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万華鏡は月を巻き戻す  作者: 舞響


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42話 未来を繋ぐ万華鏡

朔side


小さい頃から身体が弱く、腎臓が悪いと言われていた。

7歳のときに余命3年といわれた。


でも、その時に出会った羽瑠という子に一目惚れした。


俺よりもずっと年上で、

軽い口調で「私の腎臓あげられたらね」なんて笑っていた。


その笑顔が、

その言葉が、

子どもの俺には眩しすぎて。


そんな彼女から、

何か大切なものをもらった気がするのに――

それが何だったのか思い出せない。


そして…俺は10歳になった。


もうすぐ死ぬんだ。

大人になることも、

羽瑠に会うことも叶わぬまま。


そんなある日、病室の扉が開いた。


「どうも。」


白衣でもスーツでもない。

ただの私服の男が立っていた。

サラッとした髪が夕暮れに溶けていけように幻想的だった。


「だれ?」


「うーん。」


返答に困ったように笑う。

儚い雰囲気に思わず…。


「もしかして死神?」


そう言うと、


「あー、そうかも。」


ヘラっと笑う。


「そう。」


「怖くないのか?」


「うーん、わからない。

怖いけど、怖くないような。」


「へぇー可愛げのないガキ。」


「…。」


「悪いな。」


「え?」


「でも、多分お前も同じことをするよ。」


この人は何を言ってるんだろう。


「はい、これ返す。」


差し出されたのは、万華鏡。


「万華鏡。」


「そう。

もう俺には必要なくなる。」


「きれいだね。」


「じゃあな。」


そう言って、

その人はふっと消えるように病室を出ていった。


残されたのは、

手の中の万華鏡と、

胸の奥に残る“何か大切なもの”の感覚だけだった。

変な人…本当に死神だったりして。


そう思って目を閉じた。


死神に会ってから3日後、目を覚ますと

頬が濡れていた。

泣いた記憶なんてないのに、涙だけが残っていた。


そして――


俺の腎臓は機能が回復していた。


医者たちは口々に「奇跡だ」と言った。

まるで新しい腎臓に生まれ変わったみたいだ、と。


でも、俺は何も思い出さない。


胸の奥にぽっかり穴が空いたまま、

何か大切なものを落としたまま、

それでも時間だけが進んでいった。


それから、家族と海外で過ごした。


勉強もスポーツも人並み以上にできて、

飛び級で大学にも入学した。


けれど――退屈だった。


何をしても心が満たされない。

何かを探しているのに、それが何なのか分からない。


そんな中で、17歳になった俺は

亡くなった祖父母の家を片付けるために日本に帰ってきた。



8月13日。

夏祭りの夜。

遠くで花火が上がり、空が淡く光る。


古い押し入れの奥から、

小さな筒が転がり落ちた。


「これ…万華鏡?」


手に取って、思わず覗いた。


その瞬間――


視界が白く弾け、

まるで走馬灯のように映像が流れ込んできた。


羽瑠を救うために17歳の羽瑠に会いに行ったこと。

一緒に行った水族館。

遊園地。

寝落ち電話。

羽瑠の笑顔。

浴衣姿。

泣き顔。

名前を呼ぶ声。


そして、ようやく思い出した。


「羽瑠…。」


生きてるのか。

今どこにいる?

俺は――何をしていたんだ。


待って、腎臓。


Tシャツを捲ると、

いままでなかったはずの手術痕が

うっすらと浮かび上がっていた。


胸が熱くなる。

息が震える。


ようやく、

俺は“生きている理由”を思い出した。



羽瑠が生きてるか確認するために、

俺はネットで黒木巧を検索した。


あった…。


『蝶はやっぱり自由に飛び回っている方がいい。』


その言葉とともに載っていたのは、

蝶々がふわり舞う中に立つ、羽瑠の後ろ姿の写真。


日付は――最近だ。


生きてる。


胸が熱くなり、息が震えた。


今すぐ会いに行きたい。

抱きしめたい。

名前を呼びたい。


でも――


羽瑠に会いにいこうと思ったけど、

今会いに行っても17歳の俺ではきっと相手されない。


大人になって、

ちゃんと隣に立てるように。


そう決意して、俺は海外に戻った。


そこからの時間は、

まるで何かに追われるように必死だった。


勉強して、

飛び級で大学を卒業して、

医者になるために走り続けた。


全部、羽瑠にもう一度会うため。



21歳、4月。


俺は研修医として日本へ行くことになった。


胸の奥で、

ずっと失われていたはずの鼓動が、

ようやく“未来”へ向かって動き出した気がした。


「羽瑠…もうすぐ会える。」


そう呟いた声は、

震えていたけれど、

確かに希望に満ちていた。


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