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第11話 私を家まで連れてって





 一週間後の夜。

 小太郎の地元から離れた公園。


 ……うん、誰もいないよ。

 出るなら今だよ、小太郎。


「…………」


 ガサガサと、どこか不貞腐れたように、小太郎は雑草を乱暴にかき分けて姿を見せる。

 そして――。


「……はぁぁぁぁ」


 ロングブレス級のため息を吐き出した。

 

 どうしたのさ、いったい。


「だってさ、俺さっき、業魔二体倒したんだぞ? 二体だぞ? 二体」


 二体を三回も言わなくていいから。

 ややこしいな、これ。


「しかも今回はちょっと強めな個体だったしさぁ。ルミナスとオーロラは二人で業魔一体だろ? それですんごい給料貰えてるんだろ? で、二体倒した俺は無給? なあ、おかしくないか? これ、おかしくないか?」


 でも、魔法少女機関には行かないって決めたのは小太郎だよね?


「行かないんじゃなくて、行けないだけだから。いくら金を貰っても、自由に外出られないんなら何の意味もないし。はぁぁぁ」


 クソデカため息、ごちそうさま。

 それなら、もう魔法少女活動はしない?


「いやするよ、するけども。不満ぐらい言っていいじゃん。愚痴くらいこぼしてもいいじゃん。なんやかんやで愚痴で終わらせて業魔倒してるんだから、俺って相当な聖人君子だよ? 超ボランティアヒーローだよ? 正義感が服着て歩いてるようなもんだよ?」


 自分で自分を聖人君子とか言っちゃったよ。

 ヤバいよこの人。


「――Wäääääh!!(うわあああん!)」


 ……なんか、女の人の泣き声が聞こえたね。


「誰だろ。こんな時間にこんな街外れの公園とか、不審者くらいしかいないのにな」


 それ言っちゃうと小太郎も不審者ってことになるけど、概ねそれで合ってるからここは流すね。


「流すならいちいち口に出してんじゃねえよ。流したやつが全部こっちにたどり着いてるんだけど」


 小太郎は恐る恐る声の方へと向かってみた。

 そこは公園のベンチだった。

 そしてそこで、赤い髪をした外国人女性が泣き喚いていた。

 ストロング缶チューハイを持って。


「Warum?! Warum kann ich einfach nichts finden?! Es ist schon eine ganze Woche her! Eine Woche! Und trotzdem habe ich nicht einen einzigen Hinweis gefunden! Wie kann das bitte sein?!(どうしてよ! どうしてこんなに見つからないのよ! もう一週間よ!? 一週間! なのに手がかり一つ見つからないとか、そんなのあり!?)」


 女性はとにかく叫び散らしていた。


「うっわ、めちゃくちゃ英語じゃん。外国人?」


 小太郎、あれたぶん英語じゃなくてドイツ語。

 

「どっちでもいいだろ。どうせ何言ってるのかわかんないんだし」


「So kann ich doch nicht in mein Land zurückkehren! Mit leeren Händen zurückzukriechen wäre eine Schande für meine Familie bis in alle Ewigkeit! Wäääääh!!(このままじゃ国に帰れない! 何一つ成果なく逃げ帰るとか、末代までの恥じゃないの! うわあああん!!)」


 号泣しながらも、その女性はストロング缶を一気に飲み干し、空き缶を握り潰して、カシュッと新たなストロング缶を開け、またグビグビ飲む。

 完全なヤケ酒だね、ありゃ。


「セルフィ、何て言ってるのかわかるか?」


 残念だけど、全然、全く。

 精霊の言語能力って契約者に依存してるわけだから、小太郎がアホ言語な分だけ僕もアホ言語になってるんだよ。


「さりげなく俺のせいにすんなよ。……はぁ、でもまあ、仕方ないか」


 そして小太郎は、女性に向けて歩き出した。

 あれ? 声かけるの?


「さすがにこのまま放置ってわけにもいかないだろうに。……はぁ、またタダ働きか」


 人が良いというか、面倒事が好きというか。

 いずれにしても、小太郎はその女性に声をかけるのだった。


「……あ、あのぉ」


 女性は小太郎に気付き、真っ赤な顔を向けた。


「……Nanu? Wer bist denn du? Bist du etwa gekommen, um mich Versagerin auszulachen? Uahahahaha!(おんやぁ? キミは、誰? もしかして、無能な私を笑いに来たの? うひゃひゃひゃ!)」


 ケラケラと笑いながらも、ストロングチューハイを飲む手は止まらない。


「うん、なんか思いのほか機嫌良さげだな」


 え? これ、機嫌いいの?


「だって楽しそうに笑ってるじゃん」


 極端にやさぐれた時も笑い声って出るし。

 むしろ、この投げやりな笑い方はそっちの方じゃない?


「Ach, ich kann echt nicht mehr. Mir ist so schlecht …… Ich glaub, ich muss kotzen. Ugh……(あー、もう無理。気持ち悪い。吐きそう。うーん……)」


 そして女性は、その場に倒れ込んでしまった。


「あーお姉さん! ……あちゃー、寝ちゃったか。しかし困ったな、コレ」


 もう帰っていいんじゃないの?

 あとは行政機関が何とかするでしょ。


「こんなところに放置してたら危ないって。せっかく遥々日本まで観光に来てる人だぞ? そんなの可哀想じゃん」


「Heee, du daaa …… Kannste mich ma’ nach Hause bringen? Wär echt nett von dir …… Nach Hause, weißte? Zu mir. Nach Deutschland. Hihihahaha!(あー、そこのキミ。悪いけど、家まで送ってくんない? ドイツにある、私の家。うひゃひゃひゃ)」


 ……小太郎、これ絶対うざ絡みだよ。

 間違いない。


「なんて言ってるかわからないくせに妙に断言したらダメ。……でも、ハウスってのは辛うじて聞こえたな。これさ、もしかして、家まで連れてって的なこと言ってるんじゃないか?」


 家って……小太郎の?


「そうじゃねえの? 今日は泊めて欲しいみたいなこと言ってるんだろ、きっと。バックパッカー的な旅行者なんだろ、たぶん」


 そんなバカな。

 ハウスって単語一つでそこまで展開させる?


「でもどのみちこのまま放置なんて出来ないし……仕方ない、タクシーくらい呼んでやるか」


 そして小太郎は、スマホをポチポチしてタクシーを呼ぶ。

 やがて公園の前にやってきたタクシーのハザードランプが点灯し、小太郎は、女性の肩を抱えた。


「……ほらお姉さん、タクシー来ましたよ。お姉さん、もしもーし」


「Sorry……ich kann grad echt nich’. Beweg mich jetzt bloß nich’ …… Urrgh ……(ごめん……ちょっと無理。今体を、揺らさないで……うっぷ……)」


「いやいや、お礼なんていいんですよ。とりあえず、タクシー乗りましょ。……意外に通じるものだな、日本語って。俺たちの母国語も捨てたもんじゃねえな」


 いや絶対通じてないでしょ。

 それにその人、なんか顔が青くなってきてるよ?

 迂闊に動かさない方がいいんじゃない?


「大丈夫大丈夫。単に酒飲みすぎただけだろ。しかしこんなにデロンデロンになっちゃって……せっかくの美人が台無しだよ、まったく」


「Hab doch gesagt, du sollst mich nich’ so schütteln ! Urrgh …… ich kann nich’ mehr ……(だから揺らさないでって! うっぷ……もう、ダメ……)」


「へ?」


 小太郎はようやく異変に気付く。

 ……全てが、遅すぎた後に。


「Uuurgh ……blergh ……!(うっぷ……おろろろろ……!!)」


「ぎゃ、ぎゃあああ! 吐いた! めっちゃ吐いちゃったよこの人!」


 あーあ、だから言ったじゃん。

 小太郎、めっちゃ服にかかってるよ。肩から全身にべっとりと。

 うわぁばっちい。ご愁傷様。


「他人事みたいに言いやがって! ……って臭ッ! めっちゃ臭いんだけど――うわ臭ッ! 今度は俺が吐きそう……うわ、臭ッ!」


 もう全てがめちゃくちゃで、めちゃくちゃ汚い夜であった。


 





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