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万華鏡は月を巻き戻す  作者: 舞響


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8話 彼氏入門試験?と怪しい叔父

昼休みの屋上。

母からのメッセージをみて、私は朔に伝えた。


「来週、透さんが遊びに来るみたい。」


「わかった。

ねえ……」


「なに?」


「はじめての彼女宅訪問じゃん!

俺、緊張するんだけど!」


「まって!そもそも!付き合ってないんだけど!」


「いや……でも、彼氏でもないのに家に行くってさ、逆にどうなの?」


「え、別に“友達です!”でよくない?」


「えー、そこは“彼氏です”って言わせてよー」


そう言って拗ねる朔。

紙パックのジュースを飲みながら頬を膨らませてる。


……ちょっと可愛い。


でも、胸の奥がまた静かに軋む。


“彼氏”って言葉に照れる自分と、

“容疑者を探るために家に来る”という現実が、

同時に存在しているのが怖かった。


朔はどこまで本気で、

どこまで“未来の使命”で動いているんだろう。


その境界が、まだわからない。


そして土曜日。

その日はついにやってきた。


「あ、お母さん。友達が来るから。」


「え?そうなの?

透も来るけど。」


「別にこっちは気にしなくていいよ。」


「っていうか、なんで当日に言うのよ。」


母は呆れた顔。

そのタイミングで、玄関のチャイムが鳴った。


一足先に朔がやってきた。


「初めまして、七瀬朔です。

羽瑠さんと仲良くさせていただいてます。」


丁寧にお辞儀をし、爽やかに微笑む。

その瞬間、母の顔がぱぁっと明るくなる。


「やだ、かっこいい!

え!彼氏?彼氏なの!?」


母が興奮気味に私の肩をバシバシ叩く。


「違う。友達。」


「俺は羽瑠さんのこと大好きです!」


「やだ!良い子!!」


「もう、いいから行くよ!」


私は朔の腕をぐいっと引っ張る。

朔は引かれながらも、にこにこしている。


「あ、そうだ。

これ、駅前のプリンです。よかったら皆さんで。」


「やだ〜!気がきくじゃない!」


母のテンションは最高潮。

朔は爽やかに微笑んでいるけど、

その横顔を見ていると、胸の奥がまたざわつく。


「お邪魔しまーす!

うわ、なんか緊張する!」


「その割にテンション高くない?」


「え、だって羽瑠の部屋だよ!

好きな子の部屋とかさ、ウキウキするよね!」


「はあ。また適当なことを。」


「適当じゃないよ。」


朔は当然みたいな顔で言う。

その自然さが逆に腹立つし、ちょっと照れる。


「好きとかさ、簡単に言うよね。

正直よく分からない。」


「そう?

俺は羽瑠のこと可愛いって思うし、好きだなって思うけど。」


「それがわからないんだよ。

顔ってこと?」


「うん、顔も可愛い。

全部可愛い。」


即答。

迷いゼロ。

その真っ直ぐさが、胸の奥をざわつかせる。


私は頬杖をついて、視線をそらした。


「意味わかんない。」


言葉では突っぱねてるのに、

心のどこかがじんわり熱くなる。



ピンポーン。


来た。透さんだ。


私と朔は顔を見合わせ、息をひそめて階段をそろりと降りる。

玄関の向こうから聞こえる声に、胸がざわついた。


「姉さん今日はありがとう。はい、これ……お土産。」


「ありがとう、透。

そうだ聞いてよ!

羽瑠がね、イケメンの彼氏連れてきたの!」


「そうなの?そういえばその人見たよ。かっこよかったよ。仲良く水族館デートしてた。」


「やだ!ほんと!」


二人は楽しそうに笑いながらリビングへ入っていく。

その明るさが、逆に不安を煽った。


「……ねぇ、どうするの?」


小声で聞くと、朔は真剣な顔で私を見た。

その目は、状況を冷静に見極めようとしている。


「うーん……とりあえず、もっと近くに行こ。」


その声は落ち着いているのに、どこか張りつめていた。


二人でそっと扉の前に立ち、耳を澄ませる。



「透……あなた、本気なの?」


母の声は軽く笑っているようで、どこか探るようでもあった。


「本気だよ。」


透さんの声は低く、迷いがなかった。

その一言に、空気がわずかに震えた気がした。


「それにしたって……こんな姿見たら羽瑠だって、なんていうか。」


……私?


朔と顔を見合わせる。

朔の眉がわずかに動き、表情が固くなる。


「それでも、俺は……諦めないよ。」


その声は、冗談でも軽口でもなかった。

胸の奥に重く沈む“覚悟”の音がした。



朔が小さく息を吸う。


「……行こう。直接対決。」


「え、ほんとに?」


「うん。逃げても、余計ややこしくなるだけだよ。」


朔は迷いなくドアノブに手をかけた。

その横顔は、どこか戦いに向かう人のようだった。


そして――

私たちはリビングの扉を開けた。


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