第6話 蛇騎士
山田小太郎――トゥインクルハート。
髪から衣装、果ては魔力まで、全てを黄金に染める魔法少女。
彼女が空を駆けると、その輝く魔力は光の筋を伸ばし、世界にいくつもの閃きを描き残していた。
そしてトゥインクルハートは、学校から程遠いマンションの屋上にて立ち止まり、険しい顔で周囲を見渡した。
「業魔の反応はこの辺りでいいんだよな?」
うん、時空間凍結もされてるし、この近くでルミナスとオーロラが戦ってると思うんだけど……。
ちゅどーん!
真下の民家が爆発で吹き飛んだ。
トゥインクルハートは、立ち込める煙を呆れ顔で眺めていた。
「……うん、いたな」
これ以上ないくらいわかりやすいね。
「あの二人、やることが派手だからなぁ」
全身真っ金々で釘バット振り回してる悪趣味魔法少女にだけは言われたくないだろうね。
でも時空間凍結もちゃんとされているから問題ないでしょ。
「うーん、俺、その時空間凍結ってのがよくわかんないんだけど。ぶっちゃけ何なんだ?」
時空間そのものを固定して、現実世界に危害が及ばないようにする封印魔法のようなものだよ。
業魔みたいな化物が街を壊しまくったら、とても修理なんて追いつかないからね。
もっとも、凍結させた術者が死んじゃったりすると凍結が解けちゃうんだけどね。
「いやそうじゃなくて、原理だよ原理。凍結中に壊れた街って、術が解けると全部なかったことになってるだろ? あれが何でなのかなぁって」
……さぁ。
「わかんないのかよ!」
だって“そうなる魔法”としか言えないし。
更に言えば、“そうなるようにしてる魔法”って説明しかできないんだから仕方ないでしょ?
「えええ……そんなテキトーでいいのか?」
それを言うなら、小太郎の女体化だって原理が何一つ説明出来ないでしょ?
同じだよ、同じ。
「それは……うん、なんとなくわかった」
ちゅどーん、と。
またも眼下の建物が吹き飛ぶ。
「うわ、今日はまた派手に戦ってるなぁ」
業魔のサイズは前みたいに大きくないみたいだけど……ほら、出てきたよ。ルミナスとオーロラだ。
そして、業魔は……。
「……カエル?」
ルミナスとオーロラが武器を構え、射抜き、剣を振り抜くその相手、業魔は、カエル型。
全身が赤く、二足歩行の巨大カエルである。
「うわ生々しい……ナマモノ系の業魔って、なんとなく嫌悪感が出るよな」
ナマモノ系の業魔が何かわかんないけど、業魔に嫌悪もクソもないでしょ。
ほら小太郎。
小太郎の相手はあっち、西の方。
「はいはい、行きますよ。……頑張れよ、緋井原、奥園」
そしてトゥインクルハートは、その場を離れた。
◆
たどり着いたのはルミナスとオーロラが戦っている場所から、少し離れたところにある工場だった。
「うーん、ギリギリ時空間凍結範囲って感じだな」
辛うじて、ね。
どうする? もう少し範囲広げる?
「そうだな。いちおうの用心ってことで」
そしてトゥインクルハートは、時空間凍結を開始する。
……って小太郎、出力に注意してね。
また前みたいに、うっかり街中を凍結させないでよね。
「わかってる。わかってるから集中させろ。これ、加減が難しいんだからさ……」
加減、ねぇ……。
通常、時空間凍結魔法は複数の魔法少女が行う。
ルミナスとオーロラも然り、二人で協力して専用の魔法陣を形成する。
しかし小太郎は、単独での発動が可能である。
それだけじゃない。他の魔法少女は複数人で力を合わせて数百メートル範囲のドームを作るというのに、小太郎は、油断をすると街ごと包んでしまう。
それもまた、常識から逸脱していた。
「……よし! 完璧!」
辺りは、トゥインクルが生み出した超巨大遮断フィールドに包まれた。
……ルミナスとオーロラのドームすら、丸ごと飲み込んで。
これ、魔法少女界隈だとすんごい嫌味な挑発になるんだけどね。
お前らの魔法なんぞその程度か――みたいな。
「嫌なこと言うなよ。なんだか俺がクソ野郎みたいに聞こえるじゃねえか」
〈――この魔力、なんだ?〉
声を感じた。
それは決して耳で聞き取るものではない。脳内に直接響く、念のようなものだった。
「セルフィ、これってもしかして……」
うん、“怪魔”だね。
来て正解だったよ、小太郎。
“怪魔”が出るなら……ルミナスとオーロラじゃとても勝てなかった。
そしてソレは、工場から姿を現した。
これもまた二足歩行。毛は一切なく、白く滑りのある肌であるが、脚は獣、手は人に近い。四肢はあまりにもすらりと長く、爪は鋭いのが見てわかる。そして、頭――それは白い蛇だった。首を伸ばし、赤い目で獲物を見定め、尾はゆらゆらと揺れる。
〈今の魔力……貴様か?〉
蛇の怪魔から声が響く。
「そうなると思う。アンタ、怪魔だろ?」
〈怪魔……ふっ、怪魔か。それは貴様達が勝手に呼称しているだけだが……まぁ、悪くない〉
「こっちが勝手にって……じゃあ、アンタ達は誰なんだよ」
〈誰? 我らに名などない。我らは、“氷柱なる魔女”が生み出した騎士でしかないのだから〉
「す、すてぃり……なんだって?」
“氷柱なる魔女”だよ、小太郎。
なるほど、魔女の騎士ってわけね。
そりゃ確かに、強力なはずだよ。
「ちょっとセルフィ、俺にもわかるように言えよ。魔女とか騎士とか何のこと?」
そうだね、そこの辺りはじっくり説明したいところなんだけど……相手さん、待ってるみたいだよ。
「え? ああ、そっか。そりゃ悪かった。待ってくれるなんて、意外に律儀な蛇さんだな」
〈……我は、貴様に興味があるのでな。貴様の魔力……なるほど、尋常ではないな。何故それほどの魔力を持つ〉
「知らねえよ。才能じゃないの?」
〈ふふふ……ふははは! 才能と申すか! なるほど、確かにそうかもしれぬな!〉
蛇は笑う。
笑い声を脳に叩き込んでくる。
「うわぁすんごい違和感。大笑いしてるくせに表情とか全然変わってないんだもん。なんかもう脳がこんがらがりそう」
そして蛇は、首をくるりと捻った。
〈しかし貴様の魔力、才と呼ぶには些か強すぎる。それはもはや、呪いであろう。貴様は我らと対峙するというのに、それでは、他の魔法少女からも疎まれていよう。なんと不憫なものか〉
「勝手に現れて勝手に同情してんじゃねえよ。才能だとか呪いだとか、そんなの、俺にはわからないけどさ……」
トゥインクルハートは空間より武器を取り出す。
巨大なバットに無数の釘が打ち込まれた釘バットを構え、その先端を蛇へと突きつけた。
「……アンタがこの街を壊すのなら、悪いけど、ここで討伐させてもらう。俺は、魔法少女だからな」
〈ふふふ、意気やよし。今日は魔法少女どもの力を見定めるつもりであったが……気が変わった〉
そして蛇騎士は突進する。
〈貴様の力、存分に見せてもらうぞ! 黄金の魔法少女ッ!!〉
怪魔の長い腕を更に伸ばし、トゥインクルハートに襲いかかるのだった。




