魔窟と魔物
人間が自力で書いてる本編「アラフォー領主ですが、隠居したいので伝説の姫巫女を教育します。」をよろしくお願いします。
石の床は、冷たかった。
森ではない。
土でも、草でもない。
硬く、無機質な地面の上に立っている。
それだけで、この場所が“異なる”とわかるには十分だった。
(ここは……どこ……?)
胸の奥がざわつく。
空気が違う。
神気が、薄い。
その代わりに、何か別の――重く、淀んだ気配が満ちている。
思わず、袖を握りしめる。
そのとき。
――地が、揺れた。
「きゃっ……!」
足元が崩れる。
石が割れ、奈落のような暗がりが口を開く。
落ちる――そう思った瞬間。
何かが、這い上がってきた。
巨大な影。
低く、うなり声を上げる。
獣……いや、違う。
こんなもの、見たことがない。
(なに……あれ……)
足がすくむ。
逃げなければならないのに、身体が動かない。
そのときだった。
「鬱陶しいな!」
鋭い声が、響いた。
反射的にそちらを見る。
そこにいたのは、一人の女性。
凛とした立ち姿。
見たことのない衣をまとい、迷いなくその“化け物”を見据えている。
次の瞬間。
空気が、凍った。
(え……?)
光が走る。
否、光ではない。
透明な何か――氷。
それが一直線に伸び、化け物の頭を――
貫いた。
音もなく。
あまりにもあっけなく。
巨体が崩れ落ちる。
「……っ」
声が出ない。
今、何が起きたのか。
理解が追いつかない。
ただひとつだけ、確かなこと。
(あの人……“力”を使った……?)
それは、禁じられているはずのもの。
身分ある者だけが扱うべきとされる力。
それを――あんなにも容易く。
「こっっわ」
別の声がする。
振り向けば、もう一人。
こちらもまた、奇妙な装い。
手には、見たこともない形の武具。
黒く、冷たい光を放つそれは、弓でも槍でもない。
「うるせー!」
先ほどの女性が叫ぶ。
「こっちは、お腹減ってんの! ラーメン食べたいんや! そのあと帰ってハイボール飲みながらアニメ観て寝たい!」
――何を言っているのだろう、この人は。
状況と、言葉が噛み合わない。
だが。
(今のうちに……)
恐る恐る、一歩踏み出す。
このままでは、本当に何もわからないままだ。
「あの……」
声が震える。
それでも、必死に言葉を紡ぐ。
「もし、よろしければ教えていただけないでしょうか……」
二人の視線が、こちらに向く。
鋭い。
試すような目。
まるで、値踏みされているようだった。
息を呑む。
だが、逃げるわけにはいかない。
「ここは、兜山の魔窟と思われるが……合っているだろうか?」
自分でも確信はない。
だが、そうとしか言いようがなかった。
二人の間に、わずかな沈黙が落ちる。
やがて、先ほどの女性が口を開いた。
「私は、後神櫻子」
はっきりとした声。
「後神侯爵家の当主であり、このダンジョンの管理を帝から預かっている者だ」
――後神?
その名に、心臓が跳ねる。
「え……」
思わず、声が漏れる。
「わしは、後神……かよ……?」
混乱のまま、名乗る。
「後神侯爵家嫡子にして、姫巫女として神事を行っている……」
言いながら、自分でも理解が追いつかない。
なぜ同じ名が。
なぜ同じ家が。
目の前に、存在しているのか。
沈黙。
そして――
「隠し子?」
横の人物が、軽く言った。
「そんなわけあるかあぁぁぁ!!」
女性の怒声が、響き渡る。
思わず肩が跳ねた。
けれど。
(この人たちは……)
恐ろしい。
強い。
理解できない。
それでも。
――敵では、ない気がした。
なぜかはわからない。
ただ、そう思った。
胸の奥で、何かが静かに結ばれるような感覚とともに。
さすが、相棒!
私は、こっちが本編になりそうで怖いです。




