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第15話 激情のアリス





 その後、アリスには何とか帰ってもらった。

 しかしそれからは地獄の空気で、奥園も、緋井原も、怒りと屈辱で言葉を失い、声一つ発することなく、そのまま放課後を迎える。

 僕たちにとって好都合だったのは、アリスの動きだった。

 彼女は宣言通り、助手として小太郎を迎えに来ていた。

 そして不気味な程に通常モードとなった山田小太郎は、彼女を連れられ、トゥインクルハートが怪魔を倒したとされる廃工場へと調査に来ていた。


「Das ist also der Ort, an dem Twinkle Heart diesen Dämon besiegt hat ……. Aber dass sie ihn ganz allein erledigt haben soll, kann ich mir kaum vorstellen. Na ja, egal. Ich werde mir mal die magischen Rückstände genauer ansehen. Vielleicht finde ich ja wenigstens irgendeinen Hinweis ……(ここが、トゥインクルハートが怪魔を倒した場所か……。でも単独討伐ってのは、ちょっと信じられないわね。まあいいわ、魔力残滓でも調べてみようかな。少しでも手がかりになればいいけど……)」


 独り言を呟きながら、周辺をキョロキョロと見渡すアリス。


「あの……アリスさん?」


「ん? なんデスか?」


「アリスさんって、足手まといはいらないんですよね?」


「そうデスよ」


「……俺、明らかに足手まといですけど? 帰っていいですか?」


「アハハハ、ダメデース」


「アハハハ、なんでやねんデース」


「コタローは助手としてワタシに雇われてるのでセーフデス。他はいらないデスよ。他の人は、邪魔デスから」


「……それ、前も言ってましたね。他人が邪魔だからいつも一人ってやつ。でもそれ、けっこうキツくないですか?」


 アリスは動きを止め、弱々しく笑ってみせた。


「……小太郎だけに教えるデスけど、やっぱり、ちょっとだけ、キツかったデス。でも魔法少女になって業魔を倒せば、みんなチヤホヤしてくれたデス。みんなが、ワタシを見てくれたデス。でも……」


 そして彼女は振り返り、小太郎を見た。

 その顔は、笑顔だった。


「コタローは色々うるさいデスが……ワタシのカッコ悪いところを見たのに、それでもずっとワタシを見てくれてますデス。そんな人、コタローが初めてデス。知らないワタシの話、信じてくれたデス。ご褒美にラーメン、奢ってくれたデス。本当にずっと優しくて、ずっと楽しいデス。……だからコタローは、ずっとワタシの助手デス。ずっとずっと、ワタシの助手でいいんデスよ」


「アリスさん……」


 そう話すアリスは、とても成人には見えず、年端もいかない少女のように思えた。


 ――……で、小太郎。

 これ、どうする?

 なんかすんごい良い感じの雰囲気になってるよ、アレ。


「……そだね。ちょっと困ったな」


 山田小太郎とアリスの頭上、工場の屋上……そこで、“本物の小太郎”はトゥインクルハートに変身しスタンバっていた。

 作戦自体は上手くいったんだけどね。

 虚像生成魔法で偽小太郎を用意して、本物はトゥインクルハートとして現れる。

 

「うん、しかも虚像もけっこう細かく設定できたからな。緋井原や奥園、アリスさんのことは知ってるけど、トゥインクルハートのことは知らないってことにしてるし」


 分身創造だけでもヤバいのに、そっから更に記憶の詳細設定なんてつくづく無茶苦茶だよ。

 もうどうやったって見破れないよ、こんなの。

 完璧過ぎて怖いくらい完璧。

 なのに……。


「……うん。なのに、なーんで今あんな話をするかなぁ。なんかもう心置きなく泣かすことができないじゃん」


 アリスにも色々あるんだね。

 たぶんさ、魔法少女になって業魔を倒すこと自体が、彼女のアイデンティティになってるんだよ。

 自分の価値を魔法少女に見出す……うん、すんごくアリスらしいっちゃらしいね。


「それが、アリスにとっての魔法少女を続ける理由ってことか……」


 ……で? どうするの?

 すっかり熱も冷めちゃったみたいだけど、泣かすの、やめる?


「いや、やるにはやるけど……なんだろ、すんごい悪役になった気分。ヒーローショーの悪役やってる人、毎回こんな複雑な心境なんだろうか……」


 ようやく意を決した小太郎改めトゥインクルハートは、天井から飛び降りた。


「――私について、色々嗅ぎ回ってるみたいね?」


 トゥインクルハートの声に反応したアリスは、目を見開いた。


「ア、アナタは……!?」


「トゥインクルハート。あなたが私を探してるって耳にしたから……馳せ参上、仕ったわよ」


 小太郎、昨日時代劇見た?

 口調引っ張られてない?

 しかしアリスは、喜びに口角を吊り上げていた。


「Endlich …… endlich habe ich sie gefunden!! Kotaro, danke! Du bist mein Glücksengel!(ついに……ついに見つけた! コタローありがとう! あなたは私の幸運の天使よ!)」


 ……なんか、コタローって聞こえたんだけど。


(うん。俺にも聞こえた。まさかバレてる? え? これ、俺ってバレてるの? 嘘だろ?)


 すると偽小太郎は、二、三歩後ずさる。


「き、金色の、魔法少女!? まさかこの人が……トゥインクルハート!?」


 ほら見てよ小太郎、あの偽小太郎の自然な反応。

 あれだよあれ。あれこそアカデミー賞でオスカー像総ナメ演技だよ。


(いやアレは演技じゃなくて、ホントに驚いてるだけだからな? そうなるように設定してるだけだからな?)

 

 そして偽小太郎は、トゥインクルハートをまじまじと見る。


「すんごい可愛いけど……髪から服まで全部金ピカか……。うわぁ、めちゃくちゃ悪趣味。街歩くのめちゃくちゃ恥ずかしそう」


「…………」


 小太郎、ちょっと小太郎。

 自分の素直な感想にショックを受けてるとか滑稽すぎるから。

 自分に貶されて傷つくとかなんたる不毛だよ。

 なんていう構図だよコレ。


(うるせえ! いかんいかん、落ち着け俺……)


 トゥインクルハートは深呼吸をしながらアンガーコントロールを行い、冷静を装う。


「……ええと、コタローくん? キミ、邪魔だから帰ってくれないかな」


 ピクリ、と。

 偽小太郎は反応する。


「……なんで俺の名前を知ってるんですか?」


「今アンタらが話してたからだよ! 意味深に呟くことじゃねえだろ!」


「あ、そっか」


 腑に落ちる偽小太郎。


「アホかよ! ちょっと考えたらわかるだろうに! マジでアホだな、お前は!」


 小太郎落ち着いて。

 自分で自分にキレてどうすんのさ。世界一アホな激怒だよ、それ。

 深呼吸、はい、深呼吸。アンガーコントロール。


「……Störend? Idiot? Hast du gerade meinen Kotaro beleidigt?(邪魔? アホ? あなた今、私のコタローを侮辱したの?)」


 ふと、アリスが呟く。


「ん?」


「Du hast ja ganz schön Mut. Weißt du, was mich mehr als alles andere auf die Palme bringt? Wenn jemand sich über etwas lustig macht, das mir gehört!!(いい度胸じゃないの。私はね、私のものを馬鹿にされることが……何より一番、ムカつくのよ!!)」


 アリスはこれまで見たことがないほどの、怒りの形相をしていた。


「……ねえセルフィ、なんかアリスさん、めちゃくちゃキレてない?」


 うん、キレてるね。

 何言ってるかわかんないけど、めちゃくちゃキレてるね。

 でもしおらしくされるより、よっぽどフルボッコしやすくなったんじゃない?


「いやまあそうなんだけどさ。それより偽の俺、なぜ逃げないんだよ。マジで邪魔なんだけど」


 小太郎とのんびり話をしてる中、再び聞こえた「邪魔」という言葉に、激情のアリスは、完全にキレたらしい。


「――Kuga! Wir machen diesen Kerl auf der Stelle fertig!(――クーガー! こいつを今すぐぶちのめすわよ!)」


 アリスはオレンジ色の魔力を解放させる。

 魔力は奔流となり、渦を巻き、工場の中を充満させていく。

 そして彼女は、叫んだ。


「――“Verwandlung”!!(“変身”!)」


 魔力の奔流はアリスの体を包み込み、衣装を変異させる。

 それは小太郎が家で見た、橙の魔法少女である。


「ステラハート、か……」


 うん。気をつけてね小太郎。

 単身で魔法少女に変身できるってことは、彼女、間違いなく強いよ。

 

「だな。……さて、武器はなんだろうな」


 そしてステラハートは、光の彼方より武器を取り出す。

 ジャキン――ッ!

 重厚な金属音と共にステラハートが両手で構えたのは……巨大でメタリックな、機関銃だった。


「えええ……。魔法少女の武器で機関銃って、そんなのあり?」


 いやいや、いつも釘バット振り回してる小太郎にだけは言われたくないだろうね。


「Mein Auftrag ist es, dich zum Hauptquartier der Organisation zu bringen! Verfluche dein Pech, dass mir niemand befohlen hat, dich unversehrt abzuliefern! Verreck! TWINKLE HEART!!(私の任務は貴様を機関本部へ連れて行くこと! 五体満足と言われなかった不運を呪いなさい! くたばれ! トゥインクルハートッ!!)」


 そしてステラハートは、機関銃のトリガーを引くのだった。







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