第24話 魔女の庭
「――まったく、ルクレティアさんにも困ったものだね。街中廃墟にして、消えた人たちがどっかの建物に監禁されてたらどうするつもりだったんだろ」
瓦礫の上を飛び回りながら、トゥインクルは愚痴をこぼす。
「そ、そういう問題じゃない気が……」
「ルミナス、深く考えたらダメ。もうアタシも頭パンクしそうだし、今は痕跡を探しましょう」
するとトゥインクルハート、盟主にも噛み付く。
「それだけど、ルクレティアさん、肝心なところで別行動取るよね。何か見つけたら呼べって言うなら一緒に行動すればいいのに」
「冗談じゃないわよ! 盟主様が一緒なんて、緊張してこっちが持たないだろうし」
オーロラは顔をしかめていた。
そこまで言われる盟主ルクレティア、なんか哀れだね。
(仕事場のトップがずっと横にいるって状態だろ? それは確かに誰でも嫌だろうに)
「ふふふ、でもトゥインクルが一緒に行動してるって、なんだか新鮮。やっと友達になれた気がする」
微笑むルミナスだったが、オーロラはそうでもなかった。
「ルミナス、気を付けて。今回は盟主様の指示だからそうしてるけど、本来のこいつは、本当に味方かもわからない存在なんだからね」
「相変わらず手厳しいようで、オーロラさん――」
リィーーン――。
鈴の音が響く。
「――――ッ!?」
三人の魔法少女は足を止め、周辺を警戒する。
「……何の音? 鈴?」
「わからないけど……オーロラ、トゥインクル、油断しないで」
(油断はしてないけど……セルフィ、どうだ?)
うん、業魔の気配はないけど……なんだろ、魔力みたいなものを感じる。
かなり弱くて、ちょっと妙な。
詳しくはわからないけど……凄く気持ち悪い。
(セルフィでもわからないってことは、魔女か)
トゥインクルハートは即座に虚空より釘バットを取り出した。
それを見たルミナスとオーロラも、それぞれの武器を取り出し構える。
〈――……うしろの正面――〉
ブオォン――ッ!
声が聞こえると同時に、トゥインクルハートは声に向けて釘バットをフルスイングする。
しかしバットは空を切った。
「チィッ……逃がしたか」
「ちょ、ちょっとトゥインクル! いきなり脅かさないでよ!」
「トゥインクル、今の声は――」
「そこにいる、“アイツ”だろうね」
トゥインクルハートの視線は、一点に向けられていた。
ルミナスも、オーロラも、その方向を見る。
それは、一人の女性だった。
頭から黒く厚いローブを被り、風に揺れる度に、フードの先端に付いた鈴が音を鳴らす。やけに手足が長く、布の隙間から見える肌が、蒼白い。
そしてその顔――蒼白い肌に真っ赤な口紅が艶やかに塗られ、目元は、青いドミノマスクで隠されていた。
「あれが……“氷柱なる魔女”?」
「わからない。でも、この凍結空間にいるってことは……」
ルミナスとオーロラが言葉を交わす中、トゥインクルはバットの先端を女に向けた。
「アンタが、魔女って奴?」
「…………」
女は何も答えない。
「……ルミナス、盟主さんに信号魔法を――」
トゥインクルハートがそう呟いた瞬間、女の背後から影が伸びた。
「なッ――!?」
影は漆黒の布のように広がり、辺りを包み込む。
そしてそのまま三人を飲み込もうとした時、トゥインクルハートは叫んだ。
「舐めんなッ!!」
覆い被さる影に向け、釘バットを振り抜く。
影は裂かれ、散り散りに破れて消えたが――“そこ”は、既に元いた街ではなかった。
「こ、ここは……」
三人は武器を下げ、目の前の光景に圧倒される。
そこは、城の袂だった。
ただの城ではない。作りは中世ヨーロッパのものと似ているが、その材質は、全てが氷。
壁も、床も、上空さえも、溶ける気配のない、クリスタルのような氷で出来ていた。
(……セルフィ、ここは?)
たぶん、魔女のテリトリーかな。
いわゆる“魔女の庭”ってやつ。
魔女は基本的に異空間にいるんだけど、僕たちはそこに引きずり込まれたんだよ、きっと。
(ってことは、アリスも冴子さんたちも、みんなここにいるかもしれないな。手間が省けたかも)
手間ねぇ。
ミイラ取りがミイラになった感が凄いけどね。
(縁起でもないこと言ってないで、索敵索敵)
はいはい。ええと……うん、強い反応がいくつかあるね。たぶんこれ、怪魔だよ。
それであの城の一番奥に、魔力を感じる。
この気持ち悪い感じ……さっき現れた、マスクの人のものだね。
(さすがセルフィ、頼りになる。でも、怪魔が複数体か……)
トゥインクルは、ルミナスとオーロラを見る。
二人は依然として動揺し、その居城を目に映し続けていた。
(……二人に待ってもらうように言ったら、さすがに怒るだろうな)
怒る怒らない以前に、それは前にアリスがしたことと同じだよ、小太郎。
キミはそれで彼女に怒りを抱いた。
そのくせ、今度はキミがそれをするの?
(それは……うん、悪い。確かにそうだな)
謝る相手が違うでしょ。
……それに、今は二人が目の前にいるんだ。
キミたちに必要なのは、一方的な加護じゃない。
きっと、話すことさ。
(話す……)
そう、話すんだ。
ありのままに、小太郎が考えてることも。そしてあの二人が思っていることも。
全部を聞いて、全部を話す。
どうするかを検討するのはそこからだよ。
(……うん、そうだな。ありがとう、セルフィ)
そして、トゥインクルハートは二人の魔法少女に声をかける。
「……ルミナスハート、オーロラハート。聞いておきたいことがある」
「……うん」
「何なの?」
「この先にはきっと、“氷柱なる魔女”がいる。それはステラハートすらもあっさり飲み込んだ存在だ。それに、その魔女が生み出したであろう怪魔も複数存在している。……そんな、巣窟のような城に入れば、命の保証はない」
二人の顔は険しくなる。
「だから、聞いておきたいんだ。この先に進むかどうかを……。もちろんここで待っても危険は伴う。ただそれでも、中に入るよりは安全だと思う。だから、無理せずにここで待っても――」
「トゥインクルハート」
ルミナスが、言葉を遮った。
「私たちのこと、心配してくれてるんだね。ありがとう。でも、大丈夫だよ」
そしてオーロラ。
「あんまりアタシたちを舐めないでね。――アタシたちは、魔法少女。アンタと同じね」
「ルミナス、オーロラ……」
……まだ、心配なんて言うつもり?
(心配は心配だって。でも……うん。腹は括れた)
「……うん、わかった。三人で行こう」
「ええ! トゥインクルハート!」
「当たり前でしょ!」
そして三人は並んで歩き、城へと近付いて、巨大な門に触れる――。
その瞬間、それぞれの視界がジャンプした。
「…………ん?」
気がつけば、小太郎は一人城の中にいた。
ルミナス、オーロラの姿はない。
「……マジかよ」
トゥインクルハートの呟きは、幾重にも反射してこだまするのだった。




