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9/12

25mの閃光

スカンジナビアの秋の訪れは早い。

街の木々が色づき、日本の感覚では冷たい秋風が吹く9月中旬、

HJK U-19はUEFAユースリーグ1回戦 ホームゲームを戦っていた。

対戦相手はポルトガルの強豪、ベンフィカU-19。

後半15分過ぎ、1-2の劣勢という局面で、飛び級を果たした14歳のダン・ホルトーリが投入される。

「おい、あの14番は何者だ?」

他国から来ているサッカージャーナリストたちが一斉にメンバー表に目を落とす。

すでにフィンランド周辺では「インステップの無回転(ブレ球)を蹴る小生意気なハーフの神童」として噂されていたダン。

しかし、目撃されたのは、そんな「よくある天才」を遥かに超越した、異次元のフットボールだった。


試合はダンの絶妙なスルーパスから同点ゴール。2-2。

そして後半37分、ゴール右30°、約25mの位置でHJKがフリーキックを獲得した。

「ダン、お前が蹴ろ。いつものあのヨレるやつ(無回転)で決めちまいな。」

先輩たちが背中を叩く。ダンは無言で頷くと、冷たい秋の芝の上にボールをセットした。

ベンフィカは素早く壁を形成していた。

「とにかく正面のコースを消せ。Cで行くぞ(ニアにいる壁はジャンプ、ファーはマンマーク徹底)。」という指示が、キーパーから飛ぶ。


しかし、碧い瞳が見据えていたのは、壁のさらに上、白夜の名残を留めるヘルシンキの薄暗い空だった。

(じいちゃん、見ててよ)

深く息を吐き、短い助走から鋭く踏み込む。

左足がピッチを深く噛む。夏の湖畔で掴んだ「絶対にブレない軸」が、ダンの肉体を大樹のように地面へ固定した。

ドゥオォシ!!

スタジアムに、不穏な重低音が響き渡る。

放たれたボールは、ジャンプした壁の遥か上、ゴールバーを1m以上も越える高さへと跳ね上がったように見えた。

相手キーパーは完全に「ふかした(ミスキックだ)」と判断し、一歩も動かなかった。

スタンドのジャーナリストたちも、手持ちの端末に『キックの精度を欠く』と書き込もうとした。

しかし、その刹那だった。

ゴールライン手前、わずか数mの空間で、ボールの軌道が突如として物理法則を無視した。

猛烈な順回転(トップスピン)を与えられた球体が、大気の壁を力任せに引っ掻き「ガクッ」と鋭角に、文字通り滝(懸河)のように真下へと落ちてゆく。

「なっ……!?」

キーパーの頭上をあざ笑うかのように急降下したボールは、クロスバーの内側を激しく叩き、そのままゴールネットの床に突き刺さった。

ダンッ!!!

静寂。

スタジアム全体が凍りつく。

あまりの軌道に、主審すらホイッスルを吹き忘れるほどの衝撃。


昭和が始まったばかりの頃、本竹井助が「1日400本」の猛練習で編み出し、オカルトと恐れられた「懸河のキック」。

それが100年の時を超え、姿を変え、完全なる「物理のバケモノ」としてお披露目された瞬間だった。

「……信じられん。今のキック、JFA(日本協会)は知っているのか?」

スカウト達がざわつく中、ダンはユニフォームの泥を軽く払い、駆け寄るチームメイトたちといつも通りの微笑でハイタッチを交わした。


この1本のFKが、フィンランドの森に隠れていた神童の名を、一気に全ヨーロッパのビッグクラブへも轟かせる引き金となった。

ベンフィカはヨーロッパ全体で見ても、結構強い。

トップチームは、現在クラブランキング20位前後だったと思います。

更にアンダー育成には伝統的に注力していて、ビッグクラブへの選手供給元になっています。

ブラジルとのパイプが強い(ポルトガル語圏)事から、昔からアンダーにブラジルの子が多くいます。

これまでHJKには厳しい相手と思ってましたが、昨年の躍進からするとリアルでも勝負できるんじゃないかと。


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