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真夏ダイアリー  作者: 大橋むつお
39/72

39『ジーナの庭・1』

真夏ダイアリー


39『ジーナの庭・1』    




 国務省から戻ると、さすがに真夏も二人の大使も疲れ切っていた。


「もう三十分もすれば忙しくなる。少し休息をとっておこう。真夏君も部屋で休んでいたまえ」


 野村大使は、おしぼりで顔を拭きながら言った。来栖特任大使は、ネクタイを緩めてソファーに体を預けている。


「では、しばらく失礼します」


 わたしは、大使館の三階にある自分の部屋に向かった。


 ドアを開けると、オソノさんが立っていた……。


 正確には、わたしが、オソノさんのバーチャルロビーに立っていた。


「お勤め、ごくろうさま」


 そう言うと、オソノさんは指を鳴らし、違う女の人に代わった。


「あなたは……」


「オソノよ。ちょっとイメチェンしたけど」


 わたしは、スマートな変身ぶりに付いていけなかった。


「あなたの任務はここまで。あとは歴史の力にまかせるしかないわ……少し、お庭でも散歩しない?」


「は、はい」


 庭に出ると、程よい花の香りがした。最初ここに来たときのCGのような無機質さは無くなっていた。


「良い香り……あ、エリカがいる!」


 庭に出てすぐの舗道の突き当たりに、ジャノメエリカがいた。大きさも、花の咲き具合も、お母さんと大洗に旅行に行く前と同じだった。


「あなたの家のジャノメエリカのDNAで作ったレプリカだけど、気に入ってもらえて嬉しいわ。帰るときに持って帰っていいわよ」


「ありがとう、ジーナさん!」


 言ってから気づいた。わたしってば、ジーナさんと呼んでいる。


 左に折れると、一面のお花畑だった。


 すみれとコスモスが一緒に咲いたりして、季節感はめちゃくちゃだったけど、わたしの好きな花たちばかりで、嬉しくなった。宮崎アニメの『借り暮らしのアリエッティー』の庭のようだった。


「この香りを出すのが大変でね。最初に来てもらったときは、あり合わせのホログラムで間に合わせたけど、今のは、限りなく本物に近くしてあるわ」


「え、これ造花なんですか?」


「ええ、枯れることもなければ成長すりこともない。でも、さっきのエリカは本物よ」



 やがて『紅の豚』のジーナの庭にあったのとそっくりな四阿あずまやが見えてきた。



「わあ、ステキ、ジーナの四阿だ!」

「あそこで、お話しましょう」


「ちゃんとアドリア海まであるんですね……」

「書き割りみたいなもの……世界も、こんなふうに作れるといいんだけどね」


「……一つ聞いていいですか?」


「なぜ戦争を止めるようにしなかった……でしょ?」


「はい。わたし、いろんな知識をインストールされて分かったんです。真珠湾攻撃はハル長官に交渉打ち切りの申し入れが遅れて、リメンバーパールハーバーになったんですよね」

「そうよ」


「それを間に合わせるのが、わたしの任務だった」

「そう」


「それだけのことが出来るのなら、戦争を起こさない任務につかせてくれれば……」


春夏秋冬ひととせさんが言ってなかった。わたしたちが遡れる過去は、あなたの時代が限界だって」


「ええ、省吾だけがリープする力があったけど、省吾も限界だって」


「そう、だから、力のある真夏さん。あなたにかけるしかないの」


「だから、戦争をしない方向で……あの戦争では三百万人以上の日本人が死んだんでしょ」


「今の技術じゃ、あなたを送り出せるのは、1941年の、あの日が限界なの。それに、あの戦争の原因は、日露戦争にまでさかのぼる。例え、あの時代までさかのぼっても夜郎自大になった日本人みんなの心を変えることはできないわ」


「日本を、あの戦争に勝たせるんですか?」


「それは無理、どうやっても国力が違う。勝てないわ」

「じゃあ……」


「真珠湾攻撃を正々堂々の奇襲攻撃にするの。予定通りにね……そうすれば、リメンバーパールハーバーにはならない。ハワイを占領した段階で、アメリカは講和に乗ってくるわ」


「やっぱり日本を勝たせるんですか?」

「いいえ、講和よ。日本もかなりの譲歩を迫られるわ」


「じゃ、軍国主義が続くんですね……」

「講和が成立すれば、そうはならないわ。わたしたちの計算では、そうなの……信じて。あなたは、歴史を、望める限り最良の方向に導いたのよ」


「……だといいんですけど」


 その時カーチスそっくりのおじさんが、何かを持ってやってきた。


「いけない人、ここはプライベートな庭よ」

「どうしても、君に伝えたいことがあってね」


 カーチスのそっくりさんは、USBのようなものを渡して、あっさりと帰っていった。


 ジーナを口説くことも、大統領になることも宣言しないで……。



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