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第十二章 ゴディバ・レジェンデール・トリュフ(16)

「でも、これからは違うかも」

 ミワの息で俺の肩が湿った。俺はベッドの中でミワを抱いていた。セックスはしていない。ただゆっくりとミワの背中や腕をさすっていた。それだけでいいの、とミワは言った。それだけで気持ちいいから。

「家族になろうってイチイの言葉、今まで生きてきた中で一番嬉しかったかも知れない。あたし、それを誰かから言ってもらえるの、ずっと待っていた気がする。……あたしたち、本当に家族になれるかな?」

 俺はミワの髪を撫でた。

「なれるさ。俺たち……三人で」

「そうだね」

 俺はそっとミワの腹をさわってみた。そんなにふくらんでいるように思えないが、この中に一人の人間が確かにいるんだものなあ。あの胎児の写真を思い出しながら、その光の跡をなぞるように指をゆっくりと動かす。ミワがくすくす笑い声をたてた。

「くすぐったいよ」

「ごめん、ごめん」

 ひとしきり笑ったあとで、ふっとミワが悲しそうな顔になった。

「……でもイチイ。本当にあたしと結婚できるの?」

「どうして?」ドキリとした。

 ミワが目を伏せる。「だって……、今、ほかにつき合っている人がいるんでしょ」

 俺はちょっと言葉を失って、でもすぐに答えた。なるべくしっかりとした口調で。

「心配しなくていいよ。明日ちゃんと別れてくるから」

「ほんと? 大丈夫?」

「ああ。信じてくれ」

「うん。イチイを信じてるね」

 ミワは嬉しそうに俺の胸に顔をうずめた。俺はミワの頭を抱えた。

 明日、サキに別れを告げる……。そのことを考えただけで、キリキリと胸の奥が痛み、自然と顔がゆがんだ。もう決めたことだ。あと戻りはできない。でも永久に明日がこなければいい。そう思っている自分がいた。


“But maybe it’ll be different from now on.”

Miwa’s breath was damp against my shoulder. I was holding Miwa in bed. We weren’t having sex. I was just slowly stroking her back and arms. “That’s enough,” Miwa said. “It feels good just like that.”

“The words you said—“let’s become a family”—might be the happiest thing in my life. I feel like I’ve been waiting for someone to say that to me. …Do you think we could really become a family?”

I ran a hand through Miwa’s hair.

“We can… the three of us.”

“Yeah.”

I gently touched Miwa’s belly. It didn’t seem to be showing much yet, but there was certainly a person in there after all. Remembering the photograph of the fetus, I slowly moved my finger as if tracing the trail of light. Miwa let out a small giggle.

“That tickles.”

“Sorry, sorry.”

After we finished laughing, Miwa suddenly looked sad.

“…Ichii. Can you really marry me?”

“Why?” My heart skipped.

Miwa lowered her eyes. “…Well… you’re seeing someone else now, aren’t you?”

For a moment I lost my words, but I answered immediately. As firmly as I could.

“Don’t worry. I’ll break up with her properly tomorrow.”

“Really? Will that be okay?”

“Yeah. Trust me.”

“All right. I trust you, Ichii.”

Miwa happily buried her face in my chest. I held her head against me.

Tomorrow I’ll break up with Saki… Just thinking about it made a sharp pain stab deep in my chest, and my face twisted. I’d already decided. There was no going back. But I wished tomorrow would never come. Part of me felt that way.

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