第25話 深淵解放
分断されたトゥインクルハートたち。
そしてトゥインクルハートの前には、巨大なゴリラの怪魔が立ち塞がっていた。
〈――我は“氷柱なる魔女”様により生み出された最強の騎士! 我が力は無限! 我が力は偉大! 本来ならば我らに名などない! だが! 魔女様の騎士最強たる我は、敢えて自らに名を冠した! これこそ我が忠誠の証にして、我が力への最大の賛美! 黄金の魔法少女よ! 心して聞くがよい! 我が名は、フォ――!〉
グシャッ――。
トゥインクルハートは、釘バットで怪魔を頭から叩き潰した。
「……名乗り口上、長ぇよ」
小太郎さぁ……せっかく意気揚々と名前を告げようとしてくれていたのに、途中で潰すかなぁ。
「うるさい。俺は別に彼の名前を聞くためにここに来たわけじゃないから。……それより、魔女を倒せば本当に元の場所に戻れるんだよな?」
その可能性はかなり高いと思う。
ここは“魔女の庭”――魔女がその魔力で作り出した、魔女専用の異空間だからね。
この空間を生み出しているのは、魔女の魔力。
だから魔女を倒せばここは消えて、みんな仲良く元の世界に帰還ってこと。
もっとも、確証はないけどね。
「いや、今はそれで十分だ」
そして小太郎――トゥインクルハートは、城の奥へと進んでいく。
「クソッ! この城、外で見た大きさよりも断然広くないか!?」
ここは魔女が生み出した異空間だからね。
むしろ、見えるものこそ疑った方がいい。
……魔女ってのは、そういう存在だから。
「忠告ありがとうよ! とにかくサクッと奥まで行って、サクッと魔女を倒して全部終わらせる!」
(それまで耐えてくれよ! 緋井原、奥園……!)
◆
トゥインクルハートと同じく、ルミナス、オーロラの二名もまた、それぞれ単独で、別のルートを進むことを余儀なくされていた。
……そして魔女は、彼女たちにも怪魔をぶつけていた。
〈――魔女様がお会いしたかったのは、黄金の魔法少女なのだ〉
その怪魔は言う。
不可思議な外見だった。毛はなく、鉱石のような白い球体に、生々しい巨大な獣目が一つだけ。それが宙に浮かび、揺れ動いていた。
〈貴様らは、荷物だ。あの黄金にしがみつき、引っ張られるだけの荷物。私は蛇が羨ましい。その力を存分に振るい、真正面から戦い、消えた。なんと美しく、なんと雄大な最期だろうか。私も、かくありたいと願う〉
そして球体は、彼女――ルミナスハートに、体ごと目を向ける。
〈……なぁ、赤色の魔法少女よ〉
「うっ……うぅ……」
ルミナスハートは、地に伏せていた。
周囲の床や壁は焦げ、そのドレスの端は焼かれ、体の至るところに生傷があり血が流れる。
既に満身創痍となった体で力を振り絞り、震えながら壁に手を這わせ、体重を預け、ルミナスは辛うじて立ち上がった。
そして焦点の合わぬ目で、弓を構える。
〈ほほぉ、その状態でまだ戦うつもりか。その気概は認めてやろう。だが――〉
「ル、ルミナス……アローッ!!」
一本の矢が赤い光を纏い飛ぶ。
しかし怪魔は一つ目を光らせ、空間から数本の光線を放った。矢は一瞬で消失し、ルミナスの周囲はまたも焼き尽くされる。
「キャアアア!!」
ルミナスは脆くも弾き飛ばされ、またも弱々しく地に伏せる。
〈――だが、力の差は歴然。よもや勝てずとも、時間稼ぎでもするつもりか?〉
球体の怪魔は、その一つ目でルミナスハートを見下していた。
――片や、オーロラハート。
「こ、このッ! オーロラブレードッ!」
オーロラハートは青き剣を走らせた。
〈ふん……〉
ガキィィン――ッ!!
しかし怪魔の刃は容易くそれを防ぎ、オーロラハートごと弾き返す。彼女はそのまま後方へ吹き飛び、凄まじい勢いで壁に叩きつけられ、ずるりと床へと落ちた。
「う、くっ……」
床に倒れながらも、その闘志は衰えていない。剣を杖のように使い、ふらふらと立ち上がる。
オーロラの鋭い視線の先にて、怪魔は、ヒタリヒタリと歩きながら退屈そうに言い放つ。
〈……つまらぬ。つまらぬな、貴様は〉
その形状は、やはり奇々怪々。
人ほどの大きさの四足歩行の獣。しかしその背からは四本の触手が生え、触手の先端はそれぞれ剣の形をしていた。
獣の怪魔はオーロラを見て、視線を右へと流す。
〈剣を取り出し、どれほどのものかと思えば……ただそれを振り回すだけとはな。そのようなチャンバラで、私を満足させられるはずもない〉
「何が、チャンバラよ……!」
〈ふん、負けん気だけは一人前ということか。貴様のような者は嫌いではない。……だが、私の前に立つには、余りにも力不足というものだ〉
「そんなこと……わかってるわよッ!!」
オーロラハートは顔を歪めながら、不自然に折れ曲がる指を無理やり固め、尚も剣を握り締めた。
「力不足なんて――そんなの、“アタシたち”が誰よりも一番わかってるわよ! でも! それでも引けないことがあるのよ!」
時を同じくして、ルミナスハートも立ち上がる。
「……トゥインクルハートは、私たちを気遣って、一人で行こうとしていた。私たちの弱さが、彼女を一人にしようとしていた。“勝てなくてもいい”だなんて……そんなこと、絶対言わない! 私たちは、何としても勝ってみせる! 例えそこに、“リスク”があったとしても――!!」
ルミナスとオーロラは、ほぼ同時に、ステラハートが消える数日前のことを思い出していた。
「――アナタたち、相変わらず弱いデスね」
そこは街から離れた山の中。
そしてステラハートは、倒れるルミナスハートとオーロラハートを見下ろしていた。
「そ、そんなことを言うために……ここに連れてきたっての? 自分の方が強いって、証明したかっただけ?」
オーロラは彼女を睨む。
「ノンノン。そんな分かりきったこと、わざわざ証明する必要ないデスよ」
「くっ――!」
ステラは、ルミナスを見る。
「ルミナスハート……アナタは、正確な射撃が持ち味デスね。しかしあまりにも威力が弱すぎるデス。それでは強い業魔や堅い業魔と戦っても、絶対に勝てませんデスよ」
「う、うん……そうだね。わかってる」
そして今度はオーロラ。
「オーロラハート……アナタは、動きが単純過ぎデス。力任せに剣を振って勝てるのは、ザコの業魔だけデス。上位の業魔が相手となれば、そんなもの、一切通じませんデス」
「わ、わかってるわよ!」
「ノンノン、わかっていません。アナタたちは、何もわかってませんデスよ。弱い魔法少女はとても危険なのデス。魔法少女の強さとは、即ち、魔力の操法デス。アナタたちは魔力を全くコントロール出来てないデス。それは常に、魔力暴走の危険を持つということなんデスよ。そして今のアナタたちは、魔力暴走を起こしても止めることができないデス。何よりそれが、致命的なんデスよ」
「…………」
ルミナスとオーロラは、黙り込むしかなかった。
しかしステラは、淡々と語る。
「……少し強引デスが、荒治療デス。アナタたちに今から教えるのは、単純なパワーアップではないデス。魔力が暴走した時に、それを自分で制する術でもあるデス。その本質は、“人為的な魔力暴走”……止められなければ、ワタシはアナタたちを、殺すしかありませんデス」
「そ、それは……」
そして、ステラハートは二人に掌を向けた。
「今から、ワタシが無理やり“解放”するデス。あとのやり方は、体で覚えるデスよ。しかし約束するデス。可能なら、“これ”は戦闘で使わないでくださいデス。アナタたち、魔力操法が下手くそ。潜り過ぎれば、二度と、戻れなくなるデスから……――」
(――……ごめん、ステラハート。でも今使わないと、きっと後悔する)
(戻れなくなる前に、コイツをぶっ倒して戻ればいいだけ……やってやるわよ!)
打ち合わせをしたわけではない。
相談したわけではない。
ルミナスハートとオーロラハートは、互いを感じ得ない離れた位置にて、同じ決断を下した。
ゆらりと立ち上がる二人の魔法少女。
目を閉じて、魔力を練り、呼び覚ます。
そして、唱えた――。
「「――“深淵解放”ッ!!」」
二人の魔法少女の体を魔力が包み、迸る。
赤と青――交わらない二つの光が、それぞれの部屋を満たしていった。




