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真夏ダイアリー  作者: 大橋むつお
40/72

40『ジーナの庭・2』

真夏ダイアリー


40『ジーナの庭・2』    



 ジーナの姿のオソノさんは、USBを握った。すると四阿(あずまや)の中に映像が現れた。


「スネークアタック! リメンバーパールハーバー!」


 議会で、演壇で叫ぶルーズベルト大統領が居た……。


「どうして……!?」


「……CIAと国務省、FBIも総ぐるみ……日本の交渉打ち切りは、真珠湾攻撃後ということになってる」

「そんな……わたし、そのために証拠写真撮ったり、車ぶつけて消火栓を壊したりしておいたのに!」


「……真珠湾攻撃の予兆か、国務省前の消火栓破裂……8日の新聞。やられたわね」


「だ、だって、お巡りさんのジョージも立ち会っていたのよ……」


 画面が、ワシントンの警察署に切り替わった。


「ジョ-ジ、FBIへの移動が決まった。おめでとう」


 署長がにこやかに辞令を見せた。


「そのかわり、あの事件は無かったことにしろと言うんですか!?」

「なんの話だね?」

「1941年12月7日午後1時12分。日本大使の車がぶつかって、消火栓を壊したんです!」


「……ジョ-ジ、君は夢を見ていたんだ。消火栓は老朽化のために、自然にぶっ飛んだんだ。新聞にもそう載っている」

「日本は、パールハーバーの前に……」

「それ以上は言うな。国務省もCIAもFBIも、そう言ってるんだ。むろん国務長官もな」

「しかし、大使とマナツは……」


「ジョージ、お前は合衆国の国民であり、警察官……いや、FBIの捜査官なんだ。いいな、それを忘れるんじゃない」


「合衆国は、正義の国家じゃなかったのか……」


「FBIへの栄転は、ご両親や兄弟も喜んでくれるだろう。家族を悲しませるんじゃない」

「署長……!」

「さっさと荷物をまとめて、FBIに行くんだ。辞令はもう出ているんだぞ!」


「……了解」


 ジョ-ジは、静かに応えると、敬礼をして署長室を出て行った。


「……惜しい奴だがな」


 署長は、そう言って、受話器をとった。


「……小鳥は鳴かなかった」


 署長は、そう一言言って、受話器を置いた。


「署長、会議の時間です」


「ああ、そうだったな……」


 署長は、戦時になったワシントンDCの警備計画の会議に呼び出されていた。パトカーでワンブロック行ったところで、歩いているジョージを追い越した。


「ジョ-ジのやつ、ご栄転ですね」


 運転している巡査に、応える笑顔を作ろうとしたとき、後ろで衝撃音がした。


「ジョ-ジが跳ねられました!」


「くそ、跳ねた車を追え! 追いながら救急車を呼べ!」


 署長は、そう命ずると、パトカーを降り、壊れた人形のように捻れたジョージを抱え上げた。


「ジョ-ジ……くそ、ここまでやるのか!」


「ジョ-ジ……!」



 真夏は言葉が続かず、後は涙が溢れるばかりだった。



「……あなたは、精一杯やってくれたわ」


「でも、歴史は変わらなかった。ジョ-ジが無駄に殺されただけ!」


「真夏、あの木を見て……」


 庭の片隅にグロテスクな木があった。その木の枝の一つが音もなく落ちていった。


「あの木は……」


「歴史の木。いま一つの可能性の枝が落ちてしまった」


 そして、落ちた枝の跡からニョキニョキと、さらにグロテスクな枝が伸びてきた。それは、反対側に伸びた枝とソックリだった。よく見ると、同じようにそっくりな枝が伸びていて、全体として無機質なグロテスクな木に成り果てていた。


「……そう、同じように見える枝は、みんな、わたし達が失敗して、生えてきた枝」


 わたしは、理屈ではなく、歴史がグロテスクなことを理解した。


 でも、正しい歴史の有りようというのは、どんな枝振りなんだろう……。


「それは、今度来てもらったときにお話するわ。うまく伝わるかどうか自信はないけど……さ、ひとまず、元の世界に戻ってもらうわ」


 ジーナのオソノさんが、そう言うと、周囲の景色がモザイクになり、モザイクはすぐに粗いものになり、一瞬真っ黒になったかと思うと、また、急にモザイクが細かくなり、年が改まって最初の日曜日にもどっていた。


 ただ一点違うのは、リビングにエリカも戻っていたことだった……。

 



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