祈りの果てに
人間が自力で書いている本編の「アラフォー領主ですが隠居したいので伝説の姫巫女を教育します」もよろしくお願いします。
森は、静まり返っていた。
風がないわけではない。葉はかすかに揺れている。だが、その音さえも遠くに感じるほど、この場所は澄んでいた。
わしは白い装束に身を包み、ひざまずいている。
額に汗がにじんでいた。夏の暑さのせいではない。祈り続けている時間の長さと、その内容ゆえだった。
「どうか……どうか、お聞き届けください」
声は小さい。それでも、まっすぐに空へと向けられていた。
「理不尽を、正してください」
巫女であるわしにとって、祈りとは日常の一部だ。だが、今日のそれは違う。個人的な願いであり、本来ならば口にしてはならない種類のものだった。
――友が、苦しんでいる。
生まれながらにして、稀有な才を持っていた。目に見えぬ力を扱う資質。だがそれは、この時代では許されない。
身分が違うから。
ただ、それだけの理由で。
「力があるのに、使えないなんて……そんなの、間違っています」
唇を噛む。祈りながら、感情を抑えきれなくなる。
本来、巫女は中立であるべきだ。だが、彼女にはそれができなかった。
幼い頃から共に過ごしてきた友。
笑って、泣いて、未来を語った相手。
➖華族でないものが、魔法を使ってはならぬ。そう、昔から決まってる。➖
父の厳しい声が脳裏をよぎる。
➖俺は、難しいことはわからん。でも、あかんことは、わかる。あかんから仕方ないやん。➖
家の下男として働いていた彼は、光治に入り開国してから身分は無くなったが元は穢多だ。
革細工の才能を買われ父が召し上げた。
父は、本来身分など気にしない人と思っていた
それなのに‥。
平民というだけで
その未来が、身分という鎖で閉ざされている。
「どうか……あの子に、学べる自由を」
その瞬間だった。
空気が、変わった。
まるで水面を覗き込んだときのように、世界が揺れる。木々が伸び、縮み、形を失っていく。
その瞬間だった。
空気が、変わった。
森の静けさが、一段と深くなる。いや――違う。音が消えたのだ。
葉擦れも、鳥の声も、すべて。
「……え?」
顔を上げる。
視界が、歪んだ。
すわりと足元が、不意に軽くなる。
「な――」
言葉にならない。
そのとき。
――誰かが、そこにいた。
森の奥でも、空の上でもない。
“世界の隙間”としか言いようのない場所に、その存在は静かに佇んでいた。
男とも女ともつかない、曖昧な姿。
長い髪のようなものが、風もないのにゆるやかに揺れている。衣は光の糸で織られているかのようで、見るたびに色が変わった。
そして何より――
その手には、細く、淡く輝く無数の糸が絡みついていた。
それらは、どこまでも続いている。
絡まり、離れ、結び直されながら、遠いどこかへと繋がっている。
「……誰……?」
問いかけたつもりだったが、声は震えていた。
その存在は、答えなかった。
ただ、こちらを見た。
――見透かすように。
祈りも、迷いも、怒りも、すべてを。
やがて。
その唇が、わずかに動いた。
言葉はない。
けれど確かに――
“そうか”と、納得するような気配。
そして。
やさしく、微笑んだ。
まるで、長い物語の一頁をめくるように。
その指が、一本の糸に触れる。
ぴん、と。
かすかな音が、世界に響いた気がした。
「――っ!」
次の瞬間。
強烈な光が、視界を焼き尽くす。
白い奔流に飲み込まれながら、彼女は最後にその姿を見た。
微笑みは、変わらない。
まるで――
すべてを知ったうえで、それでも送り出すような。
祝福か、あるいは試練か。
そのどちらともつかぬ眼差しのまま。
世界は、途切れた。
――誰かが、そこにいた。
世界の隙間。
その存在は、静かに佇んでいる。
手には、無数の糸。
絡み合い、ほどけ、また結ばれていく運命の流れ。
その中心で。
その神は、こちらを見ていた。
「……くくり……ひめ……?」
なぜその名が浮かんだのか、自分でもわからない。
けれど、それは確信だった。
――菊理媛命。
結び、繋ぎ、分かたれたものを調える神。
神は、何も言わない。
ただ、すべてを見通すように。
そして――
やさしく、微笑んだ。
私の相棒のチャッピーさんに任せると情景たっぷりですね。
やっぱり、こっちの方が万人うけするんでしょうか?
次回は、別作品の主人公の櫻子達と出会います。




