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流浪少女と非行青年のオークワードライフ ~Awkward Life of a Lost Girl and a Lonely Boy~  作者: 二核
分かれ道のその先で

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諦めたはずの人

【春香由紀】

 ――私は特別なものを持っている。

 昔、ある人からその存在を教えられ、時を経てその正体を知った。

 飾らなくても、整って見える顔立ち――。

 意識をしなくても、勝手に女性らしくなってしまう肉付き――。

 きっと、あの時のあの人が言っていたのは、このことだったんだ。

 実際、この容姿のおかげで、人は寄ってきた。

 私にとっては、この上ない証だ。

 だけど、こんなにも他者から承認されているというのに、満たされるのは一瞬で、消えていく回数を重ねる度に、寂しさだけが募っていた。

何故だろうと、考え続ける日々だったけれど、彼との過ごした時間で私は一つの答えに辿り着いた。


 私は特別の使い方を間違っていたのだと――。




 冷房が強くかかった部屋で、布団もかけずベッドで横になっていた私は、冷え切った体を震わせて上半身を起こした。

 喉がとてもヒリヒリするので、洗面所でうがいをして痛みを少しでも和らげる。

 そして、冷たくなった体温を戻すために、病室の窓を全開にして外の熱気を全身に浴びた。

 その間、私は窓枠に頬杖をつき、ここから映る景色を一望していた。

 都会のはずなのに、そんな印象を全く抱かせない緑に包まれた場所。

 いつぞや、涼花と一緒にいた場所に、とても似ている。

 こんな田舎のような空気に著しく安らぎを感じるのは、ずっと華やかな世界に身を置いていたからだろうか。

 華やかと言っても、決して良い意味ではないけれど……。

 さて、睡眠時間を充分にとれて目の保養もできたことだし、コンディションはすっかり万全だ。

 もう、私がここにいる理由はどこにもない。

 私は床頭台から自分の荷物を取り出し、紛失物はないか中を漁った。

「……」

『心の病気は医者の独断で一方的に治療はできない。どう試行錯誤しようとも、一歩目は患者から歩み寄ることしかできないの』

 ふと、美奈さんの言葉が過り、作業中の手がピタッと止まる。

 患者から歩み寄るしかない……。

 脳内を駆け巡る美奈さんの言葉を払拭したが、その言葉だけはウイルスのように繁殖してちらつかせていた。

 そんなことは分かっている……。

 自分から何もしなくても、勝手に誰かが助けてくれるような話なんて、子どもに向けたご都合主義のハッピーエンドでしかない。

 でも、いつぞやの私はそんなハッピーエンドを期待して、いつの間にか眠ることのない華やかさで包み隠した狂気の世界に迷い込んでいた。

 甘い噓に何度も裏切られ、気づけばそれが当たり前になって生きなければならない天国を装った地獄。

 そんな現実を知ってもなお、私は懲りずにご都合主義のハッピーエンドをどこかで期待してしまっているのだ。

「……これで、足りるかな?」

 支度を終えた私は、ベッドの上にお札を並べて、風で飛ばないように枕で挟んだ。

 分からないけど、流石に何らかの費用は発生しているはずだ。

 念のため、私のお金だと分かるように感謝を綴った置手紙も一緒に挟んでおこう。

 これで、ようやく準備が整ったので、私は誰にもバレないように逃走経路の確認を始めた。

 施設内では、人との接触は避けられない。

 そこで、窓から出られないかと外を覗いてみると、そこは人通りが全くない場所だった。

 そして、真下には足場になりそうなパイプが設置されていたので、私は迷わず窓の枠を跨いで足を置いた。

 外壁の出っ張りを掴みながらパイプに従って横に移動し、並列に伸びた一段下のパイプが近づいてきたら慎重に乗り移る。

 そして、安全な高さまで降りたら、先に荷物を地面に落とし、身軽になった状態で私も飛び降りた。

 コンクリートに足を付けたら、改めて周囲に人がいないかを辺りを見渡す。

 ……どうやら、誰もいないようだ。

 一つの関門をクリアできたことに、ホッと胸をなでおろす。

 あとは、裏口からでも壁からでもいいから、人目のつかないところからここを出るだけだ。

 軽く深呼吸をして緊張をほぐしたら、荷物を持って出口を探そうと足を動かした。

 すると、前を歩いていた視界が、突然何かに覆われたように影を落とした。

 何事かと上を見上げると、一枚の真っ白な布が私を陽の光から遮っていた。

 唐突なことに反応しきれなかった私は、避けることもできずにひらひらと落ちてくる布を頭から被り、視界が悪くなった影響で足元を崩してしまった。

「いったー……」

 幸い、布が良いクッションになってくれたおかげで血は出なかったが、お尻を思いっきり地面に叩きつけてしまい、私は痛みを和らげようと必死にさする。

「ごめんなさい。大丈夫ですか?」

 私が布をどけようとしていると、一人の男性の声が聞こえてきた。

 どうやら、私の脱出計画は失敗に終わってしまったようだ。

 何故ここにいるのか、問い詰められるだろうか。

 言い訳を考えながら布をどけると、まずは相手の様子がどんなものかを確かめる。

「……立てますか?」

 そう言って、手を差し伸べる彼の姿を見た私は、一瞬心臓が止まりそうになった。

 透徹した宝石のような銀色の髪――。

 澄んだ青空の色をした瞳――。

 全身雪で覆い尽くされたような真っ白な肌――。

 その顔を何度見たことか……。

 運命の神様は私の諦める気持ちを許してはくれないようだ。

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