1-1 アルベルト・グランツ
「近衛騎士団、アルベルト・グランツです。この度のこと、お悔やみ申し上げます」
「副団長自らとはな」
ヴァルディオ・グレナート伯爵は、そう低く返した。
夜会から一夜が明けたばかりのグレナート伯爵家には、まだ混乱の気配が色濃く残っていた。応接室でアルベルトと向かい合う当主の顔にも、短い間に刻まれた疲労が浮かんでいる。
「それで、要件は?」
「王宮より命を受け、昨夜の騒動とご子息の死について調査に参りました」
「近衛騎士団が、わざわざか?」
「ご子息は昨夜、王宮で騒動を起こし、今朝の出頭を命じられていました。その直後の急死となれば、憶測を放置するわけにはまいりません」
「憶測、ね」
ヴァルディオはかすかに目を細め、探るような視線をアルベルトに向けた。
わざわざ近衛騎士団の副団長を送り込んだ理由が、社交界の噂だけだというのか。その視線はそう問うているようだった。
その疑問はもっともで、近衛騎士団の本来の任務は王宮の警護と王族の護衛にある。王命があれば王都や高位貴族に関わる事件にも動くが、一伯爵家の屋敷で起きた変死まで調べに来ることは、あまりない。
しかし、婚約破棄を宣言した令息が、その翌朝に急死したのだ。昨夜の騒動の噂はすでに社交界を駆け巡っており、死因を曖昧なままにすれば、そこに無責任な憶測まで加わるだろう。
まして、昨夜の夜会を主催したのは第二王子だ。
万一、王宮内での出来事がユリディスの死に関わっていたとなれば、問題は一伯爵家の不幸では済まない。
第二王子の立場だけでなく、王家そのものにまで傷がつきかねなかった。
もっとも、そこまで説明するつもりはなかったが。
「ご当家としても、ご子息の死因を曖昧なままにはしておけないでしょう」
代わりに、アルベルトは穏やかな笑みを浮かべたまま告げた。
そう言われて拒めば、かえって疑われる。ヴァルディオは小さく息を吐いた。
「それで、具体的には何をすればよい?」
「まずは、ご遺体と発見された部屋を拝見したい。その後、ご家族と使用人の方々から、昨夜の経緯を伺います」
「分かった。手配する」
「ご子息の死亡を確認したのは、どなたですか?」
「我が家の医師だ。彼にも立ち会ってもらおう」
傍らに控えていた執事は、ヴァルディオの指示を受けて一礼すると、言いにくそうに付け加えた。
「かしこまりました。ただ、先生は現在、奥様のおそばにおりますが」
「……ああ、そうだったな。医師には、こちらに来るよう伝えてくれ」
そう命じてから、ヴァルディオはアルベルトに向き直った。
「妻は朝から臥せっていてね。できれば……」
「お察しします。どうしても奥様に確認すべきことがあれば、事前に伯爵にお伝えします」
「頼む」
短く答えたヴァルディオは、ほんのわずかに頭を下げた。
それは近衛騎士団の副団長とはいえ、まだ若いアルベルトに対して伯爵家の当主が見せるには意外な仕草だった。
アルベルトは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに礼を返し、執事の案内に従って応接室を後にした。




