2-1 オルディナ宝石店
翌日の午後、アルベルトは近衛騎士団の一室で、ヴァルシークとビオンを相手に調査結果を整理していた。
そこに、外での聞き込みを終えたセリアが戻ってきた。数枚の書き付けを手に、足早に卓に近づく。
「あの夜、屋敷の外で令息を見かけたという者が何人か見つかりました。やはり、屋敷を抜け出していたようです」
卓上に広げられた書き付けに目を落としていたアルベルトは、その言葉に顔を上げた。
「間違いないのか?」
「はい。オルディナ宝石店に入るところを見た者がおり、店の者にも確かめました。あの夜訪れたのは、確かにユリディス令息だったそうです」
「なるほど。店で直接応対した者の証言なら、見間違いということはないだろう」
「こちらで調べた結果とも一致しますな。若い団員に実際に窓からの経路をたどらせてみたところ、門を通らず塀の外まで出ることができました」
ヴァルシークが何でもないことのように付け加えると、セリアは思わず彼を見返した。
「オルディナ宝石店とは?」
しかしアルベルトの問いに、気を取り直して答える。
「ええと……王都の若い貴族に人気のある店だそうです。特に、女性に贈る品を求める際によく利用されるとか」
「あ、その店なら私も聞いたことがあります」
脇で書類を眺めていたビオンが、すかさず話に加わった。
「もとは名前の通り宝石だけを扱う店だったそうですが、品を包む箱や飾り紐に凝り始めたところ、贈り物に向いていると評判になりましてね。今では若い貴族が女性への贈り物を求める店として、すっかり名が通っていますよ」
妙に詳しいビオンの説明を聞いて、アルベルトはいまひとつ腑に落ちない様子で呟いた。
「品そのものではなく、包み方を目当てに店を選ぶのか?」
「さあ……ですが、貴族令嬢の間では人気らしいですよ」
「君も貴族令嬢だろう?」
「申し訳ありません。普通の貴族令嬢のことは、少々……」
セリアが真顔で答えると、部屋の中に何とも言い難い沈黙が落ちた。
今も騎士服を隙なく着込み、背筋を伸ばして立つセリアからは、たしかに夜会の衣装や贈り物に心を躍らせる令嬢の姿を想像しにくい。もっとも、ひとたび相応の恰好をすれば、高位貴族の令嬢として申し分なく振る舞うこともできるのだが。
アルベルトは微妙な空気を断ち切り、話を戻す。
「それで、令息は店で何をしていた?」
「預けていた贈り物を受け取ったそうです。店を閉める時刻は過ぎていましたが、前もって頼まれていたため店の者が残って待っていたと」
「ん?」
ビオンが不思議そうに首をかしげた。
「屋敷を抜け出したのは夜ですよね。しかも、かなり遅い時間だったはずです。そんな時刻に贈り物を受け取って、どうするつもりだったのでしょう」
「このような状況だからこそ、会いたい相手がいるじゃないですか」
「婚約を破棄し、謹慎を命じられたその夜に、恋人のもとに向かうとは……」
二人のやり取りを聞いていたヴァルシークが、呆れを隠そうともせずに結論を口にした。
セリアは頷き、ビオンはようやく得心したように「ああ」と声を漏らす。その様子を横目に見ながら、アルベルトは卓上に置かれていた別の書面を手に取った。
「もう一つ、王宮医務局から遺体を詳しく調べた結果が届いている」
三人の視線が集まるのを待ってから、アルベルトは書面に目を落とした。
「身体に現れた徴候だけなら、考えられる毒は一つではない。だが、胃の中からローデンの球根に特有の繊維が見つかったそうだ。ローデンが何に混ぜられていたかまでは分からないが、死因はその中毒で、口から摂取したものと見てほぼ間違いないとのことだ。一方、自室から持ち帰った水差しの水には、毒は認められなかった」
セリアの表情が引き締まり、意気込むように卓に身を乗り出した。
「令息は夜会で何かを口にしたという証言はなく、屋敷に戻ってからは食事をしていません。そうであれば、恋人と会った場所か、そこに向かう途中で立ち寄った店などで口にしたものに、毒が含まれていた可能性が高いと思われます!」
アルベルトは一度頷き、書面を卓上に戻した。
「恋人があの夜どこにいたのか、まずそれを確かめろ。令息が屋敷を出てからどこに向かい、誰と会い、何を口にしたのか。一つ残らず明らかにするぞ




