43話 未来を繋ぐ万華鏡
そして、まずは――
「まさか僕に先に会いに来るとは思わなかったな。」
目の前の黒木巧は、
無表情に近いのに、どこか柔らかそうに笑っていた。
カフェの音楽がゆっくりと流れる。
「…いつ思い出したの?」
「17歳の時。」
「来るの遅かったじゃん。」
「守るためにも…並ぶためにも。
時間も経験も必要だったので。」
黒木は少しだけ目を細め、コーヒーを口にする。
「そう。
わりと冷静だ。」
「それで…羽瑠と近くにいる理由は何ですか?
もう殺す気はないですか?」
黒木は一瞬だけ視線を落とし、
それから静かに言った。
「…どうかな。
でも、契約したんだよ。」
黒木の声は淡々としているのに、
どこか遠い記憶をなぞるようだった。
「君があの日死にかけた時、
『もし腎臓移植できたら、私は貴方が人を殺したくなったり、一人で寂しいときに話し相手になる。
私、お姉さんに似てるんでしょ?
この先、生きてたらお姉さんが成長してるように見えるでしょ?』って。」
黒木は小さく息を吐く。
「それを間に受けた。
そして、羽瑠ちゃんも律儀にそれを守ってくれてる。」
「羽瑠らしい。」
「僕もね。
この関係、気に入ってるんだ。」
黒木は、ほんの少しだけ微笑んだ。
「だから止めてくれた君に…
感謝してる。」
その言葉は、
黒木巧という男の“本音”だった。
俺は静かに頷く。
羽瑠を守りたい気持ちも、
黒木が抱えてきた孤独も、
ようやく同じ場所で交わった気がした。
「あの。」
「なに?」
「羽瑠って彼氏います?」
黒木は、はぁっと呆れ気味にため息をついた。
「それはさ、本人に聞きなよ。」
「いやだって!これで結婚とかしてたら、俺立ち直れないんですけど!!」
「大丈夫だよ。いまはいないよ。まだ独身。俺の知っている限りは。」
「本当に?」
「それよりも。
今度の◯日、飲み会顔出しにきな。」
「わかりました。
ご指導よろしくお願いします!黒木先生。」
「はいはい。
それより…なんで医者になったの?」
そう言われて視線をおとす。
「俺を助けてくれたのは…羽瑠だけど。
それを形にしてくれたのは、医者だったから。」
「ふーん。」
少し歩き出してから、俺はふと立ち止まった。
「あ、黒木先生。」
「なに。」
「これからは俺も…貴方の話し相手になります。
俺が生きてるのも貴方のおかげだから。
でも…もしも羽瑠に危害を加えるつもりなら、
俺が貴方を殺します。」
黒木は一瞬だけ目を細め、
それから淡々と返した。
「これから医者になるやつのセリフではないね。」
「そうかもですね。
そうならないように頼みますよ。」
黒木巧――
かつて羽瑠を殺した男。
でも、未来は変わった。
羽瑠は生きている。
俺も生きている。
黒木も、もう“あの日の黒木”ではない。
きっと、
これからは良い方向に向かうはずだ。
俺はそう信じて、
まっすぐ歩き出した。




