第28話 深淵からの呼び声
〈アアアアア……!!〉
魔女が叫ぶと、あらゆる場所から氷柱が伸びてトゥインクルハートを狙う。
しかしトゥインクルが目線を送ると、宙に浮かぶ数本の釘バットが全自動で氷柱を粉砕した。
リィーーン――。
砕かれた氷は弾丸となって放たれるが、釘バットからも釘が放たれ、弾丸同士は相殺された。
「それはもう通じない。――悪いけど、決める」
黄金の釘バットたちは群れとなり、一斉に魔女へと滑空した。
それは金色の流星群。逃げることも、躱すこともできない程の全方位から、釘バットは襲いかかる。
〈――――ッ!!〉
数手は躱した。しかしあらゆる角度からの攻撃に対応することなど不可能である。
一撃、魔女の胴体を釘バットが捉える。
〈ぐがっ――!〉
一瞬の停止に即座に反応した釘バットの塊は、一斉に魔女へと降り注ぐ。
縦から横、上から下、正面、背後。一撃必殺級の一撃を浴び続ける魔女の体は、終わらない衝撃で宙に浮き、踊るようになされるがままとなっていた。
〈――ア、アアアアア!!〉
魔女は一際強く叫ぶと、床や壁から氷柱が伸びて、迫りくる釘バットたちをはたき落とした。
ようやく猛攻を耐え切った魔女。
――しかし終焉は、目の前にいた。
割れたドミノマスクの隙間、その目は、確かに捉えていた。
眼前にて釘バットを両手でしかと握り締め、力強く振り被る、黄金の魔法少女の姿を。
「トゥインクル、釘バット――!」
〈――――〉
グシャァッ――!!
その頭部に致命の一撃が振り下ろされた。
そして魔女は隕石のように下へと弾き飛び、壁にヒビを入れ、床を陥没させて叩き付けられた。
スチャッ――と。
トゥインクルハートは魔女の衝突地点近くに降り立つ。
そのまま釘バットの先端を向けるが、床に沈む魔女は、もはや指一本とて動かなくなっていた。
「……トドメ、必要か?」
トゥインクルハートの問いに、魔女は辛うじて頬を緩ませた。
〈……いらぬな。私は、間もなく消える〉
その言葉通り、魔女の体は、指先から徐々に光に変わり始めた。
〈今やっと……やっと、思い出した。そうか、私は、やっと消えることが出来るのか……〉
「お前もしかして、魔法少女の時のことを……」
〈全てではないが……魔力が消えて、魂を、突き返されたらしい。ふふふ、身勝手なものだ〉
トゥインクルハートは釘バットを下げた。
「……助けられるか?」
魔女は、首を横に振る。
〈お前は、強い。強すぎる。……だが、決して万能ではない。その魔力で、全てのことを成せると考えるのは……ただの、傲慢だ〉
「…………」
トゥインクルハートは目を伏せた。
〈お前がこの時代に存在した理由は、わからない。それが何を意味するかも……だが、お前のおかげで、私は救われた。それで十分だろう〉
その魔法少女の残骸の仮面は、砕け、完全に剥がれ落ちた。
〈ありがとう、魔法少女。お前は、魔力に囚われた私を救ってくれた。本当に、ありが――と――〉
そして彼女の全身は光に変わり、天井へと昇って消えたのだった。
その景色を、トゥインクルハートは眺めていた。
「……なあ、セルフィ」
……なんだい?
「俺、本当は、魔法少女なんてどうでも良かったんだよ。魔力があるって言われて、面白そうだからやってただけなんだよ」
うん。
それは、僕にもわかってた。
「でもあの魔女は、俺に救われたって言ってた。ありがとうって言ってた。もしも魔女を倒すことが救いになるのなら……俺が魔法少女になる意味は、そこにあるのかもしれないな」
うん、そうだね。
そうなのかもしれないね。
するとここで、小太郎は口調を変える。
「……ところでセルフィ。この空間っていつ消えるんだ? 魔女倒したら消えるんじゃなかったっけ? 全く消える気配がないんだけど」
だから言ったじゃん。
魔女についてはわからないことも多いって。
「いやお前……これ消えなかったら面倒くさいんじゃないの? アリスも冴子さんも未だ行方不明で、攫った本人は満ち足りて光に消えちゃったし。どうすんだよ、これ」
僕にばっかり聞かないでよ!
少しは自分で考えたらどうなんだよ!
「お前それ……! 今それ言っちゃう!? それお前、責任転嫁っていうか無責任っていうか! 言っちゃうのかよ! お前!」
「――トゥインクル、ハート」
か細い声が耳に届いた。
小太郎が振り返ると、そこには、ルミナスハートが立っていた。衣装は破れ、体中に生傷が見える程の満身創痍のままで。
「ル、ルミナスハート!」
小太郎――トゥインクルハートは、慌てて彼女に駆け寄る。
「ルミナス、どうしてここに?」
「…………」
ルミナスは、何も答えない。
……たぶん、キミを追ってきたんだよ。
こんだけボロボロなのに、精神力だけでさ。
「そっか……。うん、ありがとうルミナス。でももう大丈夫。魔女なら、私が――」
ゆらり――と。
ルミナスハートの体から、赤い魔力がはみ出して揺れ動いた。
――小太郎! 下がって!
「――――ッ!!」
トゥインクルハートが距離を取ると、ルミナスハートの魔力は一気に溢れ出し、天井を貫き破る。
氷は細かな破片となって降り注ぎ、赤い魔力の光を反射させ、室内を紅蓮に染めた。
「な、なんだよ、これ……」
……魔力暴走。
「――――ッ!?」
ルミナスハートの魔力が暴走してる。
これはたぶん、深淵解放を使った影響だよ。彼女は、“深く潜り過ぎた”んだよ。
「魔力暴走って……それなら、このままだと!?」
魔女堕ちする。しかも、もう間もなくだ。
だからこの城は消えなかったんだよ。
氷柱なる魔女は滅びたけど、そこに新たな魔女が生まれようとしているからだ。
ここは、ルミナスハートという魔女の庭になったんだよ。
「ど、どうすればいい!? どうすれば魔力を止められる!?」
…………。
「おいセルフィ! 黙ってないで教えろよ! どうすれば――!」
どうしようもないよ。
「――――ッ」
ここまで魔力が暴走しているのなら、残念だけど、もう手遅れだ。
彼女を――ルミナスハートを、殺すしかないよ。
「殺す……!? ルミナスを……奥園を!?」
ルミナスハートの魔力は、尚も猛り暴れる。
オオオオ……という音と共に、その波動は空気を震わせる。
その深淵からの呼び声は、部屋をのたうち回り、トゥインクルハートの耳をつんざき、ただただ、唸りを上げるのだった。




