第10話 降り立つ星
魔法少女機関ってのは、魔法少女を統括する組織のことだね。
世界中に支所があるんだけど、その組織が一般に知られることは絶対にないんだ。
「…………」
そして魔女っていうのが……まぁ、小太郎でもわかるように言うと、業魔の親ってところかな。
魔女は異空間のどこかにいて、そこから漏れ出した魔力が世界の“穢”と合わさり、業魔になるって仕組み。
怪魔は……業魔の突然変異ってのが通説だったけど、あの蛇騎士の話だと、魔女がわざわざ生み出したってことらしいから、実際のところはわかんないね、ちょっと。
「ふーん……」
小太郎はジト目で壁を見ていた。
……ちょっと。せっかく僕がキミの疑問を解消してやってるのに、何さその興味なさげな態度。
「……いやな? それってさ、本当なら、もっと早く教えるべきことじゃねえの?」
小太郎の部屋にて、小太郎はしかめっ面を見せていた。
「機関とか魔女とか……さすがに専門用語が多すぎて頭パンク寸前なんだけど。なんでそういうことを秘密にするかなぁ。俺、魔法少女じゃん? なんで魔法少女なのに魔法少女のことを何も知らされてないんだよ」
聞かれなかったからだよ。
「だから知らないことをどうやって聞けと。これツッコムの二度目だぞ、二度目。この際だからまとめて聞いておくけど、その魔法少女機関ってのは正義の組織的なやつなのか?」
何をもって正義と呼ぶのかわからないけど、少なくとも人類に敵対してるわけじゃないよ。
機関の最終目標は、魔女の根絶なわけだし。
……もっとも、魔法少女をスカウトして駆使する限り、その実現は果てしなく遠いだろうけどね。
「なんで?」
だって魔女って、魔力暴走を起こした魔法少女の成れの果てなんだし。
「へぇ……って、は!? ご、ごめん、もっかい言って?」
だから、魔女は、元々魔法少女だったんだよ。
魔法少女が魔力暴走を起こして、溢れ出した魔力が魔法少女の体と意思、魂すらも呑み込み、支配して、魔女となる――それが、“魔女堕ち”さ。
「それ、めちゃくちゃ重大秘密事項じゃね? っていうか、それってそんなにアッサリ教えていいものなのか? 全てを知った俺、まさか消される?」
いやいや、簡単に消されるほど儚くないでしょ、小太郎は。
それに、今小太郎に話してる内容は機関に所属してる者なら誰でも知ってるような話だしね。
常識中の常識。隠すほどのことでもないんだよ。
「隠すほどでもないような常識をなぜ俺に教えなかったのか」
だから小太郎が聞いて――。
「そこまでだ。三度もツッコム気力はねえ」
閑話休題。
「でもなんか、それってアベコベっていうか凸凹っていうか……。単純に、魔法少女のスカウトをやめればいいって話じゃないのか?」
そんなに簡単な話じゃないんだよ。
魔女はもちろん、怪魔も業魔も、めちゃくちゃ濃い魔力の塊みたいなものなんだ。
だから通常の人間や兵器ではまるで相手にならなくて、魔力を通した攻撃を与えることで、その魔力を飛散させ、消滅させる必要があるわけよ。
しかも一度生み落ちた業魔たちは、放置していても絶対に消えないし、欲望のまま世界を壊し、人を襲う。
それを倒すためには、やっぱり、魔法少女が必要となる。でもそれは、新たな魔女を生み出す可能性を持っている。
卵が先か鶏が先かはこの際置いておくとして、にっちもさっちもいかないのが現実ってわけ。
「あーもう、なんかわけがわからん。説明書とかないのか? 暇があったら読むからさ」
あっても絶対読まないでしょ。
……あ、そうそう。ちなみに、魔法少女機関に所属している魔法少女、ちゃんと報酬出てるから。
「…………は? 給、料……?」
そこまでの危険があるのに、正義感だけで命を賭ける人なんてほとんどいないからね。
おまけに業魔という危険な存在は、国としても放置できない。
だから魔法少女機関には、非公式だけど、国から結構な額の補助金が出てる。
それは機関の運営費に使われてて、魔法少女たちのお給金にもなってるんだよね。
「待て待て待て。ちょっと待って。……え? 魔法少女って、給料出てるってこと? いくら?」
具体的な金額は知らないけど、一般的な仕事とは比べ物にならないくらい高いみたいだよ。
「いやいや……いやいやいやいや! え!? 俺のは!? 俺の給料は!?」
報酬は魔法少女機関から支払われてる。
小太郎は所属してないし、言ってしまえばサービス勤務の魔法少女。
つまり、報酬なんてありませーん。
「いやおかしいだろ! 俺、これまで結構な数の業魔を倒してるよな!? 怪魔すら倒したよな!? なのに、他の魔法少女は給料あるのに俺にはないだと!? ふざけんじゃねえ! 世界がそれを許しても労働基準法と俺の魂が許さねえよ!」
じゃあ魔法少女機関に入るの?
あんまりオススメしないけど。
「なんだよ、そのオススメしない理由って」
だって小太郎、魔力が高すぎるんだもん。
さっき言ったでしょ? 魔法少女は魔女堕ちの可能性があるって。
小太郎ほどの魔力の高さなら、魔法少女機関に捕まったが最期、下手すりゃ一生監禁生活だよ?
「え゛」
それどころか、即処刑。または人体実験の可能性もあるね。
……まあ少なくとも、これまで通りの生活ってのはまず無理だね。
空の青さが懐かしくなることだろうね。
「…………」
こうして小太郎は、泣く泣く“現状維持”を選ぶことになったのだった。
……ごめんね、小太郎。
ちょっと大袈裟に言ったけど、その可能性は本当にあるんだよ。だって魔法少女機関は、魔女を滅ぼすための組織でしかないから。
キミが思ってるよりも、機関は非情なんだよ。
僕はキミを利用している。
……だからせめて、小太郎には、出来る限りそんな世界に触れて欲しくない。
せめて小太郎には、小太郎でいてほしいから。
だから、ごめんね。
◆
――その日の夜、小太郎たちの街からほど近い空港に、彼女は降り立った。
赤毛の髪、青い目、高い鼻、見る者を虜にするスタイル……間違いなく美人と呼べる成人の女性だったが、その目は力強い。
彼女はスマートフォンを取り出すと、どこかへ電話をかける。
「――……Hallo? Ich bin gerade in Japan angekommen(もしもし、今、日本に着いたわよ)」
それは流暢なドイツ語だった。
「Ja, ja…… ich weiß. Ich will mir schließlich auch ein bisschen was vom Land ansehen, also habe ich vor, den Auftrag so schnell wie möglich zu erledigen(ええ……ええ、わかってる。観光もしたいから、さっさと任務を終わらせるつもり)」
彼女は街を見渡した。
「Keine Sorge. Für wen hältst du mich eigentlich? Twinkle Heart oder wie sie sich nennt – ich schnappe sie mir im Handumdrehen(安心して。私を誰だと思ってるの? トゥインクルハートだか知らないけど、すぐに捕まえてやるわよ)」
そして夜空を見上げた少女は、一際強い光を放つ星を見つめ、自信に満ちた笑みを浮かべた。
「Denn ich bin schließlich niemand Geringeres als – Stella Heart höchstpersönlich!(この私――ステラハート様がね)」




