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万華鏡は月を巻き戻す  作者: 舞響


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7話 朔の存在

二人でファーストフードを持ち帰り、朔のアパートに入った。


「うわ、ポテトってこんな美味いの?」


朔は目を丸くし、まるで初めて文明に触れたみたいに感動している。


「え?食べたことないの?」


「うん、初めて。」


「へぇー。みんな食べてるものだと思ってた。」


「そっかー。

世界には美味しいものがいっぱいあるんだな。」


「大袈裟だなー。」


笑い合っているのに、胸の奥がざわつく。

“初めて”という言葉が、朔の存在を現実から少し浮かせているように感じた。


朔は手を拭き、表情を切り替える。

さっきまでの柔らかさがすっと消え、空気がわずかに張りつめた。


「さて、本題に入ろうか。」


その声に、背筋がひやりとする。


朔は押し入れから模造紙を取り出した。

私がこの前、うっかり開けてしまった場所だ。


紙の端が擦れる音が、部屋の静けさに妙に響く。


「そこのテーブルのゴミ、どかしてくれる?」


「わかった。」


私は紙袋やカップをまとめ、ゴミ袋に押し込む。

その間、朔は無言で模造紙を広げる準備をしていた。

横顔は真剣で、どこか遠くを見ているような目をしている。


テーブルの上を空けると、朔は模造紙を広げようとした手をふと止め、こちらを見据えた。


「ねぇ、この先聞く覚悟ある?」


「あるよ。教えて。」


「本当は、君が知らないうちに進めたかったんだけどなー。

……上手くできなかった。」


「…それで、どうして朔は未来から来たの?」


朔はふっと息を吸い、真っ直ぐに私を見た。


ぱさり、と紙が開く音。

その瞬間、空気が変わった気がした。


まるで、ここから先はもう戻れない場所に踏み込むような――そんな予感。



朔が模造紙を広げる。


ぱさり、と紙が開く音。

その瞬間、空気が変わった。


そして朔は、迷いのない声で言った。


「羽瑠は、8月13日の夏祭りの日に、殺されるんだ」


「え?冗談?」


頭を殴られたみたいな衝撃。

手足が一気に冷えていく。

笑ってほしくて、首を振る。

でも――目の前の朔は本気だった。


「待って……誰に?」


「それがわからない。

だから俺は、それを阻止するために来た。」


「……ま、まじか……

え、私、親より先に死ぬの?

待って、お爺ちゃんより先?

うそ……」


項垂れた私を、朔は静かに見つめる。


「ごめん。不安にさせて。

でも正直、俺だけじゃ限界なところもあって……

だけど絶対死なせない。

羽瑠は俺が守るから」


その目は、冗談の入り込む余地がないほど真剣だった。


「ねぇ……なんで?

なんで私のために?」


朔は一拍置いて、まっすぐ言った。


「一目惚れだから。」


「それ本気?」


「本気。」


「はあー……そっか……」


胸の奥がざわつく。

怖いのに、どこか温かい。

でもその温かさは、模造紙を見た瞬間に凍りついた。


そこには、私を中心に、私を取り囲む人物の名前や線がびっしりと書かれていた。


「……それにしたってさ。

なにこれ。朔は私のストーカーなの?」


「うーん。そうとも言えるけど、そうとも言えない。」


「いや、情報細かすぎない? こわいわ。」


私の行動パターン、交友関係、家族。

自分の人生が“事件の資料”みたいに整理されている光景に、背筋がぞくりとした。


――まるで、私の知らないところで、

私の人生がすでに“誰かの手”で動かされているみたいで。


「それで…この周りの人達が怪しい人?」


「そう。」


朔は淡々と答える。

その落ち着きが逆に怖い。


模造紙には、私の周りにいる4人の名前が書かれていた。

線で繋がれ、まるで“容疑者リスト”みたいに。


1人目――湯浅 透(40)

母の弟、つまり叔父。薬剤師。

妻・真実(37)、娘・友梨(5)の3人家族。



3週間に一度、私の家に来ている。

……けれど、家族にはそれを言っていないらしい。


「え、なんで言ってないの……?」


思わず呟く。

朔は視線を落としたまま、淡々と続ける。


2人目――及川 康(52)

近所のパン屋のおじさん。

私がメロンパンを買うと、必ずクロワッサンを“おまけ”してくれる。


「それ、ただの優しい人じゃないの……?」


「優しい人が全員安全とは限らないよ。」


その言い方が妙に冷たくて、背筋がぞくりとした。


3人目―速川 湊(18)

湊高校三年。サッカー部。人気者。

7月18日――夏休み前に私へ告白。

私は断ったとかかれている。


「……ってか私この人にこれから告白されるってこと?」


「そうだよ。

だから断られた腹いせか、愛によるものか…。」


朔の声が低く落ちる。


4人目――黒木 雅信(62)

黒木病院の院長。


「院長先生まで……?」


「むしろ最有力候補だったんだけど。

アリバイがあったんだ。」


淡々とした朔の声が、逆に胸を締めつける。


模造紙の上で、4人の名前が私を囲むように配置されている。

まるで、逃げ場がないみたいに。


「……ねぇ朔。

これ、本当に全部調べたの?」


「うん。

羽瑠を守るために、必要だったから。」


その言葉は優しいはずなのに、

どこか“覚悟”みたいな重さがあった。


胸の奥が、また静かに軋む。


「それでこのあとはどうするの?」


「まずは、一人目。

湯浅透。彼を調べる。

彼が来る日に、俺も羽瑠の家に行く。

そこで探りを入れてみる」


「うーん……ただお母さんとしゃべってるだけだけどなー。

でもなんで家族にそれを言ってないんだろう。

ってか……どうやって調べたの?」


「近所の公園で、奥さんと娘さんが遊んでた。

そこで他の人と話してるのを聞いたんだ。

“今日は仕事”って。

でもその日は仕事じゃなくて、羽瑠の家に行ってた」


「なんか……探偵みたいだね。」


朔は肩をすくめて笑う。

その笑顔が、妙に頼もしくて、妙に怖い。


そして、その日が思ったより早く来た。


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