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万華鏡は月を巻き戻す  作者: 舞響


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6話 お爺ちゃん


車椅子に座ったお爺ちゃんが、看護師さんに付き添われながら花壇の花を眺めていた。


「お爺ちゃん!」


私の声に、お爺ちゃんがゆっくり振り向く。


「羽瑠。どうした? 学校は?」


「今日はサボった。」


「そうか。」


「お爺ちゃんに会いたくなって。」


「まあ、せっかく来たんだ。話をするか。」


看護師さんに軽く会釈してから、私はお爺ちゃんの車椅子を押して近くのベンチへ移動した。

自分はその横に腰を下ろす。


胸の奥がまだざわざわしている。

朔の言葉が、頭のどこかでずっと反響していた。


「で、学校をサボってどうしたんだ? 嫌なことでもあったのか?」


「うーん、なんか。

よくわからない人がいるんだよね。」


「なんだそれ。」


「まだ会ってそんなに経ってないのに私のこと好きだって言うの。一目惚れって。

かといって、遊びで言ってるほど軽くもないような感じでさ。」


言いながら、自分でも整理がついていないのがわかる。

胸の奥がきゅっと締めつけられる。


「それに……なんかよく分からないの。

会ったことあるような懐かしさもあって。

変な感じの人。」


言葉にして初めて、

“怖い”と“惹かれてる”が同時にあることに気づく。

その矛盾が余計に苦しい。



「羽瑠もすみにおけないな。」


お爺ちゃんが目尻をゆるめて笑う。


「からかわないでよ。」


頬をふくらませなる。


「そりゃあ、もしかしたら未来から来たのかもな。」


お爺ちゃんは顎に手を添え、わざとらしく遠くを見つめる。

その仕草が妙に芝居がかっていて、思わず吹き出しそうになる。


「えー? なにそれ。」


「夢があっていいだろ?」


「まあ、そうだね。」



でも、もしもそれが本当だったら……

朔は何のために?

わからない。

確かめたい。でも、こわい。


胸の奥で、ぐるぐると渦が巻いている。

息が浅くなる。

お爺ちゃんの穏やかな声が、かろうじて私を現実につなぎとめていた。



そんなとき――


「お、サボり仲間が来たな。」


お爺ちゃんが視線を向けた先に、立っていたのは。


「朔……どうして。」


「学校早退したの見えてさ。駅に向かってたから、心配で来ちゃった。」


へにゃりと笑うその顔。

いつもの朔の笑顔なのに、胸の奥がざわつく。

“追ってきた”という事実が、どこか怖い。

でも、同時に少しだけ安心してしまう自分もいて、余計に混乱する。


「君は……」


お爺ちゃんが目を丸くした。


「なんだか不思議な気分だな。」


朔は軽く頭を下げる。


「こんにちは、七瀬朔です。羽瑠さんの彼氏です。」


「ちがう!」


サラッと嘘をつく朔に、思わず声が裏返る。

お爺ちゃんが笑いながら言う。


「なんだ、羽瑠やるじゃないか。こんな男前、なかなかいないぞ。

まあ、お爺ちゃんの若い頃には負けるがな。」


「また始まった……」


お爺ちゃんのいつもの冗談。

本当なら笑えるはずなのに、今日は妙に遠く感じた。


朔がここにいることが、

“偶然”じゃない気がしてならない。


胸の奥で、また何かが軋んだ。



お爺ちゃんを病室に送り届けてから二人で病院を出る。

外の空気は少し冷たくて、胸の奥のざわつきを余計に際立たせた。


「ねぇ……朔はさ。何者なの?」


自分でも馬鹿みたいだと思う。

でも、聞かずにはいられなかった。

怖いのに、知りたい。

知りたいのに、聞いたら戻れなくなる気がする。


朔は立ち止まり、ゆっくりとこちらを向く。


「俺さ……未来から来たって言ったら、信じる?」


その声は冗談じゃない。

軽さも、笑いも、逃げ道もない。

ただ真っ直ぐで、痛いほど静かだった。


風が吹き抜け、空気がひやりとする。


「……ほんと?」


「ほんと。」


「じゃあ信じる。」


「信じるの?」


「だって……信じてほしいんでしょ?」


言ってから、自分でも驚いた。

本当は怖いのに。

信じたら、何かが変わってしまうのに。


朔は一瞬だけ目を伏せ、困ったように笑った。

その笑顔は、嬉しさよりも“諦め”に近かった。


「ねぇ、教えて。

どうして未来から来たの?」


「うん。

とりあえず……俺の知ってることを話すよ。

ここじゃ目立つし、俺の家に行こう。」


「うん。」


返事をした瞬間、胸の奥で何かが静かに軋んだ。

“未来から来た”という言葉よりも、

朔の目に宿る、説明できない“哀しさ”の方がずっと怖かった。


まるで――

これから聞く話が、私の世界を変えてしまうと知っているみたいな目だった。

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