第20話 防衛装置
盟主ルクレティアとの会談を終えた小太郎は、驚くほどにあっという間に外に出された。
「では小太郎よ、またの」
最後にルクレティアはそんなことを言っていたのだが……あの“また”ってのは、なぜだか僕には、“またすぐに”って意味に聞こえたんだけど。
その辺どう思う?
「知らねえよ。もうやめてくれよ。これ以上荒らされたくねえよ。魔法少女と私生活は別。公私混同したくないんだよ」
最近で言うと、むしろ魔法少女してる時の方が静かだよね。
業魔だけ相手してればいいし。
「業魔より厄介な周辺環境ってどういうことだよ。どんだけハードモードな私生活なんだよ」
それが自分の運命だと思って諦めるんだね。
そして小太郎は、家へと帰った。
無性に喉が渇いてたらしい。
まっすぐ台所まで向かい、コップを取り出し、冷蔵庫からお茶を取ってコップに注ぐ。
「ふぃぃ……やっと落ち着いた」
「ふむ、何やらお疲れのようじゃの」
「そうそう。なぜか知らないけど、地下に連れてかれて、尋問されて、そっから“るくれちあ”とか言う盟主さんだかにガン詰めされてさ。もう大変ったらないよ」
「“るくれちあ”ではない。“ルクレティア”じゃ。いい加減に覚えんか、バカモノめ」
「あーはいはい、それはどうもすみませんでしたねルクレティアさーーーん!!??」
小太郎はコップとお茶を放り投げ、台所の壁へと追いやられる。
そんな彼が見つめる先のリビング。
そこでなぜか、ルクレティアは鎮座し、緑茶を啜っていた。
「騒がしい奴じゃの。静かにせんか」
「いやアンタ……! 俺ん家で何してんすか!」
「いやの? 暇じゃから、お主の家と儂の部屋を移送魔法で繋いでみたんじゃよ。いやはや、上手くいって良かったわぃ」
「繋いでみた――じゃないですよ! 不法侵入でしょうに!」
「堅いことを抜かすでない。そもそもこの部屋と儂の部屋は繋がっておるから、ここは既に儂の家と同じじゃ。不法侵入ではなく、単なる帰宅じゃよ」
「そっちの方がよっぽど暴論じゃないですか!」
叫び散らす小太郎に対して、ルクレティアはあくまでも穏やかに微笑む。
「そうやって何ら遠慮なく意見をぶつけてくるなど、儂にとってはなかなかどうして、新鮮なものなのじゃよ。……なるほど、これが、弟というものなのかのぉ」
「どう考えても違うでしょ。しかもどちらかと言えば、弟というより孫――」
「おおっと、それ以上言うでないぞ? この家を吹き飛ばして、お主の住民票を地下の本部に移してもいいんじゃぞ?」
「…………」
さすが盟主ルクレティア。
小太郎の言葉を一瞬で飲み込ませるとは、何たる魔法だろうか。
(魔法じゃなくて単なる脅迫だっての!)
するとここで、家の玄関が突然開かれた。
ドタドタと廊下を走る音が響き、リビングの扉が開かれた。
「コタロー! 本部から戻ったと聞いたデス! ではでは! さっそくワタシとドイツに――!」
「静かにせんか、アリス・シュテルン」
アリスはルクレティアを見るなり動きを止めた。
「M-Meisterin!?(め、盟主様!?)」
アリスは慌てて片膝をつき、頭を下げた。
「W-Wir haben uns lange nicht gesehen, meine Gebieterin. Bitte verzeiht mir, dass ich Euch nicht früher begrüßt habe(お、お久しぶりです盟主様。ご挨拶が遅れ、申し訳ございません)」
「Es ist wohlgetan. Auch Wir befinden Uns derzeit gewissermaßen in Muße. So sei unbesorgt und gib dich ungezwungen(よい。儂も今は、いわば暇を持て余してる身じゃ。そう気を張らず、楽にせよ)」
「J-Ja. Vielen Dank für Eure Rücksichtnahme.(は、はい。お気遣い、ありがとうございます)」
そしてその光景に、小太郎は戦慄する。
「あ、あのアリスが跪くとは……ルクレティアさん、恐るべし……」
一番恐ろしいのは、そんな盟主に軽口叩いてる小太郎なんだけどね。
するとアリスは、静かに小太郎の横に移動する。
そして小声をかけ始めた。
「コタロー! これはどういうことデスか! どうしてワタシとコタローの家に、盟主様がいるんデスか!?」
「俺の家っす、俺の。いやなんか、ルクレティアさんの弟になったらしいですよ、俺」
「お、弟!? 弟とはどういうことですか!?」
「それは俺が一番知りたいかもしれない。なんでだろうね、ホント」
するとルクレティアは、「時に、アリス」と声をかけた。
「は、はいデス!」
アリスは直立で硬直する。
「Uns ist zu Ohren gekommen, du seiest willens, Kotarō mit dir nach Deutschland zu führen. Wir aber gedenken, auch künftig in gebührenden Abständen mit Kotarō Zwiesprache zu halten (聞くところによれば、お主、小太郎を伴ってドイツへ赴くつもりだそうじゃの。じゃが儂は、これからも折を見て小太郎と言葉を交わすつもりでおる)」
「J-Ja ……(は、はい……)」
「……Du wirst doch nicht etwa die Vermessenheit besitzen, Uns zu bedeuten, Wir sollten davon ablassen?(……よもやお主、儂にそれを取り止めよなどと申し立てるほどの、不遜を働くつもりではあるまいな?)」
「N-Niemals! Das würde ich mir nie erlauben! Verzeiht mir meine Unverschämtheit!(め、滅相もございません! 失礼しましたぁ!!)」
アリスは逃げるように帰って行った。
もちろん小太郎も僕も、何を話していたのかは全くわからない。
わからないが、どうやらルクレティアは、アリスを追い払ってくれたらしい。
「ル、ルクレティアさん?」
小太郎の呟きに、ルクレティアは片目を閉じて口に指を立てた。
「今のはただの職権濫用じゃ。一つ、秘密にしといてくれんかの」
「……お姉様と呼ばせてください!」
小太郎、陥落する。
「よいよい、ルクレティアと呼べ」
そしてまたも玄関は開かれる。
現れたのは冴子である。
「ねえ小太郎! 今なんか、アリスが家から逃げ出して――め、盟主様ァ!?」
冴子もまた、アリスと似たような末路を辿るのであった。




