◆11
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獣狩り初日。出発の時間。
ギルドが手配した、南方面の馬車に乗って移動している。
「この面子で獣狩り、なんだかワクワクするね!」
はしゃぐレナスを、しかしカイルは。
「まあ、たきつけるようなことを言った僕も悪いけど、油断はしないでね」
「それがしも里でよく狩ったものです。……そういえばレナス殿は【生存技術者初級】のはず。ワナを仕掛けるほうが、直接獣と戦うより向いているのではござらぬか?」
「あ! そういえばそうだね。ワナならそこそこ作れるよ。素材も道具袋の隅っこにあったはず」
「ワナかあ」
レナスは思いがけないところで器用である。
頼もしい。
カイルは、いつもキャッキャしている彼女に対して、珍しくもそのような感想を抱いた。
「……水薬は作れないんだったよね」
「うん。生存技術にも料理にも、水薬作りは含まれないみたい。聞いた話だと『水薬調合師』の系統か【魔道具職人上級】じゃないとなかなか上手くいかないんだって」
「そっか。まあ気にすることはないよ。獣狩りでガッツリ稼ぐんだから」
話に花を咲かせていると、いかつい男が会話に入ってきた。
「おう兄ちゃん、そこの女子三人と一緒に獣狩りに参加するのか?」
カイルはとっさに警戒する。
「はい、そうですけど」
しかし、要らぬ心配だったようだ。
「ほう……兄ちゃんは優秀だな。いい天性を持っている。女子三人も兄ちゃんの天性の効果を受けるに適している面々だ。これはいい成果が出せるだろうな。頑張れ」
「むむ、もしかして【鑑定士】の方ですか」
カイルは言いつつ、いかつい男を観察する。
まず【鑑定士】を持っていることは確実だとして、戦闘系と、いくつかの探索に関する天性も持っている気配がする。しかも中級、または上級もありうる。
いうなれば万能型。それもレナスのような、【司令】で底上げしないと器用貧乏になる水準ではない。
きっとこの男はパーティを組まず、単独で冒険に出られる、天才と呼ぶに足りる人間なのだろう。警戒どころか、敵対を避けたい相手だ。
それはともかく。
「おう。【鑑定士】も持っている。他の天性は秘密だけどな!」
この一言で、この男が「他の天性」を持っていることが確定した。きっとカイルの予想通りの内訳だろう。
「お名前をうかがっても?」
「俺はバーツ。お前は?」
「カイルです」
「カイル……んん? 勇者一党にいたカイルか?」
「そうです」
「いまは勇者のもとを離れているのか」
「はい」
「そうか、悪いことを聞いたな」
ここまでの会話で、バーツはカイルの天性を把握している。
つまり彼は、おそらくだが、カイルがその天性ゆえに勇者パーティを外れたことを察したのだろう。
「いえ、もうそういうのは大丈夫です」
「そうか。よければ色々教え……る必要はないな。全員、旅の経験はあるみてえだから、こういうのもすぐに馴染むだろ」
「お気持ちだけ頂いておきます」
カイルが言うと、バーツはニカッと笑った。
「もうすぐ俺の狩場だ。お前らはどこまで?」
「もう少し遠くまで行ってみたいと思います」
「そうか、じゃあここいらでお別れだな。頑張れよ!」
「ご武運を!」
言うと、馬車は止まり、バーツは「ありがとう!」と言って降りた。
ほどなくして、カイルらもあらかじめ選んだ林に着き、狩りを始めた。
「獣道にトラバサミを作ったよ! あっちには落とし穴も、ちゃんと人間には分かるように看板を立てた!」
「よし、アヤメさん、獲物の気配を探って」
「むむ……あちらに大物の気配が」
「よし、行くぞカイル殿!」
一同が駆け出す。
草むらをかき分け、枝を剣で振り払い、アヤメの示す方向へひたすら行くと。
「大きな猪だね」
果たして、狩りの対象がいた。
かなり体格のいい猪だが、カイルの直感によれば、この四人でなんとか狩れそうである。
「アヤメさん!」
「はっ、体毛に覆われていない……目を狙います!」
矢をつがえ、短弓の弦を引き絞る。
そして、風を切り裂き矢が奔る!
「ブモッ!」
あやまたず、猪の目に命中した。
「この隙を逃すな、全員で行く!」
カイル、セシリア、レナスが剣で滅多切りにする。
「ブモ、ブモーッ!」
体毛があるとはいえ、天性で大幅に強化された三人の斬撃。その刃はたやすく自然の鎧を切り裂いた。
「グ……グ……」
しばらくして、カイルたちは猪の絶命を見届けた。
「やった……!」
「毛皮はズタズタで使えないから、あとで肉を干そうよ。それまでは血抜きして道具袋だね」
「ギルド提出用に耳を削ぐよ」
そうでないと、どの程度狩りに貢献したのか、証拠が残らない。むしろ肉は狩りの副産物でしかないのだ。
そのとき、アヤメの感覚が何かを捉えたようだ。
「ワナのほうから反応がありますな」
「よし行こう!」
一同は来た道を戻る。
トラバサミには一角ウサギがかかっていた。
小さいながらも凶暴かつ畑を荒らす害獣で、ついでに肉が美味とされる。
「お肉!」
「角を提出用に切り取るよ」
一角ウサギの脳天を短剣で刺してとどめを加えたあと、トラバサミを解除し、毛皮をはいでレナスが血抜きの工程をする。
慣れていなければかなり血なまぐさい光景だが、この四人はいずれも、この手の景色には慣れていた。当然のように手伝う。
「今度は落とし穴に反応ありますぞ。これは大きいかもしれませぬな」
「入れ食い状態だね。行こう」
彼らは駆けずり回る。
夕方に王都に帰ってきたときには、カイル一党はかなりの成果を挙げていた。
「これはすごい。だいぶ捗ったみたいですね」
ギルドにて、実検係の女性職員が「大猪まで……!」と驚嘆の声を上げる。
「ちょっとは稼げるみたいだ。狩りの期間はあと一週間と少し、ですね?」
「はい。この調子ならかなり稼げるはずです」
「わかりました。まだまだよろしくお願いします」
一同は一様に満足げだった。
狩りはその後も順調に進み、やがて終わりを迎えた。
「諸君らのおかげで大規模狩猟は大成功に終わりました。厚く御礼申し上げます。これにて動員を解く!」
集会所でギルド理事長が言うと、冒険者たちは思い思いに動き出す。
レナスがカイルに問う。
「お肉とか毛皮とか、どうする、いやまあ毛皮は売るしかないけど、お肉は干し終わったらもちろん売れるし、私たちの食料にもできるよ」
「そうだね……どうしよう」
「私は換金すべきだと思う」
「左様ですか、それがしは我々の食料にすべきと存じますが」
そのとき、ふいに声をかける者がいた。
「もし、あの、カイル様ですか」
声をかけた一人の若者。彼の名はジェイナス。
彼の話すところによると、猟師として生計を立てているらしい。
「今回の獣狩りにも参加を?」
「はい。もっとも、カイル様方には全く及ばない結果でしたけれど」
「そりゃそうですよ。私たちは四人で組んで狩りをしたんですから、一人で参加したジェイナスさんが上回るのは無理ってもんですよ」
レナスが答えるが、カイルは制止する。
「レナス、まずはジェイナスさんの話を聞こう。僕たちに何か御用なのですね?」
「ええ。実は私の妹が病気で、水薬を作らなければならないのです」
いわく。
ある山の頂上にあるといわれる薬草「八又草」を採ってきてほしい。その薬草があれば、猟師が妹の病気に効く水薬を作れるという。
報酬は四大魔道具の一つ、「バリスタの星光」。
「バリスタの星光をお持ちなんですか!」
なんという幸運。好機は目の前にあった。
「いや……まずはものを見せてもらいましょう。ご自宅にあるのですか?」
「はい。ここから少し離れていますけれども」
「どちらで?」
「北の村『冷風の村』です。薬草のある『紫電の山』からはそんなに遠くない、というか近いのですが……」
ではなぜ自分で取りに行こうとしないのか。
「カイル殿、ジェイナス殿がなぜご自身で採りに行かれないのか、疑問にお思いになったのではありませぬか?」
アヤメ。
「うん、まあ、そうだけど」
「それがしが代わりにお答えいたそう。紫電の山はとにかく危険なのです」
「険しい山ってこと?」
「それもありますし天候も荒いのでございますが、山に棲む獣も凶暴なのです」
アヤメはおそらく、紫電の山を何らかの形で経験したのだろう。
「険しくて天候が荒くて獣が凶暴、か。確かに難しいだろうね。どれか一つだけだったら大したことはないんだろうけど」
「どれか一つでも難しいと思うよ」
とレナス。生存技術者の天性ゆえか。
「そうか。つまりその山の頂上を目指すのはとんでもなく苦しい行程になると」
「うん。正直全滅してもおかしくはないよ」
「でも四大魔道具と交換だからね……行かないわけにはいかないと思うんだけど」
カイルが言うと、仲間たちは一様に渋々うなずく。
「まあ、四大魔道具をあえて見逃すという選択肢は、ないのだろうな」
「確かに行くしかないんだよね……」
「まずはジェイナス殿の持っているバリスタの星光を見せていただくのはいかがですかな」
アヤメの提案に、一同は首肯した。
「まあ確かに、モノを確認したいね。疑っているわけではないけど、慎重に決めたい。山も試しに踏み込んでみたいし。……というわけでいかがでしょう、ジェイナスさん」
「もとより私は、勇者の剣を守り切り、今回の狩りでも大戦果を収めたカイル様方なら、必ず成功すると信じてお話を持ってまいりました。そのためなら、魔道具を隅々まで調べていただいても、全く構いません。カイル様方からみれば、いきなり出てきた私はうさんくさい猟師にもみえるでしょうし、その誤解を解くのにも最大限の協力をします」
彼は疲れたような、しかし希望を持っているような笑みを見せた。




