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◆13

◆13


 その夜。

 カイルはあまり眠れないので、防寒具を着て外で星を眺めていた。

 ついに四大魔道具に挑戦を始めた。

 厳密には勇者の剣関連で、すでに冒険を始めてはいる。しかしその実質は怪盗との戦いだけで、登山や洞窟踏破など、旅らしい旅はしていない。……勇者パーティ時代にはしていたが、彼はそのとき一構成員にすぎず、頭首として仲間の命を預かる役には就いていなかった。

 緊張をしているのか。彼は自分自身に問う。

 冷たい夜風が吹く。

 ……旅らしい旅。それは自然を相手にした戦いともいえる。逆にいえば、戦いの相手となる自然の環境をよく調べ、入念に対策を練れば、勝てない戦いではないはず。

 とにもかくにも、緊張していて寝られなければ、仕事に差し支えも出よう。

 彼は星々の瞬く空を、しかしちらりと見ただけで、自室へ戻った。


 数日後の夕方、探索をしてきたアヤメから報告を聞いた。

「概ね地図の通りでございました。ただ他にも経路がございまして」

 彼女はいくつか発見した経路を報告したが。

「話を聞く限り、一番安全なのは当初の経路だね。変更はなしってことで」

 結局、当初の計画通りの経路で挑むこととした。

「むう、提案が通らないのは少しばかり悔しゅうございますな」

「仕方がないよ。この経路が一番安全に見えるんだから。頭首としても仲間をなるべく安全に率いたいし」

「それは、そうかもしれませぬが」

「危険な中、偵察に行ってくれたアヤメさんには感謝しているよ。ありがとう」

 言うと、アヤメは少し顔を赤くしながら「まあ、当然のことですゆえ」ともじもじしていた。

 それを見てレナスが一言。

「仲間を口説くのやめなよ」

「エェ……口説いてなんかいないよ」

「なんか腹立つんだよ。私だってこんなに頑張っているのに」

「まあ、狩りの時は血抜きとかはぎ取りとか、色々頑張ってくれたのは確かだ。ありがとう」

「わ、分かればいいけど……」

 レナスももじもじすると、今度はセシリアが。

「カイル殿、戦闘で一番頑張っているのは私ではないかな」

「もちろん、セシリアさんは貴重で重要な戦力の一人だね。怪盗戦ではよく頑張ってくれた。ありがとう。山登りでも獣との戦いはあるだろうから、よろしく頼むよ」

「フヘヘ」

 カイルを除く全員が妙な反応になったところで、彼は活を入れる。

「さあ、明日は登山に挑戦だ。みんな準備をして、しっかり睡眠をとってほしい。下調べがあるとはいえ、奥までは行っていないからね。今日の会議はこれで終わり!」

 彼の合図に、皆が「おう!」と拳を上げた。


 当日。カイル一党は紫電の山を進み始めた。

 どうやら仲間たちは登山自体の経験はあるようで、何かを教えずとも基本的なことは実践していた。

 思えば、レナスとセシリアは冒険者としてはカイルより先輩で、アヤメも忍びの里出身である。各々登山の心得があってもおかしくはない。

 レナスが【生存技術者初級】として雲行きを見る。

「もうすぐ強い雨が来るよ。ほら穴を見つけて入ろう!」

 雨をやり過ごすと、今度は獣の気配。

「獣はあちらに数匹……幸いにも我らからは逆方向へ行く様子。やりすごすか戦うか、どういたしまするか、カイル殿」

「この草むらでやり過ごそう。向かってきたら応戦だ」

 アヤメは「御意」とうなずく。

 また別の場所では、回避できない位置に群れからはぐれたイノブタ。

「カイル殿、提案がある。このままあのイノブタに奇襲を仕掛けてはどうか」

「そうだね。この位置では避けては通れない。後ろからあのイノブタを倒す」

 そっと近くの物陰に隠れると。

「いまだ、行くよ!」

 カイルとセシリアが踊り出て、獣に不意の一撃を加える。

「グエェ!」

 一党の主戦力から攻撃を受けイノブタは、おそらくは即死。

 そこを抜け目なくレナスが解体する。

「お肉!」

 血抜きをし、魔法袋に収納する。

「肉はあとで干して食料にする。まずは先に進もう」

 彼は山頂を指し示した。


 途中、地図にない部分に入ってから、さらに奥に分け入ったとき。

「カイル?」

 後ろから野太い男の声。別の経路で来たのだろうか。

「カイルじゃねえか。こんなところで何やってんだ?」

 バーツ。先日の野生動物狩りの際に出会った、ソロの冒険者である。

 そして、彼がここにいるのがなんの目的か、カイルは察した。

「多分……バーツさんと同じ目的だと思いますよ」

「そうか。ここには八又草しかねえもんな」

 走る緊張。同じものを目的にしているということは、その目的物を奪い合うのが必然ということだ。

「山頂の八又草は、一人分の水薬に使う程度しかないと聞きました」

「俺もそう聞いてるな」

 カイルが剣の柄に手をかける。セシリアも洋刀を抜き、アヤメは弓を構え、レナスは小ぶりの剣を抜こうとする。

「悪夢病を患っている人は、一人じゃないってことですか。しかしそれでも、僕たちは僕たちの依頼人に忠実でなければならない。重要なものがかかっていますから」

「俺も悪夢病に苦しむ人の思いを背負っている。お前の重要なものが何なのかは知らんが、俺も自分の生活、飯の種がかかっている」

 しばしにらみ合う。空気は冷たさとともにひりつき、風は互いの戦意を叫ぶ。遠くの獣の遠吠えが、命のやり取りの気配をより鮮明にする。

 やがて。

「いや、俺の負けだ。俺はこの依頼を降りるよ」

 バーツが剣を納めて「ふーっ」と息をついた。

「カイル、お前の一党が、主にお前の天性によって強くなってるってのもある。単独の俺が攻めかかったところで、一人ぐらいなら倒せるかもしれんが、俺はきっと負けて命の危機にもなるだろう」

「バーツさん……」

「だけどそれだけじゃねえ。カイル、俺はお前に期待したい」

 バーツは拳を突き出した。

「お前は何か大きなことをしそうな気がする。冒険者だから四大魔道具に関することかもしれないし、もっと別の、こう、大きな業績を挙げるかもしれねえ。これは俺の直感だ。実際、先だっての狩猟ではかなりの好成績だったからな」

「それは……どうでしょう」

 まさに今回の挑戦は四大魔道具の一つにかかっているのだが、カイルはそれを黙っておくことにした。

「俺の代わりに八又草を採ってきてくれ。俺は依頼人になんとか説明して分かってもらうことにする」

「バーツさん……ありがとうございます。ご恩はいずれ必ず返します」

「いいってことよ。そうだな、大きなことを達成してからの出世払いでいいや」

「ありがとうございます。本当に……」

 バーツは来た道を戻り、「じゃあな、頑張れよ!」と残して去っていった。


 その後、カイルたちは無事に山頂にたどり着いた。

「わあ、絶景だね。あそこに冷風の村が見えるよ」

「標高はそんなにないはずだけどね。それにしても……」

 一同は山頂にたたずむ、あるものを見る。

「小屋だ」

「小屋だね」

 山頂に小さな家のようなものがある。

「確かに山頂に住んでいるものがいそうだね」

「人が住んでいるのだろうか」

「左様、これはどう見ても人の家でございます」

 しかしカイルは話を制する。

「仮にここに人が住んでいたとしても、八又草は自然の産物で、この住人のものじゃない。それはそこの、八又草の生え方をみれば分かる。これは栽培の植え方じゃない」

「つまり住人は無視ってこと?」

「僕たちの仕事には関係ないからね。さっさと薬草を採取して帰ろう。レナス、頼む」

「はあい」

 レナスが【生存技術者初級】によって、八又草をきれいに採取する。

「はい、採取したよ。道具袋に――」

 言いかけて、彼女は何かに気づいた。

「カイル君、後ろ!」

 とっさにカイルは飛び退き、背後を確認した。

 視線の先には、人。老爺である。

「山頂にまさか人が来るとは。……薬草を持って帰る前に話を聞いてくれ」

「僕たちの任務は、あくまでこの薬草を――」

 しかし老人は、カイルの言葉をさえぎり大声で返す。

「いいから話を聞け、天罰が下るぞ!」

 老人は興奮し、いまにも戦いでも始めるかのような空気である。

「困ったな」

「カイル殿、とりあえず話ぐらいは聞いてやってもよいと思われまする」

「アヤメ殿に賛成だ。どう出るかは話次第でよいではないか」

「話を聞かなくても、もう面倒なことになってるからね。カイル君、予想外の出来事だけど、まずは聞くことからじゃないかな」

 口々に話だけは聞いたほうがよいとメンバーたち。

「そうだね。お爺さん、お話をうかがいましょう」

「それでいい。狭いところだが入れ」

 四人は若干の警戒をしながら小屋に入った。



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