15歳の戴冠
「ダン、行くぞ。レガースを付けろ」
フィンランド最高峰リーグ、ヴェイッカウスリーガ。
HJKの本拠地ボルト・アリーナのベンチで、15歳の肩を監督が激しく叩いた。
対戦相手は優勝争いから脱落するも、2位をキープするKuPS。
熱気で白く煙るスタジアム。後半30分、0-0の緊迫した局面。
「お前の『ケンガ』で、この膠着をぶち破ってこい」
背番号「14」のユニフォームに袖を通したダンがピッチに足を踏み入れた瞬間、フィンランドのフットボール史が音を立てて動き始めた。
<タイガ(大樹)の覚醒>
プロの当たりは、アンダー年代とは比べ物にならないほど凶暴だった。
しかし、激しいショルダータックルを受けても、ダンの肉体は大きくはブレない。深川の木場で鍛え上げられた足裏のセンサーが、ぬかるんだピッチの不規則な弾みを完全に無効化し、ボールを磁石のように足元に収め続ける。
後半44分。ゴール正面、28mの位置でダンがファウルを誘い、絶好の位置でフリーキックを獲得した。
ざわめき「なぜ15歳のガキがボールを持っているんだ?」
元ルーマニア代表のGKが構える。「ドライブ(懸河)」「無回転(ブレ球)」双方の噂が伝わっているようで、迷いが見られた。
やがて、ゴールライン内まで下がったように見せかけて、あまり位置を変えなかった。
無回転に山を張ったのを気付かれないようにしているようだ。
(じいちゃん。あなたのホラ話は、世界の真ん中まで届く本物だよ)
深く息を吐き、白夜の終わったヘルシンキの冷たい夜空を見上げるダン。
ホイッスルが鳴る。
右足がボール真後ろのわずか数mm下を、爆発的なスピードで擦り上げる。
ドゥオォシュッ!!!
スタジアムに空気を引き裂く重低音が響き渡った。
壁を越えた瞬間、ボールはゴールバーを越える軌道を描く。
しかしゴールに迫ったところで突如、直角と見紛う角度で、急降下するボール。
理不尽なまでの垂直落下、まさしく『懸河』だった。
ゴールを外れた、という本能、反射的感覚がGKの判断修正を妨げる。
「くっ!」遅れてドライブと悟るも、その手を伸ばす前にボールはゴールへと吸い込まれていた。
ゴオォォォォオール!
ボルト・アリーナが、地鳴りと狂喜乱舞の渦に包まれた。
15歳でのリーグ最年少ゴール。プロのスタジアムを完全に支配した瞬間。
ベンチに向かって誇らしげに右拳を突き上げるダン。
スタンドの各国スカウト達は手元が覚束ない。
「歴史」が「世界」へと繋がる、碧き瞳の少年の果てしない飛翔が、今ここに始まった。
「最終回じゃないぞよ もう1話だけ続くんじゃ」




