4-5 捜査終了
アルベルトが近衛騎士団の会議室に戻った時、三人の部下はすでにそれぞれの席で待っていた。
ディートリヒへの聴取に向かう前、アルベルトの気分は晴れていたわけではない。それでも、ようやく事件を前に進められるという確かな手応えはあった。聴取を終えれば、その結果をもとに新たな調査や今後の手続きを話し合うつもりだった。
だが聴取を終えた時には、集めた事実の意味を取り違え、一人の男を犯人と決めかけたことへの後悔と、リゼリアーナへの怒りで、それどころではなくなっていた。
そして今。
扉を閉め、長卓に向かうアルベルトの足取りは、出ていった時より明らかに重かった。
「副団長……どうでした?」
期待を隠せず真っ先に立ち上がったセリアは、アルベルトの表情を見た途端、声を僅かに弱めた。隣ではヴァルシークも椅子に深く腰掛けたまま、様子を窺うように目を細めている。
「どうも、うまくいったようには見えませんな」
ビオンも何か言いたそうにアルベルトを見ていたが、珍しく口を挟まなかった。
アルベルトは椅子に腰を下ろすと、両手を卓上で組み、しばらく木目を見つめてから口を開いた。
「……ああ。詳しい事情を話すことはできないが、ディートリヒ殿には、あの空白の時間の行動を証明できる者がいた。薬入れが休憩室に落ちていた理由も、矛盾なく説明された」
「そんな……」
セリアは思わず卓に手をつきかけ、寸前で思いとどまった。それでも納得しきれない様子で、アルベルトを見つめる。
「しかし、エルヴェイン家がローデンを購入していたことは事実です。使用量と在庫が合わなかったことも、薬入れからローデンが検出されたことも……」
アルベルトは、セリアの調査そのものまで否定しないよう、慎重に言葉を選んだ。
「それらが間違っていたわけではない。ただ、どちらにもユリディス殿の死とは関係のない事情があった、ということだ」
セリアはなおも何か言おうとしたものの、明かせない事情があると理解したのだろう。やがて視線を落とし、自分の前に置かれた資料の端を指先で押さえた。
調査で得た事実は残った。ただ、それらが示していると思っていた答えだけが崩れたのだ。
若い二人の間に落胆が広がるのを見て、ヴァルシークが静かに問いかけた。
「では、振り出しですかな?」
「いや」
アルベルトはすぐに否定したものの、声を強めることはせず、卓を囲む三人の顔を順に見た。
「調べたことが無駄になったわけではない。我々が集めたものがあったからこそ、ディートリヒ殿に疑いを向け、それを確かめるところまで進めた。そして今、疑いの対象から、一人を確実に外すことができた」
自分たちの出した答えは確かに正しくなかったのだろう。だがそれで捜査が後退したわけではない。その答えが間違っていたという確かな前進なのだ。
何より、落胆する部下たちの前で、自分まで気落ちしているわけにはいかなかった。
アルベルトの言葉にヴァルシークは静かに頷き、セリアはまだ悔しさを残しながらも、僅かに顔を上げた。
「では、次は何を調べますか?」
「これまでと同じだ。令息が口にした物、事件までに接触した者、ローデンを入手できた者を、もう一度確かめる。集めた話の中に食い違いがないか、見落とした店や人間がいないか、最初から洗い直す」
「それしかありませんな」
「ああ。それしかない」
犯人に繋がる新たな道が見つからない以上、すでに歩いた道を引き返し、見逃したものを探すほかなかった。
アルベルトたちは、その日のうちに再び令息の足取りを辿り始めた。
夜会の前後に口にしたものを確かめ、屋敷や別邸で接触した可能性のある者に改めて話を聞き、王都警備隊が集めた毒物の取引記録にも目を通した。店や商会の帳簿を一冊ずつ確かめ、過去の揉め事や人間関係を確認した。
しかし翌日、状況は一変する。
彼らが次の糸口を掴むより先に、王太子府から一報が届いたのだ。
それは特務調査局が、ユリディス・グレナート殺害の犯人を捕らえたという報せだった。




