25mの閃光
スカンジナビアの秋の訪れは早い。
街の木々が色づき、日本の感覚では冷たい秋風が吹く9月中旬、
HJK U-19はUEFAユースリーグ1回戦 ホームゲームを戦っていた。
対戦相手はポルトガルの強豪、ベンフィカU-19。
後半15分過ぎ、1-2の劣勢という局面で、飛び級を果たした14歳のダン・ホルトーリが投入される。
「おい、あの14番は何者だ?」
他国から来ているサッカージャーナリストたちが一斉にメンバー表に目を落とす。
すでにフィンランド周辺では「インステップの無回転(ブレ球)を蹴る小生意気なハーフの神童」として噂されていたダン。
しかし、目撃されたのは、そんな「よくある天才」を遥かに超越した、異次元のフットボールだった。
試合はダンの絶妙なスルーパスから同点ゴール。2-2。
そして後半37分、ゴール右30°、約25mの位置でHJKがフリーキックを獲得した。
「ダン、お前が蹴ろ。いつものあのヨレるやつ(無回転)で決めちまいな。」
先輩たちが背中を叩く。ダンは無言で頷くと、冷たい秋の芝の上にボールをセットした。
ベンフィカは素早く壁を形成していた。
「とにかく正面のコースを消せ。Cで行くぞ(ニアにいる壁はジャンプ、ファーはマンマーク徹底)。」という指示が、キーパーから飛ぶ。
しかし、碧い瞳が見据えていたのは、壁のさらに上、白夜の名残を留めるヘルシンキの薄暗い空だった。
(じいちゃん、見ててよ)
深く息を吐き、短い助走から鋭く踏み込む。
左足がピッチを深く噛む。夏の湖畔で掴んだ「絶対にブレない軸」が、ダンの肉体を大樹のように地面へ固定した。
ドゥオォシ!!
スタジアムに、不穏な重低音が響き渡る。
放たれたボールは、ジャンプした壁の遥か上、ゴールバーを1m以上も越える高さへと跳ね上がったように見えた。
相手キーパーは完全に「ふかした(ミスキックだ)」と判断し、一歩も動かなかった。
スタンドのジャーナリストたちも、手持ちの端末に『キックの精度を欠く』と書き込もうとした。
しかし、その刹那だった。
ゴールライン手前、わずか数mの空間で、ボールの軌道が突如として物理法則を無視した。
猛烈な順回転を与えられた球体が、大気の壁を力任せに引っ掻き「ガクッ」と鋭角に、文字通り滝(懸河)のように真下へと落ちてゆく。
「なっ……!?」
キーパーの頭上をあざ笑うかのように急降下したボールは、クロスバーの内側を激しく叩き、そのままゴールネットの床に突き刺さった。
ダンッ!!!
静寂。
スタジアム全体が凍りつく。
あまりの軌道に、主審すらホイッスルを吹き忘れるほどの衝撃。
昭和が始まったばかりの頃、本竹井助が「1日400本」の猛練習で編み出し、オカルトと恐れられた「懸河のキック」。
それが100年の時を超え、姿を変え、完全なる「物理のバケモノ」としてお披露目された瞬間だった。
「……信じられん。今のキック、JFA(日本協会)は知っているのか?」
スカウト達がざわつく中、ダンはユニフォームの泥を軽く払い、駆け寄るチームメイトたちといつも通りの微笑でハイタッチを交わした。
この1本のFKが、フィンランドの森に隠れていた神童の名を、一気に全ヨーロッパのビッグクラブへも轟かせる引き金となった。
ベンフィカはヨーロッパ全体で見ても、結構強い。
トップチームは、現在クラブランキング20位前後だったと思います。
更にアンダー育成には伝統的に注力していて、ビッグクラブへの選手供給元になっています。
ブラジルとのパイプが強い(ポルトガル語圏)事から、昔からアンダーにブラジルの子が多くいます。
これまでHJKには厳しい相手と思ってましたが、昨年の躍進からするとリアルでも勝負できるんじゃないかと。




