2話
学生寮は、2棟の建物とその間を結ぶ庭園で構成されている。
太陽と鷹のシンボルを掲げる暁光寮と、月と梟をシンボルに掲げる銀影寮。
向かい合うように建つ二つの寮にはそれぞれ寮監が常駐しており、出入りには専用の寮鍵が必要だった。外泊の際にも申請書の提出を義務付けられ、学生たちの生活は厳格に管理されていた。
二つの寮の間には、広大な庭園が広がっている。学園お抱えの庭師によって丹念に手入れされた庭には、季節ごとの花々が絶えることなく咲き誇り、何かと苦労の多い学生達に一時の安らぎを与えていた。
早朝。暖かな日差しとひんやりとした空気に満ちた庭園に、花と見間違うほど美しい生徒が一人歩いていた。
後ろで一つにまとめられた漆黒の長い髪は絹のように艶めき、パチリとした紫紺の瞳は猫を思わせる鋭さを持ちながらも静かに輝いていた。植わっている花を指先で優雅に触れるその所作は高位貴族特有の気品に満ち溢れ、彼がそこにいることで、庭園そのものを一つの芸術作品として完成させていた。
その美しい少年——シオンは、その小さく艶やかな唇から場違いな言葉をぽつりと零した。
「入学式だるいしサボろうかな〜……」
その横顔は、どこまでも優雅だった。
「いや、俺一人居ないのは問題になるよな?」
…悩む姿も綺麗だった。
「……!この機会に、校舎爆発させてみるか?」
…………どうやら、本人は至って真剣らしかった。
*****
入学式とか、何回目だと思ってるんだよ…?
もうこの際、回帰に巻き込まれて可哀想で賞とか授賞して、これからのあらゆるイベント全部スキップできないか本気で悩んでる俺はそれでも、式場である講堂に足を運んでいるところだった。
講堂に近づくにつれ、生徒の姿もチラホラと増えてきた。
こういう場でもハハホホと社交を交わす生徒たちを見ると憂鬱な気分が更に憂鬱になってきた。
「まぁ、公爵家だからそう易易と話しかけられないだけましか……」
ハァ……と今日で何度目か分からない溜め息を吐くと、近くにいた生徒達が一斉に離れていった。
「見て、銀影寮の生徒よ」
「しっ!ブライヤー公爵家の落ちこぼれの次男よ。あまり近づかない方がいいわ」
「あ、あの人が例の?だから銀影寮なのね」
「そうね。あら、でも顔だけって言われるだけはあるわ。顔は極上ね」
コソコソと聞こえてくる声に俺は思わず遠い目になった。
そうだった。まだこの頃は"落ちこぼれ"って呼ばれてやさぐれてた時期だ。
あの頃の俺は傲慢で高飛車で……手の施しようの無いバカだった。
「それに銀影寮の差別もまだ続いてたっけ……」
寮分けは学園に一任されてるから、その方法は公表されていない。爵位とか派閥とか色々考慮されてるって言われているけど、本当の所はどうか分からない。
学園は中立と宣言しているから賄賂でどうこうっていうのは無い。と思いたいけど……まぁそれは置いといて。
方法が分からない分、皆んな納得のいくように理由を作り出してしまうようになった。
代々の王族が暁光寮だったから、優秀な生徒は暁光寮に入れられ、落ちこぼれや評判の悪い生徒は月影寮に入れられる、みたいな具合に。
だから銀影寮の生徒はそれだけでこの学園では居場所がなくなる。
そんな訳ない。って言ってしまいたいけど、強ち間違いとも言い切れないのが痛いところ。現に落ちこぼれの俺も入れられてるわけだし。
何度も回帰してきたけどその全てで俺は銀影寮に所属してきた。
暁光寮に憧れたこともあったけど…まぁ、なれないってことはそういうことなんだろう。
考えに沈んでいた俺の思考は、周囲が俄に騒がしくなったことで強制的に現実に引き戻された。
「うわ」
周囲を見渡すと騒ぎの正体はすぐに見つかった。
何かそこだけキラキラしてる気がする。そしてそれに群がっていく生徒たち。怖、光に群がる虫かよ。とか思ってたのがよくなかった。
すいません、短いですがここまで!
明日また続きあげます




