。



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