44話 三人の関係
私は看護師として
朔が研修医として
黒木巧が指導医として
同じ病院で働いている。
なんていう…状況だろう。
白衣の擦れる音、ナースステーションの電子音、
その中に3人の声が混ざる日常が、
いつの間にか当たり前になっていた。
「黒木先生相談いいですか?」
「うん、いいよ。」
黒木は相変わらず淡々としているけれど、
なんだかんだで、面倒見が良さそうだ。
朔の質問にも、丁寧に答えている。
そして、
奇妙な関係は続く。
休日の夕方。
ホットプレートの上でたこ焼きがじゅうじゅう音を立てている。
部屋に広がるソースの匂いが、なんだか懐かしい。
「俺、ウィンナーとチーズがいい!」
「たこ焼きなのに?タコ入れないの?」
私が口を開く。
「俺、タコよりそっちの方がすき。
巧先生はー?」
ゆるりと朔が黒木をみる。
「僕は…めんたいチーズかな。」
そう言いながら、黒木はくるっとたこ焼きをひっくり返す。
手つきが妙に慣れていて、思わず笑ってしまう。
こうやって、3人で過ごす時間も増えた。
朔が笑って、
私が突っ込んで、
黒木が呆れながらも付き合ってくれる。
病院ではそれぞれの立場があるのに、
家に集まればただの“仲間”みたいで、
不思議と心が落ち着く。
そして、朔とは生きているうちにやりたいことリストで
色々なことをした。
旅行にいったり、
食べ歩きしたり、
神社にいったり、
本当に会えなかった時間を埋めるように。
どこへ行っても朔は無邪気に笑って、
時々、大人の顔で私の手を握ってくる。
そのたびに胸が温かくなった。
同棲も初めた。
お揃いのマグカップ、茶碗、お箸。
楽しいことばかりだった。
お互い仕事の時間は不定期だったけど、
時間が合う時は、おはようからおやすみまで朔は一緒で手を繋いで眠りにつく。
はじめての喧嘩もした。
「朔さー、新人の可愛い看護師からベタベタされてニヤニヤしてたよね!」
「してないって!」
「してた!!」
「それいうなら、放射線技師の髪がツンツンしてるやつからご飯誘われてただろう?」
朔はむくれた顔で腕を組む。
その表情が昔と変わらなくて、余計に腹が立つ。
「何で知ってるの?
ってか、断ったし!」
「どうなってるの?俺たち公認カップルじゃないの?」
「いや、知らないけど。」
「ねぇ!巧先生これどっちが悪い!?」
「朔だよね!?」
そういうと、
「どうでもいいかな。
痴話喧嘩はよそでやってよ。」
黒木は淡々と返す。
本当に興味なさそうで、
でもその声にはどこか呆れた優しさがあった。
「えー。」
「黒木先生冷たい。」
「それより、鍋作ろうよ。
お腹すいた。」
黒木が立ち上がると、
朔もすぐに表情を切り替える。
「確かに!
俺野菜きる!」
「何鍋にする?
キムチ?」
「いいね。」
「君たちさ。二人とも腎臓いたわりなさいよ。
魚介の出汁を効かせた鍋にするよ。」
「はーい。」
3人でキッチンに立つ。
包丁の音、湯気の匂い、
笑い声が混ざる。
鍋の準備をしていると、
黒木がふと手を止めて、こちらを見た。
「なに笑ってるの?黒木先生。」
私は思わず眉をひそめる。
朔も同じように黒木をじっと見る。
「もしかして、なんか企んでる?
俺やだよー!先生をまた背負い投げして締め上げるの。」
黒木は少しだけ肩をすくめ、
鍋の具材をまぜながら、
いつもの無表情で言う。
「企んでないよ。
っというか…俺だって嫌だよ。
ただ…こうやって君たちの姿をみるのも楽しいね。」
その言い方は淡々としているのに、
どこか優しさが滲んでいて、
その声は静かで、
からかいでも、茶化しでもなくて。
朔がぽかんとし、
私は胸がじんわり温かくなる。
「先生丸くなったよね!」
私がそう笑うと
黒木は続ける。
「はいはい。ほら、早く座って。」
「そうだな!」
「食べよう!」
3人で鍋を囲む。
穏やかで楽しいひとときだ。




